第20話 引き裂かれた二人
僕は、化け狸のコロのモフモフの尻尾を片手で優しく握った。
『杏子様。一度、目を堅く閉じてから、ゆっくりと開いてください。』
僕は、コロに言われた通り、両眼をギュッと瞑ってから、ゆっくりと開いた。
すると、僕の視界に――――幼い頃のアンリが現れた!
『杏子様。今、貴方が見ているの光景は、6年前の夏終わりの杏璃様です。』
幼いアンリは、自室の天幕付きのベッドで眠っている。
あぁ~!懐かしい…!!
アンリは、プラチナブロンドの綺麗な髪を水色のリボンで結われていて、リボンと同じ色の可愛らしいフリフリのパジャマを着ている。
「―――はぁ……はぁ……っ。はぁ……はぁ………っ。」
アンリの小さな額には、熱冷まし用のシートが貼られていて、アンリは熱にうなされ、呼吸も荒くて苦しそうだ…。
「―――ふぁあ……。コロ…?……おいで……。」
アンリは、布団の中から小さな手を出すと、僕に向かって手招きしながらか細い声で呼びかけた。
そうか、これはコロの視点からアンリを見ているんだ…。
アンリの顏がどんどん近くなっていく。
たぶん、コロがベッドの上に這い上がってアンリのそばに近づいているからだ。
「コロ…よく来たね…。ふぅ……。ごめんね……。ボク、今日もダメみたい……。遊んであげられなくて、ごめんね……。」
アンリは、小さな手でコロを撫でながら、すまなそうに言った…。
「はぁ……。もう、夏休み終わっちゃうのに……。アンズ……一度も来てくれなかったなぁ……。」
アンリは、悲しそうに言った…。
「コロ…。ボク…アンズに嫌われちゃったのかなぁ…?ボクがすぐお熱を出すから………っ。ボク、アンズみたいに鬼ごっことか、木登りとかできないし……。ボクなんかと一緒にいてもつまらなかったから……っ。アンズ……もう、ボクのうちに遊びに来てくれないのかなぁ……っ?」
アンリは、青い瞳に涙をいっぱい溜めて、今にも泣き出しそうだった。
違うよ!!
僕は、アンリのことを嫌いになんかなってないよ!!
アンリは生まれつき身体が弱いから熱を出すのは、仕方のないことだし…
身体をいっぱい動かすような遊びは、できなかったけど―――アンリとおしゃべりしたり、広いお屋敷の中でかくれんぼしたり、メイドさんのお菓子作りを一緒に手伝ったり……!!
そうだ…僕は、クッキーの作り方をアンリのお屋敷のメイドさんから教わったんだった…。
僕は、アンリと一緒にいられるだけで、楽しかったんだよ?
僕は、アンリの無邪気な可愛い笑顔を見ているだけで、とっても幸せだったんだよ?
毎年、アンリと過ごせる夏休みが待ち遠しくて…!!
「―――杏璃、入るわよ?」
ドアをノックする音と共に、アンリのお母さんが呼びかける。
「あっ!ママ、ちょっと待って…!コロ、早く隠れて…っ」
アンリは、涙で潤んだ目をパジャマの袖で拭き取りながら、コロにベッドから離れるように小声で言った。
コロは、アンリのベッドの下に潜りこんだらしく、視界が暗くなった。
「杏璃、具合はどう?――あらぁ……お熱が全然下がらないわねぇ?」
「うん……。ママ……ごめんね……。」
「あら?どうして、杏璃が謝るの?」
「だって……ママ……。アンリの病気のせいで……ママにも、いっぱい…迷惑かけちゃってるから……っ。ごめんね、ママ……っ。アンリが……こんな、体のせいで……っ。ボクのせいで……ママがかわいそうで……っ!」
「杏璃…!!ママは、ちっとも迷惑なんかじゃないのよ?杏璃は、ママのいちばん大切な宝物よ。ママはね、杏璃が生まれて来てくれて、本当に嬉しかったのよ。ママは、杏璃と一緒にいられるだけで毎日幸せなのよ…っ。」
「うぅうう……っ!ママぁ……っ!ママぁあああ~~~~っ!!」
堰を切ったようにアンリが泣き出した。
アンリの泣き声に混じって、杏璃のお母さんの嗚咽も聞こえる…。
「杏璃…っ。私の杏璃…!」
「ママ…っ。アンリね……病院行くっ…!病院、コワイけど……アンリ…病気治したい…っ!アンリ、元気になって…アンズと遊びたい…っ!アンリが元気になったら…アンズ、またお家に遊びに来てくれるよね…?」
アンリ……!!
「杏璃…。本当にいいの?前に入院しようとした時は、検査が辛くて…一日でお家に帰って来ちゃったでしょう?今の杏璃は、病院に行くだけでも身体に大きな負担がかかるのよ?また、すぐに帰りたいなんて泣き喚いても、すぐにはお家に帰れないわよ?それでもいいの?」
「うん…!ボク、がんばる…っ!ボク、アンズと思いっきりお外をかけまわりたい…っ!アンズと一緒にプールにも行きたい…っ!アンズと一緒にお買い物したり、お店でごはん食べたい…っ!アンズとお祭りも花火も行きたい…っ!アンズと同じ学校に行きたい…っ!ボク…っ、アンズと、ずぅ~~~~~~~~~っと一緒にいたいんだよぉ…っ!!」
『――杏璃様は、健康な体になって杏子様に会いたい一心で県内にある大学病院に入院を決意したのです。幼い杏璃様にとって、病院での検査や手術がどんなに過酷だったかわかりますか?』
コロの言葉と共に、急に視界が切り替わって―――
今度は、白い病室の中で検査着を着た幼いアンリの姿が見えた。
ベッドで点滴を受けているアンリのか細い白い腕には……痛々しい黒い痣がいくつもできていた。
『あの痣は、日に何度も注射や点滴を受けているからです。』
一瞬視界が暗転すると、今度はプラスチックの桶のような物に青白い顔のアンリが苦しそうに嘔吐している姿が見える。
『処方された薬が合わなかったり、副反応であのように何度も嘔吐を繰り返すこともありました。』
また視界が暗転すると、病室にひとりぼっちでベッドの上で布団に丸まって震えているアンリの姿が……
「――うぅうう…っ。もう、病院やだよぉ……っ。うちに帰りたいよぉ……っ。ママぁ……っ!アンズぅ……っ。うぅ……っ!―――そうだ…っ、アンズに会うんだ…っ。ボク、元気になって、アンズと遊ぶの…っ!だから…もっと、がんばらなくちゃ…っ!ボクが元気になったら、きっと、またアンズ遊びに来てくれるもん…っ!!」
アンリは、涙でぐちゃぐちゃになった顔をパジャマの袖で何度もゴシゴシ拭きながら呟いた……
アンリ…僕に会うためだけに、あんな辛くて苦しい思いをしていたなんて…!!!
それなのに、僕は……!!!
「―――アンズ!?どうしたのー!?なんで、泣いてるの?」
僕の視界が現代に戻って来て―――僕の目の前に、僕の身体よりもずっと大きくなったアンリが、あの頃と変わらない綺麗な青い瞳で僕を見ている…。
「うぅ…っ!アンリ、ごめん…!!ごめんねぇ…っ!!」
僕は、胸が苦しくて、涙が止まらなくて、裸のまま泣き崩れた…。
コロは、いつの間にかいなくなっていた。
「アンズ…?」
アンリは、スケッチブックを置いて僕に駆け寄ると、僕の背中を優しく撫でてくれた。
僕の背中を撫でるアンズの手は、僕よりもずっと大きい……。
「アンズ、大丈夫?あー?もしかして、ずっと裸だから気分悪くなっちゃったのかな~?とりあえず、服着よっか?」
アンリは、僕の脱いだ制服を取りに行こうと、僕から離れようとするから―――僕は思わず、アンリに抱き着いてしまった。
「アンズ♡!?」
アンリが驚いたような顔で僕を見ている。
「アンリ…!!ごめんね…っ、僕、もうどこにもいかないから…!!」
僕は、アンリから、もう二度と離れたくない!!
僕は、アンリが好きなんだ。
アンリのことが、あの時からずっと変わらずに……!!
「アンリ…っ。僕、ずっと、君のことが……!」
「―――おい、誰かいるのか?入るぞー?」
ふぁっ!?
僕がアンリに大事なことを言いかけていた途中で―――聞き覚えのある声と共に、美術準備室のドアが開いた!!
「おぉ!望月、こんなところにいたのか、ア―――――ッ!?おっ、お前、なんで裸で聖に抱き着いてんだーッ!?」
石関先生が驚いた顔で僕とアンリを見ながら叫んだ!!
「石関先生ェ―ッ!?ほんっとに…!あんたって人はァ…!!なんで、毎度毎度こんな間が悪いんですか~~!?」
「はぁっ!?ふざけんなッ!それは、こっちのセリフだろー!?だいたい、お前ら、授業サボって、こんなところで、いったいナニを…!?」
「先生、別にいかがわしいことなんかしてませんよー?ボクは、アンズのヌードを描いていただけですよ。」
「授業サボってやることかよ…!?まぁ…とにかく、望月は服を着ろ。」
「あっ…。はい……。」
僕は、アンリに脱がされた制服を拾い上げて、着替えた。
「望月。悪いんだが、俺と職員室に来てくれ。」
えっ?なんで…?
「先生、アンズに何の用ですか?」
「聖、お前には関係のないことだ。具合が悪くないなら、さっさと授業に戻れ。」
「嫌です!ボク、アンズと一緒にいたいです♡!」
「また単位落として留年したいのか?お前は、ただでさえ出席日数が足らねぇんだぞ?」
「はい!そしたら、アンズともう一回2年生になって一緒に修学旅行行きます♪」
アンリと修学旅行…♡
「はぁ…?バカなこと言ってないで、授業に戻れ!」
「石関先生。話が変るんですが…僕、何かしました?急に職員室に呼ばれるなんて…?」
全く心当たりがないんだけど…?
「あぁ…。それは、職員室に行ってから話す。」
「―――失礼します。君が……望月杏子君かな?」
急にドアが開いて、スーツ姿の強面なおじさん(40~50代くらい?)がやって来た!
えっ!?
このおじさん、なんで、僕の名前知ってんの!?
「はっ、はい…。そうですけど…?」
「私は、群馬県警の赤城だ。君には、前橋市内の男子学生連続失踪事件の件で任意で話を聞きたい。」
強面のおじさんは、警察手帳を僕に見せながら言った。
「けっ、警察…!?なんで、僕なんですか…!?」
「望月君。詳しいことは署で説明する。」
群馬県警の赤城さんの後ろから、制服姿の警察官が二人やってくると僕を左右に取り囲んで連れて行こうとする!
「赤城さん!?話を聞くだけなら、わざわざ警察署まで行かなくても、職員室でいいじゃないんですか?」
「石関先生、一般教員は黙っていてください!ここからは、我々の管轄です。」
赤城さんは、石関先生も跳ね除けて、僕を連行しようとしている!
「待ってください!アンズがその事件と何の関りがあるんですか!?」
今度は、アンリが声を荒らげて、僕を取り囲んでいる警察官を押しのけて、僕の手を掴もうとする。
「アンリ…!」
僕もアンリの手を掴もうと手を伸ばした。
「本件は、君にも関わりのないことだ!」
「関係なくないです!!アンズは、ボクの……うぅっ…!?」
急にアンリの顏が蒼白くなり、その場に座り込んでしまった!
「アンリ!?」
「聖!!大丈夫か?」
座り込んだアンリに石関先生があわてて駆け寄った。
僕もアンリに駆け寄りたかったけど、警官二人にガッチリとホールドされてしまって近づけない!
「待って…!アンズを連れて行かないで…!!アンズ…!!」
アンリは、辛そうに手で頭を押さえながら、叫んだ。
「アンリ…!!」
いやだ!!
僕だって、アンリと離れたくないよ…!!
♡♡ちょっぴり長めの後書き♡♡
ごきげんよう!苺鈴です♡(*^▽^*)
ここまでお読みくださり誠にありがとうございます!!
ご感想&ブックマークをしてくださった読者様♡、執筆の励みになっております♡♡( ;∀;)
他の拙作の後書きでも何度も申し上げているのですが、星の数ほどある作品の中から「アン ころ もち」を見つけてくださり本当にありがとうございます♡!!
無料で楽しめるコンテンツがいくらでも溢れる中で、このようなニッチなローカルネタと下品な下ネタと作者の変態性癖詰め合わせの特級呪物をご愛読していただけるなんて、本当に感謝感激です♡!!
――さて、今回のお話なんですが、なかなか激しいジェットコースター展開だったと思います。
元々「アン ころ もち」を書こうと思ったきっかけは年末年始に手〇治虫先生の名作「ア〇ルフに告ぐ」を高校の時以来に読みまして……
高校生の時初めて読んだ感想が「カ〇フマンかわいそう…」で、30過ぎのおばさんになって読んだ感想も「カウ〇マンかわいそう…」でした…… (← まるで成長していない作者の感性)
というか、登場人物みんな戦争という時代に翻弄されてしまって……。戦争っていうのは、本当に残酷ですよね………。
という感じで、「アド〇フに告ぐ」読了後なぜか、ラブラブハッピーエンドなBLが死ぬほど描きたくなって♡!!「アン ころ もち」を書き始めました。
「アン ころ もち」は一応、BLがメインですが、「アドル〇に告ぐ」みたいに、ミステリーあり、ラブロマンスあり、ヒューマンドラマありの欲張りセットな大河作品を目指しています。(願望)
私事ですが、作者は昨日からガチ無職なので、来月から本格的に就活を始めてまいります…。
そんなわけで、更新ペースは落ちてしまうかもしれませんが……
どうぞ、最後までお付き合いしていただければ幸いです♡(●´ω`●)




