第4話 最初の被害者
「―――というわけで!俺と石井は断じてお前の想像しているようなおぞましい関係じゃないからな!!」
石関先生は、見てはいけないものを見て保健室から逃げ出そうとした僕の肩をつかんだまま必死に弁明した…。
「は、はぁ…?そう…ですか…?」
保健室のドア開けて中に入ってすぐに、あんな場面に出くわしたら誰だって誤解するじゃん…!!
「そうだよ!先生はともかく、俺は彼女持ちだかんねっ!!ホモなわけねぇーじゃん!」
股間のチャックがフルオープンな坊主頭の男子生徒(たぶん先輩)も強い口調で言った。
「俺だってホモじゃねーよ!!こいつが勝手に、ズボンのベルトを外しはじめやがって…!!」
「えぇーっ!?先生が俺にチン毛見せろって言ってきたんじゃないですかぁーっ!!」
「言ってねぇーよ!!」
二人は、不毛な言い争いを(チン毛だけに…)始めた。
「はぁー…。もう、いいですよ…!よくわかんないけど、なんかわかったんで…。石関先生、昨日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
僕は、石関先生に昨日のことを謝りに来た。
溺れかけていた僕を助けて、介抱までしてくれて…あっ!あと、家の近くまで車で送ってもらったから…。
「別にいいって!気にするなよ。それより、身体は、もう大丈夫なのか?なんか顔色悪くないか?目に下に隈もできてるぞ?」
ギクッ…!?
やっぱ、医療従事者の人にはわかるもんなんだな…。
「あ―…これは、ちょっと、昨日の夜なかなか寝付けなくて…。先生、甘いの平気ですか?」
「はぁ?急に話を逸らすな…!寝付けなかったって、お前、寝てないのか!?」
「質問に質問で返さないでくださいよー!大丈夫です、少しは寝られたので。それで…眠くないのに横になってるのもなんかダルくて、クッキー焼いたので甘いの平気だったら、どうぞ~。」
僕は、綺麗な包装紙でラッピングした手作りクッキーを先生に差し出した。
「バカッ!そんなもん作って夜更かししないで、ちゃんと寝ろよ!!」
ガーン…!!!
先生は、僕の差し出したクッキーを受け取ってくれない…。
せっかく昨日のお礼に作ったのに……。
もしかして、甘いの嫌いだったのかな…?
「えぇーっ!?先生、そんな言い方なくない?こんな可愛い子ちゃんが作ってくれたんだよ~?先生がいらないなら、俺が貰っていい♡?」
坊主頭の先輩が物欲しそうに僕のクッキーを指差しながら言った。
はぁっ!?誰が…可愛い子ちゃんだって!?
「貰わねぇとは、言ってねぇだろ!ったく…!今日は、夜更かししないでちゃんと寝ろよ?」
ようやく先生は、僕のクッキーを受け取ってくれた。
「先生、いいなぁ~。今度は俺にもクッキー焼いてね、望月ちゃん♪」
「ふぁっ!?なんで、僕の名前知ってるんですか?てか、あなた誰ですか…?」
「あぁ~!ごめん、ごめん!俺は、2年2組の石井海人、君と同じクラスの石井夏海のお兄ちゃんでーす。君のことは、妹から聞いてるよ~。東京から来た転校生ちゃん、男子だけど小さくて可愛いって♡!」
石井夏海は、たしかに僕と同じクラスで席が近いからちょっと話したことあるくらいだけど…。
僕、女子にチビで可愛いと思われてるのか…?
なんかショック……。
「はぁ…。どうも……。」
「3組つぅーと、うちの部のやつだとコバケンとかいるんだっけ?俺、野球部のキャプテンなんだよね~♪」
「こばけん…?」
「小林だよ!小林健一だから、愛称でコバケン!あいつ、結構良い球投げんだけど、夏の大会で腕の筋を痛めてからずっと休部中なんだよなぁ~。」
ゲッ…!!
小林って、僕をいじめてるやつじゃん…!!
「なるほど…。小林は、怪我で野球が出来なくてフラストレーションが溜まって、生方と小渕と一緒になって望月をいじめてたわけか…!」
「えぇっ!?なんで、先生、僕をいじめてるやつらを知ってるんですか…!?」
「うえぇーっ!?望月ちゃん、コバケンにいじめられてんの!?こんな可愛い子をいじめるなんて…!部員の不祥事は、前X野球部キャプテンとして見過ごせねぇなぁ!!」
「そうだな。石井、お前から一度、小林と話をしてみてくれ。」
「はい!コバケンの野郎、いくら野球ができなくて不満が溜まってるからって…何の罪もない望月ちゃんをいじめるなんてぜってぇ許さねぇ…!!」
「ちょ、ちょっと…!二人で勝手に話を進めないでください…!!」
「安心しろよ、望月ちゃん!俺とコバケンは幼稚園からの付き合いなんだよ。生方と小渕もオナ中だったし、俺がガツンッと!愛と友情の鉄槌を!!」
ピンポンパンポーン♪(校内放送チャイム)
―――全校生徒にお知らせします。5限目の授業はクラス委員の指示に従って、各教室で自習を行ってください。
―――全教職員は、緊急職員会議を行いますので、至急、職員室に集合してください。
「5限自習!?やったぁ~♡!!6限の物理も自習になってくんねぇかなぁ~?」
石井先輩は、嬉しそうにその場でジャンプしながら叫んだ。
僕も英語の予習の宿題、自信なかったから助かったかも…♡
「馬鹿ッ!授業をほっぽり出して緊急職員会議なんて、ただごとじゃないぞ…!」
石関先生は、テーブルの上にある内線電話を手に取ると職員室に電話を掛けた。
「――もしもし?保健室の石関です…さっきの放送なんですが……。はい、わかりました…。すぐに、行きます。」
電話をしている先生の顔つきが険しくなった。
「先生…?何があったんですか?」
「小林が昨日から家に帰っていないらしい…。スマホも繋がらないから、昼前に家族が警察に捜索願を出したそうだ。」
小林が、昨日から家に帰っていない……!?
「先生!?それって、まさか…!コバケンが例のあの、連続失踪事件に…!?」
「まだ、そうと決まったわけじゃない。お前らの年頃なら、家族に反発して家に帰りたくない時もあるだろう?小林も、家に帰りたくなくて、どっかでフラフラ遊んでるだけかもしれないし…。」




