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第十四話 できない


 土煙が晴れると、女性のフードが剝がれているのが分かりました。

 鮮やかな赤い髪を伸ばし、こちらに向かう女性。

 その肌や髪には汚れこそ付いているのものの、傷一つありません。


「分からないという事は、本当にあいつらの仲間ではないんだね」


 女性は私の前で立ち止まり、スプライトウェブに巻かれた私の体を持ち上げながらそう言います。

 抵抗しようにも、魔法を使えず、非力な妖精に出来ることはありません。


「でも、残念だけど君を殺す以外の方法でここから出すことは出来ない、私が部屋から出るとリアクターが集積した魔力が戻ってしまうからね」


 そう言うと女性私を片手で握るように持ち上げたまま、中央の光り輝く球に近づきます。

 リアクター、おそらくこの光る球体の事でしょう。

 ですが分からない点があります。


「……あいつらの仲間ではないと自分で言ったのに、どうしてまだ、私を殺そうとするんですか?」


 敵ではない事は分かったはず、ならばどうして……


「簡単だ。このままここに居れば君は死ぬからだ」

「は?」


 私が死ぬから私を殺す?

 本当に何を言っているのでしょう?


「死ぬと言う言い方は適切ではないか、正しくは……消滅する」


 女性はリアクターに杖を向けながらそう言いました。

 一体どういう事でしょうか。


「私がこれを使って魔力を集積しているのは見ての通り、だがリアクターはもうすぐ容量の限界を迎える」

「限界……?」


 容量の限界、魔道具には必ずあるものです。

 簡単なのは杖でしょうあれも魔道具の一種ですから。

 素材自体が魔力を増幅したり、予め魔力を貯めておく事で放つ魔法の威力を高める事ができますが、限界もあります。

 限界は素材によって異なりますが、そのどれもが共通の性質を持ちます。


「まさか……それで魔力超過を?」


 それが魔力超過。

 魔道具が不可に耐えられなくなり、限界を超えた際に引き起り、圧縮された中の魔力が一気に放出されることで爆発的なエネルギーが発生する現象。

 多くの場合は魔道具自体が破損するだけで済みますが、このリアクターに蓄積された魔力は莫大なものです。

 もし限界を迎え、魔力超過が発生したら……


「君も理解したみたいだね」


 その時の私の顔はきっと青ざめていたのでしょう。


「私は莫大な容量を持つリアクターを魔力超過させ、爆発を引き起こす」

「そんな事をしたら……!」

「ああ、この遺跡……それどころかこの山ごと吹き飛ぶかもしれないね」


 女性はさも当然のように答えます。


「分かってるならなんで……!」

「それが目的だからさ、私は死にたいんだ」


 死ぬことが目的?言っている意味が分かりません。

 というかまず、何故女性は柱に押しつぶされて生きているのでしょうか?

 死ぬことが目的なら防御魔法を使った訳でも無いでしょう。

 第一、彼女ほどの魔法使いなら私を殺さずに帰り道の瓦礫をどかす事もできるはずです。リアクターの魔力だってまた集積し直せばいいわけですし……


 あーっもう!


「死にたいなら勝手に死ねばいいじゃないですか!」


 理解できない事が続き、私はいつの間にか叫んでいました。

 本当にただ叫んだだけ、何か魔法を使ったわけでもありません。


『ドォン!!!!』「きゃあ!!」


 しかしその瞬間、リアクターと呼ばれたソレが光り輝き、今までと同じ衝撃が私を襲いました。

 同時に私の身体が女性の手から零れ落ち、地面に背中を打ち付けられます。


「はぁ……またやり直しだ」


 大きな衝撃だったにもかかわらず、女性は立ったまま項垂れています。

 明らかに異様で、不気味な光景。

 痛みなど気にしている暇はありません。


「……君は勝手に死ねばいいと言ったね」


 そう言って女性はローブの中に手を突っ込みます。

 そのまま半身を脱ぎ払い、下からノースリーブのインナーと、剥き出しの腕が姿を現します。いったい何をするつもりなのでしょうか。

 そう思ったのも束の間、彼女はコートの残った腕の方で、突然ナイフを取り出しました。


「何を……」

「できないんだよ! 私は!」

「えっ!?」


 ナイフが頭上に掲げられたかと思うと、目を疑うような光景が訪れました。

 なんと女性は突然、自分の手首に短剣を突き立ててしまったのです。


「死にたくても死ねないんだ!」


 次の瞬間、ノースリーブの肩がはだけて、胸の下着が露わになりました。

 つまり彼女は、勢いよくナイフを引き切り、腕を伝って首元まで、自身の体を切り裂いたのです。


「えっ……えっ?」


 しかし信じられないのは、女性の体から一切の血が吹き出ていないこと。

 それどころか、彼女の傷はどんどん塞がっていきます。

 治癒魔法でしょうか? いえ、彼女が魔法を使った様子はありません。

 何かしらの奇術? いえ、私はもっと簡単な答えを知っています。


 それは、ずっと身近に居た、ヴァリウスと同じ。


「不死者……?」

「…………そうだ」


 彼女が不死者である可能性でした。

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