第22話 取調室
僕は、前橋市市内にある警察署に連行されてしまった…。
さすがに手錠はされていないけど、刑事ドラマとかで見たことある取調室に入れられた。
「―――改めて確認するが、君の名前は望月杏子、年齢16歳、前橋市立前橋X高校1年、20XX年 東京都世田谷区生まれ、父親は望月優、母親は望月花奈子、現在は母方の祖母である新井里子と前橋市大胡町在住…で間違いはないかな?」
強面の赤城刑事は、言い淀むことなく僕の個人情報を読み上げた。
「はい…。」
この人、警察というより、どっちかっていうと取り締まるられる方の人(ヤクザとか!)みたいに、厳つい顔をしてて…剛毛な太い眉と目力のあるギラギラとした黒い目に、威圧感のあるへの字の口!!
まる獰猛な肉食獣のターゲットになった草食動物の気分だよ…!
いったい全体、なんで僕があの連続失踪事件のことで事情聴取されなきゃならないんだよー!?
「君は、今年の夏にご両親を交通事故で亡くされたんだね?」
「はい。」
「そうか…。辛かったな…。」
赤城刑事は、同情的な声で言った。
別に…。
僕は、事故のショックで両親の記憶が全くないから、辛くも何もないんだけど…。
「私にも君と同い年の息子がいるんだ。高崎のとある男子校に通っているんだが…身体は大きくなっても、中身はまだまだ子どもでね…。そんな我が子をひとり残して、先立つなんて……父親として想像を絶するよ。」
赤城刑事は、目頭を押さえながら声を震わせて言った。
この人、こんな強面なのに、割と情にもろいのかな…。
あと、高崎で男子校って、群馬県内屈指の進学校「高崎高等学校(偏差値70)」しかないんだけど…。
「あの……それで、なんで僕が例の失踪事件のことで、取り調べを受けなきゃなんですか…?」
「おぉ!そうだった…。望月君、単刀直入に聞くが――君は、同じクラスの小林健一、小渕啓介、生方誠太郎の3人からいじめを受けていたんだね?」
なんでそれを…!?
あ…っ!もしかして、石関先生が話したのかな…?
「石関先生が話したんですか…?」
「いや、たしかに石関先生からも事情聴取を受けてもらったんだが…。いじめのことは、現在失踪中の小林健一の身辺捜査中に分かったんだ。コレを見てくれ。」
赤城刑事は、大型のタブレット端末をテーブル上に置くと、動画のファイルを開いた。
タブレット端末の画面に―――僕が小林達に制服を脱がされている姿が映っている!?
「この制服を脱がされているのは、君で間違いないね?」
「なっ、なんで…!?」
「この動画は、小林君の自宅の自室にあるパソコンに保存してあったものだ。事件の捜査のために、小林君のご両親に許可をいただいて自宅を捜索している時に見つかったんだ。」
小林の糞野郎ォ…ッ!!
まさか、スマホだけじゃなくて、パソコンにまで僕のいじめ動画を保存していやがったのか!!
「同様の動画がいくつも保存されていた。望月君、彼らが君に行った行為は、いじめや悪ふざけの域を超えている。これは、もう立派な犯罪行為だ。未成年だからといって、決して罪に問われないことはないんだよ。望月君、もっと早く学校か我々警察を頼ってくれれば、良かったのに…」
言えるわけないじゃん…!!
あんな恥ずかしい動画撮られて、脅されてたんだから…!!
「それから、コレも君のものだな?」
赤城刑事は、テーブルの上にチャック付きのビニール袋に入った、白いハーフパンツと青系のチェック柄のトランクスを置いた。
これは…!!
僕が、小林達に体育倉庫に閉じ込められた時に履いていた物だった…。
失禁した僕に、小林が脱ぐように脅してきて…
「これらは、小林君の自室の鍵付きの引き出しの中から出て来たんだ。この白のハーフパンツは、君が転校前に通っていた私立氷室学園指定の体操着だね?それに、小林君の母親の話では『息子はボクサーパンツしか履かない』そうだ。
この2点は、君がいじめを受けている動画の中で、君が小林君に命じられて脱がされた物で間違いないね?」
「はい……。」
あの後、僕の失禁で汚れたハーフパンツもトランクスも小林に没収されて…
小林の体操着のズボンを履かされて、制服に着替える余力もなくって…そのままノーパンで家まで帰ったんだっけ……。
「望月君。これは、私の個人的な推測なんだか…小林君は、君に対して好意を持っていたんじゃないかな?」
あの糞ウンコの小林が僕のことを好き…!?
「はぁあああ―――っ!?そんなわけないでしょう…!?小林のやつ…!僕、一昨日あいつに殺されかけたんですよ!?」
「あぁ。そのことは、石関先生から聞いているよ。小林君が失踪した日に、君が利根川の河川敷で服を脱がされて寒中水泳させられて、溺れかけて低体温症にまでなったと…。」
「それで、僕を疑ってるんですか!?そりゃあ、たしかに僕はあいつのこと、死んでほしいくらい大っ嫌いですよ!!僕は、正直、あいつがいなくなってくれて清々してますよー!でも、それだけで僕を小林失踪事件の容疑者にするなんて…!!」
この刑事さん大丈夫か…!?
小渕と生方の低脳コンビと発想のレベルが一緒じゃん…!!
しかも、小林が僕に気があるんじゃないかなんて…そんな見当違いなこと言ってるし!!
「望月君、何か勘違いをしているようだが…。私は、君を事件の容疑者としてここへ呼んだわけではないんだよ?」
「えっ…!?」
「話を戻すが、一昨日の小林君の足取りは、君も石関先生から聞いているね?」
「はい…。あいつは、溺れかけてる僕を置き去りにしやがって…!それから、塾に行って、小渕たちと別れてからの足取りがわかっていないんですよね?」
「あぁ。昨日までの時点ではそうだったんだが、その後、市内の防犯カメラや市民から提供されたドライブレコーダーに記録された映像を解析したところ、塾を出てからの小林君の足取りが分かって来たんだ。」
赤城刑事は、タブレット端末で前橋市内の地図を開いた。
「ここが、小林君の通っている市内の中心街にある進学塾だ。彼の家は富士見町の時沢方面だから、塾から県道4号線を真っ直ぐ進んで行く。だが、小林君が失踪した日の足取りは、自宅がある時沢を過ぎて、なぜか県道34号線――いわゆる渋川大胡線を大胡方面に進んで行っている。
おそらく、小林君は、大胡方面にある君の自宅を目指していたのではないかと私は推測したんだ。」
「なっ、なんで!?なんで、小林が僕の家に…!?」
「小林君は、12月の寒空の下で君を利根川で泳がせたことをさすがにやり過ぎたと思って、君の安否を確認しに自宅に向かったんじゃないかな?」
「そんな…!?馬鹿な…!?」
「望月君。実は、私の息子と小林くんは同じ少年野球チームに入っていたんだ。小林君は、小学2年生の時に――チームメイトの上級生の少年から性被害を受けてね…。」
小林が性被害って…たしか、小林のお母さんも言ってたような…。
「加害者の少年は、未成年で初犯だったが、犯行の悪質性から少年院に送られた。当時の小林君は、幼過ぎて自分が何をされたのか理解できていなかったらしいが…。性被害を受けた被害者の中には、自分が受けた行為を正当化するための認知の歪みや、フラッシュバックによる心理的ストレスから、他者に対して性加害を行ってしまうことがあるんだ…。」
「それで…。小林は…僕に……。」
「あくまでも私の推測だ。小林君が君をいじめたっきかけは、そうだったのかもしれないが…。小林君は、本気で君のことを思っていたんだと思うよ。」
赤城刑事は、タブレット端末を操作して、ネットの検索履歴のようなものがまとめられた画面を見せた。
「『いじめ 仲直りの仕方』『謝り方』『誠意が伝わる謝罪』『東京都民 好きなもの』『東京 贈り物 食べ物』…これらは、小林君の直近の検索履歴だ。少なくとも、小林君は君と仲直りがしたかったんじゃないかな…。」




