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上州義理人情伝「アン ころ もち」  作者: 苺鈴


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第16話 誤解

「聖先輩。最近は、どんな絵をお描きになっているんですか?」


 僕とアンリの対面に座っている石井さんが尋ねた。


 絵?


「う~ん…今は、ちょっと、体調が不安定でね…。特に描きたい物もないし…なんにも描いてないんだ。」


 アンリは、肩をすくめる仕草をしながらすまなそうに言った。


「アンリ。絵って、なんの話?」


 僕は、思わずアンリに聞いた。


「あぁ。ボク、美術部なんだよ。と言っても、実際に部活に参加したのは数えるくらいだから、ほとんど幽霊部員なんだけどねー。」


 アンリ、美術部だったんだ!!


「そんなことないですよ~!聖先輩の油絵、去年のコンクールでも入選してたじゃないですかー!聖先輩は、我が美術部の誇りですよ~♡!!」


 石井さんは、椅子から立ち上がると、頬を紅潮させて興奮した様子で叫んだ。


「うふふっ。なっちゃんは、本当に聖先輩の絵が好きだよねぇ~♡?」


 石井さんの隣に座っている福田さんが何かを悟っているような笑みを浮かべて言った。


「だっ、だって…!聖先輩の絵、本当に素敵なんだもん…っ♡!私、聖先輩の絵に一目惚れして、美術部に入ったんですよ…♡」


 石井さんは、慌てて椅子に座り直すと、恥かしそうにアンリから視線を逸らして言った。


 これは、まさに…想い人の前で恋する乙女の恥じらい♡!!!


「玄関前の廊下に飾られている聖先輩の『夏』って作品…私、あの絵をひと目見た瞬間、心を奪われてしまって♡!お恥ずかしながら…私は、芸術のこととか、専門的なことは全くの無知なんですけど……。私、あの絵が大好きなんです♡!!

 画面いっぱいに、夏の空と海の眩しい青、新緑の瑞々しい緑、夜空に弾ける花火みたいな閃光…まさに、あの一つのキャンバスに『夏』の全てが詰った宝石箱みたいで♡!!

 私、こんな素敵な絵を描かれた聖先輩に、お会いしたくって…っ♡!!中学までは、ずっとソフト(ボール)やってたんですけど、思い切って先輩と同じ美術部に…っ♡♡!!」


 石井さんは、黒い瞳をキラキラ輝かせて、恋する視線でアンリを真っ直ぐに見つめながら……熱のこもった声で言った。


 石井さんは、アンリのことが好きなんだ…。


「なっちゃん、玄関出入りする時いっつも聖先輩の絵見てるもんねぇ~♡?美術室にある聖先輩の作品も穴が開きそうなくらい見てますよぉ~♡?」


 福田さんがナイスアシスト!!


「んもうっ…!りっちゃん、余計なこと言わないでよ~っ!りっちゃんだって、先輩の絵好きなくせに…!」


「なっちゃんの聖先輩への愛には、負けるよぉ~♪」


「あははっ。可愛い後輩達にそんなに褒められると、ボクちょっと照れちゃうなぁ。」


 情熱的な恋に燃える石井さんに反して……アンリは、涼しい顔で軽口をたたいている。


 おいおい!アンリ、まさか石井さんの恋心に気づいてないのか!?


「実は、ボクもあの絵、気に入ってるんだ。ボク、季節の中で夏が一番好きなんだ。あの絵は――ボクの大切な夏の思い出を描いたんだよ…。」


 アンリの大切な夏の思い出……?


「えーっ!?聖先輩の大切な夏の思い出って何ですかー♡!?」


「なっちゃん!夏と言えば、恋よねぇ~♡?聖先輩!スバリ、この作品は先輩の真夏の恋の夢を描いたものではー♡!?」



「うん!あの絵はね、幼い頃のボクとアンズの夏の思い出を描いたんだ♡ アンズ、毎年夏休みになると僕の家に泊まりで遊びに来てくれていたんだよ!」


 アンリは、なぜか僕の肩に手をまわして抱き寄せながら言った。


「はぇ~!?聖先輩ともち君、随分親しげだと思いましたけど(お互い名前で呼び合ってるし!)…お二人とも、幼い頃からのお友達だったんですねー!私とりっちゃんも幼稚園からずっと一緒なんですよ~。ねぇ、りっちゃん♪」


 石井さんもアンリに調子を合わせようとしているのか、福田さんに軽くハグしながら言った。 


「そうそう、私となっちゃん大親友なんですよぉ~♪親友って、いいですよねぇ~?」



「ふふふ…。ボクとアンズは、親友以上の関係だけどねー♡」


 ふぁ――――――――っ!?


 アンリの衝撃的な一言で、和やかだった場の空気が一瞬で凍り付いた!!


「アンリ、変な言い方しないでよ…っ!!」


 石井さん達に誤解されちゃうじゃん!!


「えー?だって、本当のことでしょ?アンズ、ボクに『大きくなったら結婚しよう♡』って言ってくれたよね~♡!」


 あぁーっ!!たしかに、小3くらいの時に言った覚えがあるけど……!!


 あの時は、アンリが女の子だと思っていたからで……!!


「昨日だって、(保健室の)ベッドで僕の腕の中に抱かれながら『杏璃♡』って、僕の名前を愛おしそうに何度も何度も呼んでくれたでしょ♡?」


 それは、アンリと初めて会った日のことを思い出して、寝言で言っちゃっただけで…!!! 


「も、もち君と先輩が…一緒にベッドイン…!?お二人の関係は、もう、そんなところまでぇ~~~~!?」


 石井さんが両手を顔で覆って、今にも泣き出しそうになってしまっている!!


「石井さん、落ち着いて!!誤解だよ~~!!僕とアンリは、そんな深い関係じゃなくて…!!親友どころか、僕はアンリの……ペットみたいなものだから!!」


 僕は、アンリの死んじゃったポメラニアンの代わりみたいなものだから…。


「きゃあーっ♡!もち君が聖先輩のペット(所有物)♡!?なんですかそれぇ~♡!?そういうプレイなんですかぁ~♡!?」


 福田さんも何かとんでもない勘違いをしたらしく、顔を真っ赤にして興奮しながら叫んでいる!


「えっ?アンズ、ぷれいって何?」


「僕に聞かないでよ…!二人とも、本当に誤解しないで!!僕とアンリは、本当に何でもないからぁ…!!」


 僕は、いたたまれなくなって、調理室から逃げ出した。




 









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