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第十二話 焼け落ちる


「大方、私の罪悪感を煽って、事前に仕掛けておいた罠かなにかまで誘導する気だったんだろうね、でも残念だけどバレバレだ」

「そんな事する訳……!」

「ならば何故噓を付いた! この遺跡の魔物は全て私が殲滅した! 魔力を使うことなどないはずだ!」


 女性の声には再び怒気がやどり、確かな殺意を感じます。

 アルトブラストの事を話さなかったのが仇になったようです。


「私達はただここから出たいだけで……!」

「私達……? そう言うなら何故お前はあの男の心配をしないんだ!」


 あの男、間違い無くヴァリウスの事です。


「あの男はお前をかばい、炎の中へと飛び込んだ! それなのにお前はただ出たい帰りたいとわめくだけ! 何故だ!」

「炎の中……?」


 私は無意識のうちに、思い込んでしまっていたのでしょう。

 ヴァリウスは不死身だから大丈夫だ、と。

 それでも、女性の言葉で思い出します。


 微かに覚醒する意識。

 放たれる炎の嵐。

 私を呼ぶ声。

 眼前に現れる人影。

 私を庇うようにして炎に包まれるヴァリウス。


 炎はすぐに収まりましたが、焼け死んでしまいそうなほどの暑さで再び意識を失ってしまったことを。


「それは!お前が血も涙もないあいつらの仲間だからだ!」

「……っ、違う!」


 私はしばし呆然としていましたが、その間に女性の杖が持つ魔力は途轍もなく大きくなっています。

 もはや弁解のしようも無いでしょう。


「どうしても帰りたいと言うなら死んで土に還るがいい!」


 だったら……


「ファイアストーム!」「スプライトウォーター!」


 彼女の杖が赤く光ると共に私が唱えたのはスプライトウォーター。

 その名の通りスプライトウェブと似たような魔力液を生み出す魔法。

 同じ性質の液体を、腕から全身に被った事で、僅かですが私とスプライトウェブの間に隙間ができます

 当然壁とスプライトウェブの間にも隙間ができ、私の体は重力に従って床へと落ちます


『ゴオッ!!』

「ぐぅ……!」


 女性のファイアストームは溜めただけあって、かなりの威力です。

 それだけで消し炭になってしまいそうなほどの熱風。

 ですが私の周りには先程出した魔力液が纏わり付いています。


『ジュウゥゥゥ』


 しかし長くは持ちそうにありません。

 このままでは、中の私はゆで上がってしまうでしょう。

 女性だって、数秒後にはファイアストームをこちらに向けてくるはずです。

 だったら、一か八かやるしかありません。


「シュート!」


 周囲の魔力液をただ飛ばす。それだけの即席複合魔法。

 私を守り覆う魔力液は少なくなってしまいますが、魔力の消費を最小限に抑えるためです。


『ベチッ!』「くっ!」


 それでも効果はあったようです。

 魔力液は見事女性の右肩周辺に命中し、ファイアストームを一旦、止める事が出来ました。


「戻れ!」


 私は残った魔力液を体内に戻し、少しでも魔力を回復します。

 いくらか残っているのは、床に打ち付けられて散った、スプライトウェブの残骸でしょう。


「ファイア……」


 ふと女性の方を見ると彼女は二発目の詠唱に入っていました。

 避ける方法は一つ。柱の裏に隠れること。

 私は羽を広げ、勢い良く浮遊魔法で飛び出します。


「ぐうっ!」


 瞬間、片羽が異常に重いことに気が付きました。

 付着しているのはスプライトウェブの残骸。

 ほんの僅かな魔力液の重さでも、妖精の飛行には致命的です。


「ストーム!」


 それと同時に魔法が放たれ、もう考えている暇はありません。

 私は加速し、柱に向かいます。

 ブレーキをかける事など考えず、ただ一直線にファイアストームを遮る事のできる地点へ飛び込みます。


「ぐうぁっ!」


 当然、私の体は床に打ち付けられました。

 今度は魔力液が緩衝してくれることもない。

 出したスピード分、そのままの衝撃が私を襲います。


「ぐ、うううぅ……!」


 今ので全身を痛めてしまいました。

 こんな状態では、飛ぶことはおろか、歩く事すら難しいでしょう。

 私は何とか起き上がり、顔を上げます。


 目に入るのは柱の横を通り抜ける炎の嵐。

 容赦の無い熱波が私に伝わり、私の気力を奪っていきます。

 全身はボロボロ。魔法も放てて中級魔法一発程度。例え女性に撃ったとしても躱されるか防がれて終わりです。


 もう打つ手は無いのでしょうか?

 ここで終わりなのでしょうか?

 ヴァリウスとは二度と……


「ヴァリウス……」


 そうです。ヴァリウス。

 灼熱の中、走馬灯のように思考が加速します。

 ヴァリウスは炎に包まれた後、どうしているのでしょうか。


 炎に包まれた人の身体はそう簡単に消火できるものではありません。

 壁に拘束されている時ヴァリウスの姿は見えませんでしたが、奥の方、柱の裏で何かが光っているのが見えました。

 多分、あれが、ヴァリウス。


 となると、ヴァリウスは今も炎に焼かれ続けているのでしょうか。

 ヴァリウスは不死身。身体を傷付けられてもすぐに再生します。

 だけどきっと、彼の身体は炎で焼き付き、身動き一つ取れないのでしょう。

 それでも彼はは苦痛の中で、彼女を止めようとしてくれているのでしょう。


 ヴァリウス。私はもう貴方に会えないのでしょうか?

 私に生きる理由を与えてくれた貴方の。

 ほの暗い樹海の奥底から救い出してくれた貴方の。

 あの憎たらしい笑顔を見ることはできないのでしょうか?


 貴方にもう会えないのなら、私は、何のために……


『ピシッ』


 炎の轟音が鳴り響く中、その音は確かに聞こえました。

 一体どこから? 冷静に考えれば私の後ろの柱からだったのでしょう。

 それでも私は答えを求めるように辺りを見回し、見つけました。


 私が縛られていた壁、黒く変色し、ヒビが入っていました。

 恐らくここの石材は、熱に弱い材質なのでしょう。

 ファイアストームの直撃を受けたであろう部分が少し欠けています。


 何故、私のアルトブラストであそこまで崩落が広がったのか、ずっと疑問に思っていました。

 思い当たるのは、あの焼け焦げた倉庫の中で見つけた魔物の残骸、おそらく蜘蛛の魔物のもの。

 あいつらは壁や天井を這い、獲物を襲うタイプだったはずです。


 あの女性はこの遺跡の魔物は全て殲滅したと言っていました。

 もしも、あの分かれ道で戦闘になっていたとしたら?

 彼女が今と同じように、ファイアストームを使っていたとしたら?

 彼女の敵である蜘蛛が、天井を這っていたとしたら?


 私は再び辺りを見渡します。

 おぼろげな記憶ですが、最初、私が吹き飛ばされた後、ファイアストームは三回放たれていたと思います。

 私をかばったということは、少なくとも二回目までは躱していたわけです。


 一体どうやって?


 答えは今の私と同じ、柱に隠れたから。

 壁から見えた光は私の隣の柱の裏だったはず。

 となれば、ヴァリウスがファイアストーム避けに使ったのは……

 そこまで考えたところで、私は一つの打開策を、思いつきました。


「ああ、そうでしたね、ヴァリウス。ここで死んで貴方に二度と会えないくらいなら、私は……」


 この遺跡ごと埋まってやるつもりです。

 決意は、今も変わりません。

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