85話 ひょっとして……俺って、バカなのかな~?
ギムリ達に靴屋を紹介してもらう約束をした翌日である。
我が家から呼び寄せた屋敷妖精たちとアンデッド軍団は、ちゃんと連携をとって働いてくれているようだ。
「う~わ、すっげ! マジか!」
昨日の昼辺りから作業を開始したから、時間としてはちょうど丸1日ってとこか。たったそれだけの時間で、最低限の安全通路をどうにか確保出来たぞ! っていう段階から、一気に国中の瓦礫という瓦礫を撤去し終えて、壊れた建物を復旧する段階に移行していたらしい。
アンデッド軍団があらかじめ用意されている建材などを、ひたすら屋敷妖精達に渡している。
どうやら完全に潰れてしまった家は一度更地に戻して、基礎工事からやり直しているようだ。真っ白な基礎の周りに、足場が建ち始めている。ってか、このファンタジー世界で何故あんな現代的な工事方法を? いや、鉄とかはそりゃいっぱいあるから出来なくはないんだろうけど……。
そういえば、昨日ギムリ達も剣でも鎧でも盾でもなく、なんか妙な丸っこい筒とかを作ってたようだけど……もしかしてアレ、足場の柱か!?
「す~~、は~~」
思わず動揺してしまったので、深呼吸して自分を落ち着かせる。
まぁ、建物の強度が上がるのは良いことですね! うん。なんかファンタジー感が薄れてちょっと残念なことを除けば。
元々は多分、魔法の力と空を飛べる種族の力を借りて建築していたのだろう。2階建て以上の建物も確かにザラにあったし、我が家の近くにあったオークの村みたいに藁を束ねた三角形の家みたいなのはなかった。
縄文時代みたいな建築形式ではなく、ファンタジー作品のテンプレよろしく中世的な建築形式だった。
赤レンガを用いた建物や、灰岩のブロックを用いた建物、木造建築、色々とあった。けれど、基礎工事はしていないのが見てとれた。
まぁ、この世界に来てから地震など1度も体験していない。耐震工事という概念がないのだろう。
この感じだと更に色々建築の設計を魔改造しそうなので、相当この国の守りは強固になるだろうな。ただでさえ壊れにくい設計をしてるのに、更に魔法の力で補助するのだから。
ちなみに何故、彼女ら屋敷妖精が現代の建築方法を知ってるのかは、ぶっちゃけ分からん。建設現場は当然見かけたことあるし、基礎だけの時も、基礎と足場だけの時も、色々見かけたことはある。
でも別に建築業やってた訳じゃないのだから、知るはずもない。謎だ。でも、強引に理由を考えるとすれば、シルルが俺の記憶にある建設現場を見て、現代の建築法を理解したってことだ。POPモンスターの知識はサンプリング元であるオリジナルの知識に左右されるからな。シルルが知っていることは、彼女らPOPモンスターの屋敷妖精たちも知っているのだ。
「おお~」
一本辺り重さ約20㎏、長さ約4mはある鉄の柱を縦に二本連結させた状態で、屋敷妖精は平然とした顔で軽々と持ち上げ、土台となる部材に刺し、さっさかさっさか足場を組んでいく。
気が付いた時には二層目に突入。すると手元役が変わり、三頭首獣(アンデッド)がその長い首を活かして建材を渡していく。
あっという間に、300㎡ほどの2階建て足場が完成してしまった。間配りは既に終えていたものの、足となる土台を組み始めてから足場が全て完成するまで、たったの30分。
「ん~、これは……」
チートですネ!! 僕ワカリマス!!
まごうことなきチートである。
だってこのサイズの足場なんて前世の感覚で言えば、朝8時30分に現場入りして、4人で施工して昼過ぎに終わるかな? どうかな? ってサイズなのだ。近所のおっちゃんが家をリフォームしてたから見たことがある。それを、こやつらはたった30分で仕上げてしまった。
いや、そりゃリフォームと新築じゃ話は別だし、間配りを終えているという条件の違いもある。けど、やっぱどう考えてもチートでしかないよね。だってこっちは基本2人なのだ。手元役が途中で変わったけど、施工している人数は2人。
「ん? 待てよ……。2人でこのサイズの足場を30分ってことは……」
俺が呼び寄せた屋敷妖精は、総勢100人。つまり、同時進行で建築している筈だから……約30分で200棟!?
「うわ~、馬鹿げてるぅ……」
まぁ実際には間配りの時間とかもあるから、足場だけなら1時間ってとこだとは思うけど……。で、更に基礎工事や建物の躯体工事なんかも含めて、一つの現場が完成するまで1日かからない、ってことになりそうだ。
「はえぇぇ……」
なんて間抜けな声を漏らしながら、黙々と作業をし続けている彼女らを呆然と眺め続ける。
「おーい! サタンの旦那~!!! こっちだこっち~~!!」
すると、突如叫び声が耳に届く。
慌てて声の方へ向くと、少し離れた涎噴水の前で、大きく左右に手を振りながら声をはりあげるギムリとレギンの姿がそこにあった。
あ……俺、靴屋を紹介してもらうためにギムリ達と待ち合わせしてたんだった……。
「す~~」
ひょっとして……俺って、バカなのかな~?




