第八話 殺人的な衝撃波
「別に置いて行って貰いたいわけじゃないさ。この遺跡はやけに細長いだろ?俺が思うにここは古代のトンネルか何かだと思うんだ」
俺はクリスタをなだめるように、俺は言葉を続けていく。
「そりゃ二人で行けるなら一番だけど、この揺れじゃ無事に脱出できるか怪しい。だからお前は帰還魔法で帰って、俺はここから一人で脱出し、奥の出口に向かう」
「そんなのできるわけ……」
「できるさ、少なくとも死ぬことは無いんだ、時間はかかるだろうけど生き埋めになったとしても脱出できる」
この分かれ道に来るまでに俺たちは数時間歩き続けていた。調査しながらとは言え、これだけの時間歩き続ければ山の横断くらい出来るはずだ。
「何たって俺は……」
まあ、こんな事言っても気休めにしかならないだろうが。
「不死身の傭兵ヴァリウスだぜ?」
それで彼女が助かるのなら、それでいい。
「………………」
自分で言って恥ずかしくなってくるセリフだが、どうやら彼女を説得できたようだ。
俯いて顔は見えないものの、クリスタが小声でブツブツと何かを詠唱しているのが分かる。
「クリスタ、お前は皮肉屋で何かにつけて俺を馬鹿にしてきたけど、お前と過ごした時間は本当に楽しかったし」
まるで遺言みたいだなと思いながら、俺はクリスタに語りかけていく。
今まで本当にいろいろなことがあった。クリスタ無しで俺はここまで楽しく人生を送れてはいなかっただろう。
しばらくの別れになるかもしれないし、これくらいのことは許してくれ。
「ヴァリウス……」
クリスタの詠唱も終わったようだ。クリスタはゆっくりと顔をあげていく。
その表情は、暗くて良くは見えないが、俺は彼女の言葉を聞き逃さないようにしなければならない。
だから俺は、彼女の声を脳裏に焼き付けるように、しっかりと耳を澄ましてから……
「バカじゃないですか」
どんでもなくドスの効いた声に、鼓膜を貫かれた。
「何が不死身の傭兵ですか? 何が本当に楽しかったですか! そんなどうしようもなくダサいセリフ吐いて終わるつもりですか!?」
「ださ……」
「もっと自分を大切にしてください! 私だけ守ろうとしないでください! あなたと二度と会えないくらいなら私は……!」
クリスタの両腕が赤く輝く。
詠唱は中断されていなかったようで、留め置かれた魔力が魔法を作り上げていく。
「この遺跡ごと埋まってやります! アルトブラスタ!!」
アルトブラスタ、最上位の爆破魔法。
そう、説明は必要ないはずだ。
術者のこめた魔力全てを、爆風に変えて放出するだけなのだから。
『――――!!!』
目を閉じても潰れてしまいそうなほどの閃光と共に、殺人的な衝撃波が瓦礫を通じて俺に伝わる。
聴覚に続いて視覚が破壊され、何も聞こえず、何も聞こえない。
瓦礫に埋まっていたのだから、触覚だってマヒしたままだ。
『前に跳んで!!』
だがしかし、土の味と焼け焦げた匂いの中、その声は確かに聞こえた。
声に従い、前方に全力で跳ぶ。
どうやらさっきの爆発で俺を潰していた瓦礫は吹き飛んだらしい。
『もっとです! 急いで走って!』
だがしかし、次の瞬間、マヒした感覚でも分かるほどに強烈な衝撃が俺のすぐ後ろで起こったのが分かった。
吹き飛ばされた物に変わって新たな瓦礫が落ちてきたようだ。
『ピキピキ』
『次は左です! 走って!』
戻って来た聴覚にその声と音が同時に聞こえる。
腕を床に突き刺すようにして無理やり立ち上がり、ぼんやりと空中に見える動く物めがけて全力で走る。
『ヴァリウス!!』
またしても後方から衝撃が伝わるが気にしない。
気にしてなど居られない。
痛みも痺れも口に入った砂も全て無視して俺は走り……
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
左の通路に、滑り込んだ。