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第十話 炎の嵐


「ヴァリウス!この部屋です!」


 クリスタが叫ぶ。

 ここに来るまでの間大きな揺れは無かったにもかかわらず、この辺りでは遺跡全体が、断続的に小さく揺れているような感覚がある。

 クリスタの言う通り、この部屋が衝撃の発生源なのだろう。

 俺たちは部屋の入口に張り付き、中を覗く。


「あの女性ですね、反応の正体は……前方のアレみたいです」


 部屋の中には大きく、太い四本の柱が立ち、その中央に人影が見えた。

 ねずみ色のフード付きローブに装飾が施され、怪しく光る杖。

 間違い無くあの女性だが、注目すべきはそこではない。


「なんだあれ……」


 俺に魔力の乱れとやらを探知するすべは無いが、それでも眼前のソレが全ての元凶だと、一目で分かった。

 それは大きな石の枠に囲まれ、宙に浮かんだ光る球体。

 まるで、心臓が脈打つように光を放ち、その度に遺跡が揺れている。


 その前で女性は、何をしているのだろうか。

 杖を前に出し、何かを呟いている。

 魔法の詠唱だろうか? 一体何のために……?


 いや、それよりもまずは、出口が無いか確認だ。

 俺たちが来た通路の前と左に道は無く、あるのはこの部屋だけである。

 だけど、入り口からでは出口を見つけることはできない。

 大きな柱で隠れているのか、暗闇で見えないのか、もしくは別の出口などないのか。

 この位置からではわからないのだ。


「……クリスタ、剣を出せるか? できれば穏便に行きたいけど、念の為だ」


 ならば部屋の中に入って確かめるまで。

 女性は集中しているようで、謎の球体に向けてなにかを呟き続けている。

 あの女性の正体も、目的も、していることも、何もかも分からないが、俺の乏しい感性でも分かる。

 あの女性は危険だ。


 そうでなくても、こちらは付いてくるなと言われているのだ。

 もし、何か物音でも立てれば、彼女は一瞬のうちに振り返り、魔法を放ってくるかもしれない。

 そんな気配をあの女性から感じる。


「この部屋……」


 クリスタは天井を見上げ何やら思考しているようだ。


「クリスタ?」

「……いえ、大丈夫です」


 そう言うと彼女は俺の方に向き直った。


「物の出し入れくらいならまだできますが、気を付けて下さい。私の魔力はさっきのアルトブラストでほとんど尽きました。魔法も放てて数発でしょう」


 クリスタが俺の背中に剣を固定しながらそう言う。

 援護は出来ない。そう言っているのだろう。

 つまり、戦闘になれば俺一人だ。

 いくら俺が不死者とは言え、彼女相手では分が悪い。


「……俺が前に出て、彼女に話しかける。その間にクリスタは出口が無いか確認してくれ、もしあればここを通してほしいと、無ければ彼女に協力を……」


 その瞬間、女性の前の球体が眩く輝いたのが見えた。


『――――!!!!』


 続いて訪れたのは、今までで最も大きく激しい衝撃。

 衝撃は地面を揺らし、俺は危うく倒れそうになる。

 とは言え、全く予想もしていなかったわけでは無い。

 ここに来るまで大きな揺れが無かっただけに、そろそろ来るだろうとは思っていた。


「ぐうっ……」


 しかし、何の支えもなしに立っているのは厳しい。

 俺は支えを得るために壁にもたれ掛かろうとして……思い出した。

 俺は普段、背中に剣を固定している。


 それも素早く取り出すため、鞘ではなく簡単なベルト留めで。

 当然、先程クリスタに固定して貰った剣は背中にあるわけで。

 そんな状態で勢い良く、石壁にもたれかかったら……


『カァン!!』


 激しい金属音が鳴り響いてしまう。


「ファイアストーム!」


 振り向いた女性の声と共に、彼女の杖が赤く輝く。


「クソッ!!」「きゃあ!!」


 俺たちは通路から離れ、部屋の中に飛び出す。

 直後、俺たちの居た通路を炎が焼き尽くし、直撃こそしなかったものの激しい熱風が俺たちに襲い掛かった。

 熱さに耐えつつ俺は、飛び込みで崩した体勢を立て直して、立ち上がる。


「ファイア……」


 そこで、女性が二発目の詠唱に入っていることに気が付いた。


「ぐッ! ま」

「ストーム!」


 待て、俺がそう言う前に再び炎の嵐が放たれる。

 俺の声はゴウゴウと燃える炎によってかき消され、相手に届いてはいないだろう。

 俺は前方に全力で走る。

 目指すのは遮蔽、部屋の4箇所に立つ大きな柱だ!


『ゴウッ!!』


 女性も俺の動きに合わせて魔法の向きを変えたようだ。

 炎の嵐が、なぎはらうようにして俺の後を追う。

 追いつかれるまであと一秒、半秒。

 そんなギリギリの距離で、俺は柱の陰に滑り込んだ。


「ああっ……っ!」


 俺は柱に体を貼り付け炎が過ぎ去るのを待つ。

 いくら大きな柱の影とは言え、すべてを防ぎ切れるわけでは無い。

 柱に沿って回り込んできた僅かな炎、そしてそれが発する熱風がじわじわと俺の身体を焼いていく。

 抗議の声を上げようとするが、口を開けたそばから喉が焼け付き、声を発する事ができない。

 クリスタなら柱沿いに上昇し、敵ではないと伝えることもできるかもしれないが……?


 その時、嫌な予感がした。

 すぐさま振り返り、両肩を確認する。

 肩には何も乗っていない。


 俺が、最後にクリスタを見たのはいつだ?


 それは、一回目のファイアストームの後。彼女が小さく悲鳴を上げた時だ。

 おそらくその直後、放たれた熱風によって吹き飛ばされたのだろう。


 廊下が炎に包まれた後に聞こえたので逃げ遅れてはいないだろうが……などと冷静になっている場合ではない。

 彼女は2回目のファイアストームに巻き込まれたのではないか?

 周りは炎に包まれ、今の俺に確かめるすべはない。

 今すぐにでも炎の中に突っ込み、彼女を探したいという気持ちを、目が焼けてしまえば探すすべもないと抑える。


『シュウゥ……』


 炎が途切れ、赤熱化した地面から、煙が立ち上る。

 すかさず俺は煙の中から出て、二人の女性を視界に入れた。

 一人は地面に横たわる、羽の生えた小さな女性。もう一人は……


「ファイアストーム!」


 杖をこちらに向け魔法を放たんとする女性。

 詠唱しきってしまった以上、魔法の発動は止められなかった。

 いや、今すぐに「待て」だの「敵じゃない」だの叫べばあるいは、魔法を途中でやめさせる事もできたかもしれない。


 だがそれでは射線上にいるクリスタが巻き添えになってしまうだろう。

 おそらく彼女は射線上にいるクリスタに気がついていなかった。

 そんなことを考えられはしても、俺の行動は変わらない。


 言ってしまえば、俺はもう行動してしまっていたのだ。

 赤く輝く杖の前に小さな妖精の姿が見えた瞬間俺は……


「クリスタ!!!」


 一切の迷いなく、クリスタ目掛けて炎の中へと。

 全身を飛び込ませてしまっていたのだ。


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