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第十五話 信じて


 女性は自身の首から短剣を引き抜くと、ローブを羽織り直します。


「……これで分かっただろう、並みの手段じゃ私は死ねない」

「だったらどうして……」

「どうして魔力爆発を起こそうとしているのか。簡単だ」


 女性は再びリアクターに杖を向けます。


「魔力というのは、何かに取り込まれようとする性質を持つ。でもその何かより魔力の塊の方が大きかった場合、今度は逆にそれを取り込もうとするんだ」


 スライムがいい例でしょう。

 スライムは魔力の塊が意思を持ったもの。ですがその行動は取り込まれようとするのではなく、取り込もうとするものです。

 それはスライムを構成する全身の魔力がとても濃く、大体の物はスライムよりも魔力濃度が薄いため。

 実際、それと同じ説明を女性は私にしてきました。


「だから私は思うんだ。例え不死者であってもその体全てを魔力に分解されれば消滅する……つまり死ぬことができるんじゃないかと」

「…………」

「君も巻き込まれれば消滅してしまう。そうなるよりは先に死んでしまった方がいいだろう?」


 意味の分からない言い分ですが、なんにしても私は、彼女を止めなければいけません。

 きっと今もヴァリウスは瓦礫の下で埋まっているでしょう、そんな彼でも、魔力爆発に巻き込まれれば消えて……死んでしまうかもしれないのです。

 今の私に出来ることは少ないです。

 魔力は尽き、身体は拘束され、動かせるのは口だけ。


「……説明は終わりだ、何も無いなら私は君を……」

「待って下さい」


 だったら私は、私に出来る事をするまで。

 一つの可能性に賭けて……時間稼ぎを!


「私は貴方のせいで、崩落に巻き込まれ仲間を失ったんです」


 勿論ヴァリウスはまだ無事でしょうが、私たちは完全に女性に巻き込まれた被害者あることには違いありません。

 ヴァリウスが不死者ということはまだ明かしていませんし、女性から見れば死んでしまったように映っているでしょう。

 この女性に罪悪感という感情があればいいのですが。


「……その通りだ」


 どうやらあるようです。

 これなら……いける。


「貴方が死にたくて、私を殺そうとしているのは理解しました。でもまだ分からない事がいくつかあります。私の質問に答えて下さい」

「……いいだろう」


 よし、とりあえずこれで一つ目の問題はクリアしました。

 後は、しばらく適当な質問を続けるだけでいい。


「まず部屋から出ると蓄積された魔力が放出されてしまうと言う話ですが、部屋から出てもまた魔力を集め直せばいいんじゃないですか?」


 これは本当に疑問に思っていたことです。

 蓄積された魔力が元に戻ってしまったところで、集め直せば良い話。

 多少面倒ではあるでしょうが、私の相手をするよりはマシだったでしょう。


「……リアクターは、自然環境から魔力を集積してくれるが、起動するのに莫大な魔力を使う。今の私にそれだけの魔力は残されていないし、一度充填をやめたものを、再起動できる保証もない。だから部屋は離れられない」

「なるほど……」

「質問が終わったなら……」

「いくつか、と言ったでしょう。まだ質問は終わってません」


 質問には答えてくれましたが、女性は充填に集中したいようです。

 無駄な質問をすれば、答えを待たずに殺されるかもしれません。

 ここは無難な質問にしましょう。


「さっきの……というか今までの衝撃はなんですか?原因はリアクターにありそうですが」

「……限界を超えて魔力を充填していると、リアクター自体が魔力を放出しようするから、抑え込まないとそうなる。一回目は魔物が沸いて中断、二回目と三回目は何もしていないのに放出、さっきのは……中断したせいだ」


 三回目の放出は偶然だったようです。

 やはりヴァリウスは運が悪いのでしょう。

 4回目の中断の理由は恐らく気が散ったからでしょう。

 もしかしたら今の充填も何か気が散る事を言えば中断させられるかもしれませんが、次の瞬間には殺されるでしょう。


「もういいだろう、そろそろ君を殺さないと君も消滅する事になるぞ」


 しかし女性は我慢の限界であるようです。

 そろそろ限界も近いでしょう。

 質問もそろそろ思いつかなくなってきました。

 それでも、今すぐ問えることと言ったら……


「どうしてそこまでして私を殺そうとするんですか?消滅したとしても死ぬことに代わりは無いのでは?」

「何故って、君は妖精だ。妖精は死んでも生まれ変われるんだろ」

「……そんなわけないでしょう」

「……そうなのか」


 ……意外な反応ですね。

 おとぎ話でも信じていたのでしょうか。

 妖精だって、普通に生きているし、普通に死ぬのです。

 私には、まだやりたいことがあります。


「私は死にたくありません。あなただって、本当は死にたくないのでは?」


 つい、話の流れで油断して。

 私がそんなことを言った瞬間でした。


『――――!!!』「きゃっ!」


 魔力の放出。

 これまで何度も受けてきた衝撃が私を襲いました。


「……その質問には答えたくないな」


 女性は杖を下ろし、こちらを向きます。


「戻れ」

「っ!」


 女性がスプライトウェブを体内に戻し、私の身体が自由になります。


「やはり君といると気が散ってしまう。質疑応答は終わりにしよう」

「そんな……」

「今すぐに選ぶんだ、今すぐ死ぬか、存在ごと消滅するか」


 私を握る手に力を込め、死んだ目でこちらを見つめる女性を前に。

 私にできることは、現状の把握くらいでした。


「最後に……」

「なんだ」


 疑問に思った事を、すぐに口にだしてしまうのは私の悪い癖です。

 だけど、今回ばかりは言わないわけにはいきません。

 言わずに、死んでやるやけにはいきません。


「最後に。今、リアクターを壊せば、私は助かりますか?」


 私は、信じていますから。

 この一言が、彼を突き動かしてくれることを。


「何を……」

『――!』


 先ほど、柱の裏で何かが燃えている様子が無いことを確認した場所。

 暗闇の中に物音を立てて、瓦礫の山から人影が飛び出します。

 人影の手には剣、飛ぶように走り、女性に近づいていきます。

 女性は驚いた表情で杖を向けますが、間に合いません。


 その人影、真っ黒な人物は剣を大上段に構えています。

 いつも通り短絡的ですが……そうですね。

 今回ばかりは、それがベストだと思います。


「お願いします! ヴァリウス!」


 返事は、いつか聞いた叫び声。

 彼はただ、その手に持った長剣を。

 思いっ切り振り投げました。


「なっ!?」


 女性の背後のリアクターに向かって!


『――――!!!』


 リアクターにヒビが入り、隙間から光が漏れ出します。

 魔力の放出が始まったのです。


「逃げるぞ!」


 一面の視界に映るのは、黒焦げになったヴァリウスの顔。

 いつも通り、憎たらしいほど必死な顔。


「私は、あなたのそういうところが――」


 おっと、また口から出てしまいまいそうでした。

 まあ、この光と爆発音です。

 きっと聞こえては、いないでしょう。


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