第19話 テレパシー
それから、僕とアンリだけの静かな時間が流れた。
裸でいるのも、初めは恥ずかしかったけど…一番見られたくなかった股間は、服を脱がされた時に見られてるし…。
その局部もタオルで隠されているし…。
静寂の中でアンリの鉛筆を走らせる音だけが心地よく響く。
アンリは、黙々と僕とスケッチブックを交互に見ながら、真剣な表情で描き進めいていく…。
アンリのこんな真剣な表情見たの初めてだ…。
「アンズ、大丈夫?疲れてない?少し、休憩しようか?」
僕の視線に気づいたのか、アンリは手を止めて、僕に向かって優しく言った。
「ううん!全然、平気だから、早く描いちゃってよ…!」
それでも、やっぱり裸でいるのは恥ずかしいや…。
裸をアンリに見られているのは、別に嫌じゃないんだけど…。
今は5限で今の時間は美術の授業はないけど、次の6限でどこかのクラスが授業で使うかもしれないし!
その準備のために美術の先生がここへ来るかもしれないから!!
「そんな急かさないでよー?ゆっくりじっくり丁寧に描きたいもん♡ 安心して、今日はもう美術の授業はないから。先生もこの部屋、暖房の効きが悪いから、授業がない時は職員室に籠ってるよ。」
「それなら…まぁ、いいけど……。」
「ボクだって、アンズの綺麗な身体を他の人には絶対に見せたくないからね。」
アンリは、僕が小林達にいじめられていたことを知ったらどう思うだろう…。
僕は、何度もあいつらに服を脱がされた…。
服を脱がされるだけじゃなくて……
「――あっ!コロだ~!どうしたの、コロ?まだ学校にいたのー?」
いつの間にか、僕の寝そべっているソファーの下から化け狸のコロが現れた!
コロは、短い前足で器用にソファーの上によじ登ると、僕の胸元にぴとっと丸くなって座った。
コロの柔らかいモフモフの毛が直に肌に当たって、僕はちょっとくすぐったい。
「ふふっ。コロもボクに描いて欲しいのかなー?よし!コロも一緒に描いてあげるね♪」
アンリは、優しい眼差しでコロを見ながら鉛筆を動かし始めた。
『――杏子様。わたくしめの声が聞えますか?』
急に僕の頭の中でコロの声がした!
「えっ!?コロ!?」
僕は、思わず声に出してコロに呼びかけた。
「アンズ?コロがどうかしたの?」
アンリには、コロの声が聞えていないみたいで、不思議そうに僕を見ている。
「ううん…!なんでもないよ…。」
『すみません、杏子様。わたくしめは、今テレパシーで貴方の脳内に直接語りかけているのです。化け狸は、モフモフ毛で対象者と触れ合うことでテレパシーを送りあえるのです。杏子様も言葉に出さずに脳内で僕に語り掛けてみてください?』
いわゆる、お肌の触れ合い通信だね。
『うん…。コロ…?僕の声、聞える?』
『はい!ばっちりでございます♪』
『ねぇ、コロはどうしてアンリの前では化け狸のこと隠しているの?』
『それは、本来、化け狸は人間に正体を知られてはならないからです!』
『じゃあ、僕に知られるのもダメなんじゃ…!?』
『そうですねぇ…。ですが、杏子様は特別です。わたくしめの恩人ですから♡!たとえ禁忌を冒してでも、わたしくしめは杏子様に恩返しをしたかったのです…。』
まさか、コロが禁忌を冒してまで僕のことを助けてくれていたなんて…!!
『コロ…。今日は本当にありがとう…!あいつらに絡まれてた僕を逃がしてくれたし(金〇に包まれたけど…)、僕があいつらに酷いことされた動画も画像も全て消去してくれて…!』
『いえいえ、あれぐらいお安い御用ですから♪杏子様は、杏璃様の大切なお方ですし…』
『僕がアンリの?』
『はい!杏璃様は、杏子様を深く愛しておられます…!!杏子様だって、そうでしょう?貴方も杏璃様のことを…!!』
『僕は………』
アンリは、僕の初恋だった…。
そう、過去形なんだよ…。
僕は、アンリのことを可愛い女の子だと思っていたから…!!
まさか、アンリが男だったなんて……。
『それが何だっていうんですか!?杏璃様が男だと何がダメなのですか!?』
コロが語気を強めて僕にレテパシーを送って来た!
そうか!直接、脳内で交信してるから、僕の思考はコロに筒抜けなんだ…!
『だって…僕、ホモじゃないし!!』
『杏璃様だって同性愛者では、ございません!男とか女とか関係なく、杏子様を愛しておられるのです。わたくしめは200年以上前から、老いも若きも、男も女も、様々な人間と出会って来ましたが……あんなにも純真無垢で身も心も穢れがなく、美しい人間は杏璃様ただおひとりです!』
コロは、丸い顔を持ち上げて、黒い小さな瞳を見開いて―――スケッチブックに鉛筆を走らせているアンリのことを愛おしそうに見つめている…。
『コロ……。君も、アンリのことが……!』
『君もと言うことは!杏子様も杏璃様を愛していらっしゃるのですね♡!』
『そっ、そうだよ…!!たしかに、僕は今でも、アンリのこと好きだけど…っ!だけど……』
『ハァ~…っ!もうーっ!貴方も男なら潔く腹をくくりなさいよッ!?どーせ、眉目秀麗で容姿端麗で誰からも愛される杏璃様と、自分みたいにチビで犬面で天パで遅漏で短小のフニャチン野郎とは釣り合わな~い(ぴえん)とか思って卑屈になってるだけでしょー?
そうですよ~!貴方みたいな、バカ犬系粗チン男子が杏璃様の恋人になろうなんて百億万年早いんですよ~www』
はぁーっ!?
僕、そこまで自分のこと卑下してないよ~~~!!
『ですが…杏璃様は、そんな杏子様のことをずっと……!ずぅ~~~~っと!お慕いしているのですよ!!
杏子様、なぜ6年前の夏休みから杏璃様のところへお泊りにならなくなったのですか!?それまで、ずっと夏休みには、杏璃様のお宅へお泊りにいらしていたじゃないですか!?』
『あっ…。あれは……その……』
6年前、僕は同じ塾に通っていた女の子に告白されて、付き合うことになって…。
彼女が出来て、アンリに会うのが気まずくなって、その年の夏からずっと行かなくなってしまったんだ…。
『ヒィ―――ッ!?貴方、小4の夏から杏璃様以外の女と乳繰り合っていたのですかぁ―――っ!?』
コロは、僕の思考を呼んでしまったらしい…。
『変な言い方しないでよ…!!だって…アンリとは、夏休みにしか会えなかったし……。アンリは、僕のこと、死んじゃったポメラニアンの代わりくらいにしか思ってなくて…。アンリだって、僕のことなんか、そのうち忘れちゃうと思ったから……。』
『ンアァ~~~ッ!!人間の子供というは…!本当に…!どこまでも愚かで…!残酷で…!罪深い……ッ!!!』
コロは、なぜか酷く落ちこんでしまったみたいで、丸い頭をがっくりと下げてしまった…。
『コロ…?大丈夫…?』
『杏子様。片手でいいので、わたしくしめの尻尾を掴んでください。』
『えっ?なんで?』
『化け狸の尻尾は、掴んだ相手に自らの過去の思い出を見せることができるのです。今から、杏子様にわたくしめが見てきた杏璃様のお姿をお見せ致しましょう…。貴方がいなくなった6年前の夏の杏璃様を……。』




