第2話
「私は何をしてた…?」
夫が頭を抱えて呟いた。
夫は机の上で帳簿を見て、現実と向き合っている。
元恋人につぎ込んだ金額を目の当たりにして、
やっとろくでもない女と付き合ってたと
自覚したようだ。
「どうぞ」紅茶を差し出す。
帳簿をちらっと目にする。
…盲目の方が幸せだったかもね。
夫から元恋人がどうなったか教えてもらった。
婚約者から婚約破棄され、
慰謝料と結婚式代キャンセル料を
請求されているそうだ。
元々結婚式の費用は婚約者持ちだったそう。
徹底して自分の財布は使わない主義だったのね。
「ありがとう」
夫は疲れた様子で紅茶を口にする。
結局夫とはやり直すことにした。
反省してるし、新婚だものね。
このまま平穏に過ごせますように――
◇
「彼!君だけだって言ってたのに!」
私可哀想!と言わんばかりの表情で
彼女は訴えてきた。
そうですね、確かにそう言ってました。
夫の元恋人が家に突撃してきた。
やめてよ…夫は不在なのに、ついてない。
「しつこいから、仕方がなく!
デートしてあげたのよ!」
涙ぐんで被害者面。
その割には嬉しそうに貢いでもらってたよね。
「なのに急に取り立てなんかしてきて!」
机をバシバシ叩き、声を荒げる。
あなたが夫名義で散財してたから…
「しかも恋人に婚約破棄言い渡されたのよ!?」
目を見開き、涙をにじませながら叫ぶ。
あんないちゃつき方浮気判定待ったナシでしょ。
夫に「大好き♡あなただけ♡」と言ったの忘れたの?
「式目前だったのよ!?
料理も手配済みだったのに!!」
彼女の元婚約者のフットワークの軽さに脱帽。
戸籍に傷がつかなくてよかったじゃない。
「いっぱい招待状配ったのよ!!
大恥かかされたんだけど!?」
あなたの日常生活が既に痛々しいけど。
ショップでの態度悪すぎる。
「責任とってよ!!」
何の?
私は困惑した顔で
「そんな事言われても…」
「!そうよ!彼と別れてよ!」
「彼は私と結婚してもらうから!」
!?
斜め上すぎる提案。
呆気にとられて固まってしまった。
彼女はお得意のぶりっ子声で
「そうすれば全ておさまるじゃない!」
「結婚式も延期って言えばいいし〜♡
ナイスアイデアね♡」
「オーダーメイドのドレス
無駄にならなくてよかった〜♡」
斬新すぎる結婚式のスライド再利用…
発想力が豊かすぎる。
「ね!そう思わない?」
ニコニコしながら私に尋ねてきた。
思いません。
私は毅然とした態度で
「私は夫と別れるつもりありません。
そもそも正妻の前でよく言えますね?
私はあなたを浮気で訴える権利があるのですよ」
「浮気じゃないわよ!」
「知らなかったもん!既婚者だなんて――」
いやいや
「あなた、ご自分の知人に自慢していたそう
じゃないですか。「既婚者の金づるゲット!」って」
「!?はっ?い、言ってな…」
「証言は取れてますよ」
そう言って私は彼女の調査書を渡した。
あなたの知人達、
雇った探偵に根掘り葉掘り教えてくれたのよ。
人望ないのね。
「…」
彼女は真っ赤な顔して震えながら調査書を見て――
「知るかっ!!」
分厚い調査書を破り捨てた。
彼女のポテンシャルに感服。
それ予備だから破っても大丈夫よ。
鬼の様な形相で
「私は被害者だ!金寄越せ!」
請求がどんどん雑になってくる。
表情豊かね。
メイドが怯えるので
屋敷の警備員に連れて行ってもらった。
「ふざけんな!触るな!」
「訴えてやる!!」
だから何を?
警備員に引きずられながらも叫ぶ彼女。
自分の恥をこれ以上広めてどうするの…
彼女の声は次第に聞こえなくなり、
屋敷に静けさが戻った。
◆
「すまなかった…」
帰宅して早々夫に謝罪された。
屋敷の者が元恋人の訪問を伝えてたみたい。
「やはり…私には君だけだ…」
そう言って私の手を取った。
「…彼女に使った言葉を
再利用するのやめてください」
「!?す、すまない…」
私は遠くを見ながら
「…そういうセリフはもっと互いを知ってから
使うべきでは?」
「はい…」
夫はうつむきながら応えた。
そして顔を上げ
「次こそ…ちゃんと伝えて見せる」
今夜は月が綺麗だ。
月明かりが、二人のこれからを静かに
導いてくれるように願った。
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