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第二話 思考の海


「ふんっ! ふんっ!」


 俺は大きな木の前に立ち、重りの付いた木剣を空中に振り下ろす。

 木を敵に見立てる古典的な訓練だ。

 直接当てないのは木剣の耐久力が心配だからである。

 直接当てると手が痛いからとかでは断じて無い。


 俺がこうして訓練をするのは、暇でやる事がない時だ。

 ひたすらに剣を振り下ろし続け、考えごとをする。


 俺が不死者として生まれた意味は何だろう?

 もう、千回以上は考えた疑問だ。


 自分が不死者だと知ったのは15歳の時。

 俺は村の友達に誘われて、決して立ち入るなと言われた森に立ち入り……みんな死んだ。


 具体的な事は覚えていないが、俺たちは魔物に襲われ、崖に追い詰められた。7人いた友達は3人に減り、俺たちは一か八か真下に見えていた滝壺に飛び込んだのだ。


 結果は当然八だった。一人はおそらく即死、なんとか意識のあった俺と友達は岸まで這いずり……足が無いのに気が付いた。

 友達がいたいいたいと呟き続けている中、俺はどうせ助からないのだろうと諦め、涙を流しながら目を閉じていた。


 そして友人の声が聞こえなくなったころ、自分の足が元通りになり、一切痛みを感じない事に気が付いたのだ。


 一番に感じた感情は恐怖だった。魔物に襲われた時とは違う、得体の知れない恐怖。

 俺は友達の死体を置いて、逃げるようにその場を立ち去った。


 次に気が付いた時、俺は大人達に囲まれていた。

 何故森に立ち入ったのか、一緒にいた友達はどうしたのか、なぜ俺だけ帰ってこれたのか。

 どうやって村まで帰ってこれたのかは覚えていなかったが、ろくに大人の質問に答えられないまま家に帰った事は覚えている。


 二階にある自室で棚を見ていると十歳の誕生日に買ってもらった、不死の騎士の絵本が目に入った。


 不死の騎士は王国に仕え、敵国に襲撃された際、何度も死にながら姫を守ったが、その後ある日のパーティーで姫が口を滑らせ、教会の司祭に騎士が不死である事を知られてしまう。

 不死の力は異端の力、そう言って捕らえられそうになった騎士をかばった姫は抵抗する中で命を落とし、主君を失い怒り狂った騎士は教会の兵に襲い掛かるも結局捕えられ、永遠に消えない炎によって火炙りにされた。という話だ。


 話の内容こそ行き過ぎた信仰は悲劇を生む、というものだったが、絵本を見た見た瞬間、酷く不安定になってしまった。


「あの小僧はどこだ!」


 そして一階から大人達……恐らく友達の親だったのだろう。

 その怒鳴り声が聞こえた途端、俺は窓を開け、外へと飛び出した。

 飛び降りた際、両足に激痛を感じたが、それも走っているうちに無くなった。そしてそれがどうしようもなく怖かった事を覚えている。


 不死になってからは一切体は成長していない。

 今まで料理や裁縫、魔法など、色々な勉強をしてきたが、それらが実る事も一切無かった。


 唯一剣だけは少しだけ扱えるが、それは恐らく村の友達と剣術ごっこ遊びをしていたおかげだろう。あの時の必殺技も大上段からの振り下ろしだった。

 もしかしたら俺には才能が無いのでは無く、不死になってから無くなってしまったのかもしれない。


 そうなると今こうして重りを付け、剣を振り下ろしても筋肉が付くことは無く、剣が上達することも無いわけで……


「……はっ?」


 思考の海から帰ってくると、自分の手が止まっているのに気が付いた。どうやら思考の海に浸り過ぎたらしい。


「……ふんっ!!」


 俺は再び剣を大上段に構えると、思いっ切り振り下ろし、余計な考えごと放り投げた。


 ……投げた?


「いってぇ!?」


 突然俺の頭を激痛が襲い、何かベタベタした感覚が頭部を覆う。


「なん、がっ!?」


 それが何かを確認する前に、追撃とばかりに肩に痛みが走る。

 俺は腰のホルダーに付けた短剣を抜き、戦闘に備えるべく構えた。


 一番に思い至る敵はスライムだ。

 ベタベタしていて、のしかかり攻撃を仕掛けてくる。


 しかしそれならなら全身でのしかかってくるはずであり、部分的な痛みでは済まないだろう。

 小型のスライムでも頭や肩まで飛べるほどのジャンプ力はないはずだ、それこそ木の上から降ってでも来ない限りは……


「……木の上?」


 視線を上に動かす。いくつかの枝が木の実を付けているのが見える。

 そのまま下を向く。いくつかの潰れた木の実が落ちているのが見える。

 前方を見る。木の根元に重りを付けた木剣が落ちているのが見える。


「…………」


 自分でも顔が赤くなっているのが分かった。

 つまり俺はうっかり手を滑らせて果実の木に向け木剣を投げ、その衝撃で落ちてきた木の実をスライムだと思い込み、短剣を構えて木の実相手に戦闘態勢をとったわけだ。


「朝から熱心ですねぇヴァリウス」


 そして後方から追い打ちをかけるようにその声は聞こえた。


「その実とナイフで料理の特訓ですか? しかし地面に落ちた木の実で朝食を作るのはちょっと……」

「殺してくれ」


 俺は項垂れてそう言う。

 勿論不可能なのは知っているが可能なら今持っているナイフを胸に突き立て、命を絶っていたかもしれない。


「ハァ。才能が無いとは言え、訓練するのは悪いことじゃないですが、少しは注意してください。その木剣だってタダじゃないんです」

「はい……」


 どうやら木剣は無事なようだった。

 端に重りを付けた状態で思いっ切り投げたのに壊れないとは驚きである。もしかしたら投擲の才能は少しくらいあるのか?

 いや、馬鹿なことを考えて事故の元を増やすのは止めよう。


「それよりもヴァリウス、新しい仕事ですよ」

「ほう」


 その言葉を聞いて俺はすぐさま顔を上げ、後方の声へと向き直った。

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