やすりがけの先にあるもの
彼女はいつも、自分の指先を見つめていた。
剥がれた爪の表面は、ガタガタでざらついていた。
触れると痛みが走り、気になって仕方なかった。
ある日、そっとやすりを手に取った。
痛くなってもいいと思っていたけれど、驚いたことに、削るとまったく痛くなかった。
逆に、指先はどんどん平らになっていき、まるでスッキリとした新しい場所ができたようだった。
「これって、心と同じかもしれない」
彼女はそう思った。
心のざらつきや凹凸を、無理に隠したり、拒んだりするのではなく、
少しずつ、自分で丁寧に整えることができたら。
痛みを感じることなく、むしろスッと楽になる道があることを知ったのだ。
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時間がたつにつれて、彼女の心も少しずつやすりがけされていった。
ざらつきは滑らかに、尖った角は丸くなり、触れるのが怖くなくなった。
そして、以前よりも自分の指先も、心も、もっと大切にできるようになった。
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やすりがけの先には、痛みからの解放と、新しい自分との出会いがあった。
彼女は微笑んだ。
それは、スッキリとした指先と同じくらい、軽やかな笑顔だった。