第1話:入学式の日
東東京高校の入学式の朝、岡本ドアンは、ベッドの横の机からかすかに聞こえる目覚まし時計の音で目を覚ました。眠気で顔の感覚はまだぼんやりとしていた。新入生にとって大切な日であるはずなのに、ドアンは思ったほど特別な感情を抱いていなかった。
ベッドから起き上がり、小さなノートを手に取り、机の上に置く。昨夜準備した黒いペンはきちんと並べられていた。周囲のすべては整然としていたが、唯一生きているのは彼の思考だけだった。
「もう一年か…新しい章が始まる。でも、どんな物語になるか、まだ分からない」
ドアンはノートを軽く撫でながら考えた。彼の世界は物語で満ちていた。自分で書いた小説、作り上げたキャラクターたち。ノートの中の彼らこそ、彼にとって最も安全な存在だった。
準備を終えたドアンはキッチンへ降りた。家はいつも通り静かだった。父、岡本カグはゆっくりとコーヒーを飲み、母、岡本クリミヤは朝食の支度をしていた。妹のヨリカは、あまり話さずにご飯を食べている。
「ドアン、今日は早く起きたのね」母がかすかに微笑みながら言った。
「うん…」ドアンは小さな声で答え、まだカバンの中のノートを思い浮かべた。
朝食を終えたドアンはカバンを背負い、家を出た。桜が咲く通りを歩き、そよ風が吹くたびに花びらが服やカバンに舞い落ちる。
「花びらは、僕の物語のキャラクターみたいだ…誰にも見えない場所へと漂っていく」
通学路では、ほかの生徒たちが次々と集まってきた。友達同士で笑いながら歩く者もいる。ドアンは一人で歩きながら、すべてを細かく観察していた――笑顔、歩き方、表情。すべてが物語のインスピレーションになる。
学校の前に着くと、ドアンは少し立ち止まり、大きな校舎を見上げた。新入生でいっぱいの校庭、足音、笑い声、教師の呼びかけ…まるでここは自分の世界ではないかのように感じた。
静かな場所を求めて校庭の隅に立つ。隣には笑いながら話すグループがいるが、ドアンは気にせず、ただノートに書き留めることだけに集中した。
「みんなそれぞれ物語を持っている…そして僕にも、僕だけの物語がある」
入学式の集合を呼ぶ声が響く。ドアンは静かに歩みを進め、ノートを開いて書き始めた。
「人生の新しいページ…自分のペンと思考で書いていこう」
周囲の人々を観察する。友達を探す生徒たち、先輩たちの紹介、見つめ合う視線。静かでいても、彼の頭の中は休むことなく働いていた――すべてを見て、覚えて、心に描き、ノートに書き込む。
時間はゆっくりと過ぎ、ドアンは見たことすべてを書き留め続けた。新入生としての小さな不安、期待、孤独な気持ち――すべてが一行一行に刻まれる。ノートは単なるノートではなく、彼が自分を理解できる世界だった。
「これが…僕の世界。誰にも理解されなくてもいい。でも、すべての感情を記録できる」
入学式が終わりに近づく頃、ドアンは再び自分の思考を刺激した。窓の外を見ると、桜の花びらはゆっくりと落ち続けていた。心の中で小さく笑った。
「今年の最初のページ…新しい物語の最初のページ