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上州義理人情伝「アン ころ もち」  作者: 苺鈴


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第2話 先生の実家

「こ…っ!これは、いったい…!?どういうことなんですかぁ~~~!?」 


 僕はフルチンのまま、バスローブ姿の不審者(なんだけど、どっかで見たような…?)に向かって叫んだ!


 不審者は、見た感じ歳は20代~30代くらい?で…


 僕よりも背がずっと高くて、濡れた黒髪をタオルで拭きながら僕を見ている。


 腕や足もバスローブから少しはだけた胸元も筋肉質で引き締まったガタイの良い身体をしていて、顔も割と整っている………けど!!


 未成年の僕をこんないかがわしいところに連れ込むなんて…!!!


 しかも、僕フルチンにされてるし…!!!



「まぁ、落ち着け。前橋X高の1年3組の望月……(あん)()?くん…?」


 この人なんで僕の学校とクラスまで知ってんの!?


「アンコじゃなくて、杏子(あんず)です!!ってか!なんで、あんた、僕のことを…!?」


「あー…。そっか。君、たしか転校生だったけ?俺は、X高の養護教諭の石関(いしぜき)だ。」


「ようご…?教諭?」


「わかりやすく言うと保健室の先生だ。」


「あぁーっ!なるほど…!だから、どっかで見たことあるような気がしたんですねぇ!でも…なんで、僕が先生とラブホにいるんですか…!?」


「安心しろ、このラブホは俺の実家だ。決して、お前をいかがわしい目的でここへ連れてきたわけではないからな。というか、俺はお前の命の恩人なんだぞ?川で溺れかけてたお前を助けて、ここへ連れて来て介抱してやったんだぞ?

 まったく…うちの生徒が川の近くで騒いでるってご親切な一般市民様から学校に苦情が来たから、行ってみればパンイチのお前が川で溺れかけて、低体温症まで起こしてやがるんだからなぁー。

 俺は、お前を助けるために川に飛び込んで全身ずぶ濡れで、おまけに先週買ったばっかりの新車のシートを水浸しに、」


「ちょっと!待ってください。先生、情報量が多すぎます!ラブホが実家って、どういうことですか?」


「だから、このラブホは俺のお袋が経営してんだよ。俺が小学校上がる前に親父が急死してさ…そんでお袋が親父の保険金と遺産でこのラブホを建てたんだよ。」


「なんでラブホなんですか…?」


「聞いてどうする?――そんなことより、お前はなんでこんな、()()()()()()(グンマー弁で「寒い」の意)日に川で水遊びなんて、東京で流行ってんのか?」


「先生もやっぱり、薄汚ねぇ前橋市民なんですね?」


「はぁ…!?お前、前橋市民に親でも殺……あっ!すまん…。お前の両親、夏頃に交通事故で亡くなったそうだな…?」


「別に気にしないでください。僕、全然平気ですから。ぶっちゃけ、僕――両親と過ごした記憶がないんです。」


「記憶がない?」


「えぇ。医師の話しだと、僕は事故の時に頭を強く打って、そのショックで記憶障害を起こしているそうです。それで、事故以前の記憶がほとんどないんです。あぁ、学力とか言語能力とか日常生活に支障をきたすような記憶障害は、ないんですけどね。事故以前の家族との思い出は、ぜんぶ綺麗さっぱり消えちゃってるんです。」


「そうか…。すまん、なんか踏み込んだことを聞いてしまったな…。」


「だから、気にしないでくださいよー。僕、なんにも覚えてないんですから!覚えてなければ、悲しくもなんともないですから。僕のばあちゃんも言ってました。きっと神様が僕が両親を失って悲しまないように、両親との思い出を消してくれたんだって…。」


「望月…。」



☎プルルルルルルルルルルル~♪


 ベッドサイドに置いてある電話が鳴った。

 

「先生、電話鳴ってますよ?」


「あぁ…。―――もしもし?『もしもし!あんた、夕飯どうすんのよぉー?』」


 受話器の向こうから、野太いおばさんの声が聞える。


 声デカすぎぃーッ!!


 先生も思わず受話器を耳から離した。


「――ママ…!声が大きいよ!そんなデカい声でしゃべんなくても十分、聞こえるから!それと、夕飯は自前で用意するからっ!!」

 

 ママ…!?


 電話の相手、先生のお母さんなのか!


 先生、お母さんのことママ呼びなんだ…。(意外)


「『えぇーっ!?今晩は、あっちゃんの好きなチーズハンバーグよぉ~!?ほんとにいいのぉ!?』――待って!後で食べるから、ラップして冷蔵庫に入れといて。『んもうっ!たまには、下でみんなで食べましょうよ~?』――ママ、俺まだ仕事残ってるから!じゃあ、もう切るよ!」


「先生。ママに『あっちゃん』って呼ばれてるんですねwww」


「うっせぇ…!あぁ、そうだよ!俺の名前、敦史(あつし)だから『あっちゃん』呼びで悪いのかー?お前こそ、杏子ちゃんなんて女の子みたいな可愛い名前してるくせによぉ~?」


「なっ…!?仕方ないじゃないですか…!名前は、親が勝手に付けたんだから…。ばあちゃんの話しだと、僕のお母さんの好物が果物の杏子だったからだって…。」


「アハハハッ!食い物の名前つけられるとか、ペットの犬かお前はwww」


「人の名前で笑わないでくださいよ~!僕の母方の従姉妹の3姉妹だって、親の好物の名前にされてんですよー。平仮名で上の子から「ぴいち」「べりい」「ぱいん」ですよ!僕のお母さんも叔母さんも姉妹揃って果物好きみたいですね…。」


「いや…多分、お前の叔母さんは別の意で名付けたと思うぞ…。(4人目が生まれたらおそらく「ぱっしょん」)」


「そうですか?」


「そんなことより――話を戻すが…お前は、なんでこんな真冬に川に入ったんだ?望月、単刀直入に聞くけど…お前、誰かにいじめられてんのか?お前の制服も鞄も、その中身も河川敷に無造作に放り出されていたし…。」


 先生は、僕の着ていた制服と鞄をベッドの上に置きながら言った。


「さっきも言ったけど、お前は、ほぼ全裸に近い状態で真冬の川で溺れて、低体温症にまでなってるんだ。はっきり言って、いじめとか悪ふざけの域を超えている。誰にやられたんだ?同じクラスの奴か?それとも、」


「あーっ!!もう7時過ぎてるじゃないですか~!先生、僕もう帰んないとばあちゃんが心配します!」


 僕は、わざとらしく壁掛け時計を見ながら、先生の言葉を遮るように叫んだ。

 

 ちなみに、ばあちゃんは昨日から老人会の旅行に行ってて家にはいない。


 僕は、いそいそとベッドの上に置かれた服を手に取って着替えた。


「望月。俺に話しずらいなら、俺から担任に言って、」


「先生、大丈夫です。僕、いじめられていませんから!」


「望月!無理すんなよ!子どもが大人に遠慮することないんだぞ?」


「先生。僕、こう見えて結構負けず嫌いなんです。子ども同士のトラブルを大人に解決してもらうなんて、なんかかっこ悪いじゃないですか?」


「望月!お前、そいつらに殺されかけたんだぞ!今日は、たまたま俺がいたから、助かっただけで…!」


「大丈夫ですよ、先生!僕は、死にません。――()()()に、また会うまで……僕は、絶対に死にません。」


 消えた幼い頃の記憶の中から、僕はちょっぴり思い出したんだ。


「あの子…?って誰だ!?」


「先生の知らない子ですよー。」


 僕もまだはっきりと思い出せていないけど……

 


 僕の初恋のあの子……



 僕がずっと小さい頃に、ばあちゃんちに遊びに来た時に出会った、あの子……



 前橋市で出会ったあの子……



「――それじゃあ、先生。僕、もう帰ります。出口はどこですか?」


「待て!家まで俺が車で送ってやるから。」


「ひとりで平気ですよ。」  


「帰り道分かんないだろ?ここ、前橋じゃないからな!!」


「スマホがあれば大丈夫です。バスもまだ…たぶん…あると、思いますし…。」


「いいから!ちょっと待ってろ!!」


 先生は、急いで着替え始めた。


「本当にいいのに…。」


「馬鹿!お前、ニュースも新聞も見てないのか?今、前橋市内で未成年の連続失踪事件が起きてるんだぞ!」



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