第十六話 種明かし
「危機一髪だったな」
「全くです。遅いんですよ、ヴァリウスは」
ギリギリだった。
先程まで燃えていたせいで、俺の身体はすすだらけである。
ファイアストームを食らった後、俺の身体は炎に包まれた。
身体は再生するそばから燃料と化し、俺は意識があるまま焼かれ続けていたわけだ。
だが永遠に思える苦痛の末、俺の身体は唐突に消火されることになる。
おそらくはクリスタが起こした崩落によって瓦礫が体に降り注ぎ、土煙と衝撃によって俺を包んでいた炎が押し消されたのだろう。
瓦礫自体も粒が小さく、これなら押しのけて脱出できる。
そう思ったところで、その声が聞こえたのだ。
「出来ないんだよ!私は!死にたくても死ねないんだ!」
叫び声が耳に入った瞬間、俺は冷静になった。
事情を完全に理解したわけでは無い。
それでも嘘ではないと分かる気迫がそれにはあった。
どちらにせよ正面から突撃して勝てる訳がない。
だから俺はいつか来るチャンスに備え、少しずつ瓦礫をどけ、目と耳だけは使えるようにして。
剣を探り当て、握り、すぐにでも動き出せる体制のまま、唐突に訪れた衝撃に耐えて、俺は待った。
「今、リアクターを壊したら、私は助かりますか?」
そして、その一言を聞いた瞬間、飛び出した。
前方で杖を向ける女性は無視し、ただ一つの事だけを考えた。
いつかのトレーニングにて、偶然掴むことができた感覚の再現。
そうして、剣を投げてリアクターを壊せたおかげで、俺たちは今、無事でいられている。
「どうして...」
そしてその「俺たち」という括りには、例の女性も含まれていた。
「どうして私を助けた! 魔力の奔流に巻き込まれれば死ねたかも知れないのに!」
女性が叫ぶ。地に手を付け、嘆く女性を見ると、怒りの感情よりも悲しみが際立っているように見えた。
彼女の様子に圧倒されたのか、クリスタは小さな足で後ずさっている。
だが俺はむしろ女性に近付くことにした。
そうしなければ、ならないと思ったから。
今の彼女となら、話ができるはずだ。
「ヴァリウス」
「大丈夫だ」
クリスタはきっといつものように、危ないと言おうしたのだろう。
だが俺は不死者だ。少なくとも、死ぬ心配はもう無いのだ。
「あんた、どうしてそんなに死にたいんだ?」
「簡単だよ、私は死ねない。不死者なんだ」
女性がそう言うと、俺は眉をひそめる。
「そんなのは理由にならない」
俺は不死者だが、死にたいと思った事は……一度しかない。
だからこそ、不死者だから死にたいという言い分は、俺にとって少し引っかかるものだった。
「なるさ! 私が不死者だから、関わる人全てが不幸になった! 私は生きてちゃいけないんだ!」
しかしその言葉で俺は察することができた。
きっと彼女には何か壮絶な過去があったのだろう。
女性は叫び終わると、膝を付いて泣き出してしまっている。
今、俺が彼女に出来ることは...
「話してくれ」
話を聞いてあげることだけだろう。
俺がそう言うと、女性は俯いたまま、ゆっくりと。
自分の過去を語り始めた。