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第九話 自分を鼓舞して


「はぁ……はあ……」


 呼吸を整え、口の砂を吐き出して振り返る。

 崩落の衝撃で砂煙が上がってよく見えないが、少なくとも後ろは他の通路はすべて埋まってしまったらしい。

 とは言え、ひとまず収まったようだ。

 凄まじい崩落だったが俺たちは……俺たち?


「そうだ、クリスタ!」


 クリスタの姿が見えないことを思い出し、俺は叫ぶ。

 だがしかし、心配は不要だったようだ。

 通路の先は、ムスッとした表情を浮かべる妖精の姿が見える。


「大丈夫ですよ、貴方と違って本当に」


 どうやらさっきの発言で本当に怒らせてしまったらしい。

 謝るべきだろうか。

 でも、クリスタを気遣って言った事には間違い無いわけで……

 いや、そんなことを考えるのは、後で良いな。


「ありがとう、おかげで助かった」


 まずは彼女に、感謝するべきだ。

 俺が諦めた可能性を掴み、俺を救い出してくれた。

 そうして俺が、心からの感謝を伝えると、腕を組み、俺に背を向けていたクリスタが、ピクリと反応する。

 だけどまだ、言葉が足りていないよな。


「それと……ごめん」

「……謝るのは私の方です」


 俺が全てを伝え終えたところで、クリスタが振り返る。

 彼女は……浮かない表情をしている。

 まるで、何かがが口から出かかっているようだから、俺はの方少しだけ、沈黙するべきなのだろう。


「咄嗟に念話の魔法を使っていなければヴァリウスはあのまま生き埋めになってました。感情に任せて爆破魔法を使いましたが、冷静になっていればもっと安全な方法で助け出せたはずです」

「そんなこと……」

「例えば、収納魔法を使って一つずつ岩をどかせば出口が塞がる事だって……」


 彼女はうつむきながら言葉を繋げていくが、そのうち言葉に詰まってしまったようだ。

 魔力を節約しろと言われておいて、派手な使い方をしたことを、気にしているのらしい。

 たしかに収納魔法で瓦礫を一つずつ収納すれば衝撃を与えずにどかすこともできただろうが……


「瓦礫にしか魔法を当てて無いのに、これだけ崩れたんだ。きっと瓦礫をどかしただけでも崩れてたさ」


 魔法の衝撃だけであそこまで……交差点全体が崩落するはずがない。

 俺を潰した瓦礫は天井まで伸びていた。恐らくはあれが支えになり、奇跡的なバランスで、更なる崩落を防いでいたのだろう。


「仮にそうだとしても……」


 クリスタは未だうつむいたままだ。

 今日の彼女は怒ったり落ち込んだり忙しいな。

 だけど、そんな無神経なことを口には出さない。

 それは、俺を大切に思ってくれている何よりの証明なのだから。


「……もう落ち込むのはやめにしようぜ。お前は俺を助けようとして、結果俺は助かったんだ。そして俺は、本当に感謝してる」


 だったら、彼女の気分を元に戻すのは俺の役目だ。


「それよりもこれからどうするか考えよう」

「……そうですね」


 クリスタは再度後ろを向き、掌でペチペチと顔を二回叩いた。

 そうして大きく深呼吸しながら顔を上げたら、振り返ったときには、元の表情に戻っていた。

 それは、きりりとしていてしたたかな、いつも通りの相棒の顔だった。


「帰り道は塞がり、私の魔力は殆ど尽きました。私はもう、飛んでいるのもやっとです」


 クリスタが空中でふらつきながらそう言う。

 なんでも妖精は、背中に生える羽だけで飛んでいるわけではないらしい。

 勿論、空中での姿勢制御や滑空くらいは羽だけでもできるそうだが、飛行自体はほとんど、浮遊魔法によるものであるそうなのだ。

 妖精の体は小さく、軽いので浮遊魔法にかかる魔力は極々少量。普段なら気にするほどのものではないとのことだが、それすらままならないとなると。


「状況は絶望的……か」

「……ええ」


 クリスタが地面に着地し、俺たちは共に座り込む。


「とは言え、全く手立てが無いわけじゃありません」


 確かに、文字通りまだ、道は残っている。

 左の通路の先……あの女性が消えた場所。

 そして『決して後は付けないでくれ』と言われた場所が、残っている。


「クリスタ、さっき魔力の反応がどうとか言ってたな、今はどうだ?」


 先程彼女は「左の通路の方から強い魔力の乱れを感じる」と言っていた。

 おそらく……というかほぼ確実に、先程の揺れの原因はソレだろう。


「今も変わらず……いえ、それどころかさっきよりも強くなっている気が……」

『ドォン!!!』

「ぐわっ!」「くっ!」


 収まっていてくれたりしないだろうか。

 そんな淡い期待は、再び訪れた衝撃によって打ち砕かれた。


「ゆっくり話をしてる時間はないみたいだな」

「ええ」


 多分だけど今の衝撃は、先程よりも強かった。

 幸いどこも崩れてはいないようだが、時間の問題かもしれない。


「この場所は今のところは大丈夫ですが、このまま揺れが続けばここも崩落するかもしれません」


 次はどうか分からない。

 この通路は一本道、後ろ側は塞がっているのでもう一方が崩れればなにも出来なくなる。

 ならば、やるべき事は一つだろう。


「クリスタ、俺の肩に乗れ」

「私はまだ……」

「少しでも魔力を節約するためだ、それとも、その小さな足で俺の後を追ってくる気か?」


 クリスタがムッとした表情になる。いつもの仕返しだ。

 こんな状況だからこそ、冗談を言って自分を鼓舞しなければならない。

 クリスタも理解してくれたようだ。

 少し不満そうにしながらも、彼女は飛行し、俺の左肩に捕まってくれた。


「それで、どうしますか?」


 口ではそう言っているものの、彼女も分かっているらしい。

 俺のシャツをグッと掴み、うつ伏せになって問いかけたのは、ただ確認のためだろう。


「決まってるだろ、あの女性を止めに行く。何をしているのかは知らないがこのまま遺跡を破壊されつくされたら俺たちの報酬に関わるだろ?」

「もう手遅れな気がしますけどね……」

「まあそう言うなよ……」


 士気を上げようとしたものの、いまいち締まらない。

 まあ、それでこそ俺たちらしいけどな。


「とは言え、それしか手はありません。間接的とは言え、こっちは生き埋めにされかけたんです。彼女から何故ここに居るのか、何をしているのかを聞き出して、この落とし前をつけさせてもらいましょう」


 どうやら鼓舞は、彼女に任せた方が良さそうだ。

 その証拠に、俺の身体は不思議な高揚感と、決意に満ちあふれていく。


「行きますよヴァリウス!」

「おう、しっかり捕まってろよ!」


 だから、そんな気持ちが削げないうちに。

 俺たちは共に、通路の奥へと走り出した。


「……ところで、もし通路の先に出口があれば女性を止めなくてもいいんじゃ」

「ヴァリウス……」

「……すまん」

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