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82話 条約成立


「という訳で、ピラミッドは無事だ。それから、実験場はぶち壊しておいた。十中八九他にもあるだろうが、一応の気休めくらいにはなるだろ?」


 ピラミッドから帰って来て早々報告のため解散し、俺とクロだけでグラン王のもとへ向かい、今諸々の説明を終えた所である。


「……そうだな。うむ……。……その、キングスフィンクスとやらは、獅子と山羊と鷲の頭だったんだな? そして山羊の頭が、何か凄そうな魔法を使おうとしていた、と。そうなんだな?」

「ん? あぁ。そうだ」

「そう、か……。そうか……」


 俺がスフィンクスのことについて触れ始めた時からずっとそうだったが、尚更に表情に影を落としたグラン王。


「どうかしたのか?」

「そのキングスフィンクスの素材となった獅子は、恐らく、余の……父だ」

「っ!? 何故だ。何故そう思う……? 確証はあるのか?」

「魔法が得意だった山羊人(ゴートマン)、ガルーダ、そして獅子人(ライオノイド)。この組み合わせに、覚えがあり過ぎるのだ……。余の父は、冒険者をしていてな。ある日フィリオーラの使いが来た時、攫われそうになっていた民の身代わりとなって、皆居なくなってしまった……。余が、まだ60いくつかの若造だった頃の話だ」


 昔を思い出すように、遠い目をして虚空を見つめるグラン王。


「しかし、そうか……。そのようなことに。勇者の経験値として死んだのなら、勇者より弱かった父たちが悪いと、まだ納得も出来る。だがッ……! よもや、そのようなことのために、余の父は身体を弄ばれたというのかッ……!!」


 ギリッ!!! と歯を噛みしめ、怒りを露わにするグラン王。


 この国の住人が素材にされていたことを知らせてやろう、くらいのつもりだった。想定が甘かった。まさかあのキングスフィンクスが、グラン王の父とその仲間だったとはな……。


「……ふぅ、イカンな。王たる者、このような時ほど冷静で居なくてはならぬというのに。とにかく、感謝しようソーヤよ。よくぞ、父たちを眠らせてくれた。実験場のことも、感謝する。勿論、ピラミッドの保全のこともだ。友好条約の件、約束通り飲ませてもらう。これから宜しく頼むぞ。ソーヤ。これから余のことはグランと呼べ。対等の立場になったのだからな」

「フッ、あぁ。こちらこそ、宜しく頼む。グラン」



――領域支配者の無力化に成功しました。領地を拡大します

――領地拡大に伴ない三頭首獣(トリオヘッド)種、コッカトリス種、バジリスク種、しましま馬種、死肉漁り(ハイエナ)種、エッジホーン種、スライム種、吸血虫柱(モスキートピラー)種、ヘルハウンド種の情報登録に成功。各種魔物渦の設置が可能になりました

――砂漠エリア全域を領地に治めたことにより、内装『砂漠』を獲得しました。また特殊効果『土地の乾燥化』を獲得しました



 天啓が響く。

 これで、いつでも我が家(ダンジョン)に帰れるな。物資や人材の派遣が楽にできるようになった。あとはお客様のご招待を簡単に出来るようにしたい所だが、まぁこっちは追々だな。最終的には転移陣で簡単に行き来できるようにしたい。勿論誰でも使えちゃ、侵入し放題で俺が死ぬから何かしら制限は設けるけど。例えば俺が許可した奴だけ転移陣が使える、とか。

 

「あぁそういえば。なぁ、グラン」

「む? なんだ」

「あのピラミッドは結局、誰の墓なんだ? 棺は開けなかったけど、石碑と壁画は見させてもらったんだ。あの黒髪の女……勇者なんじゃないのか?」



 俺の言葉を聞き、グランは動揺したように一瞬だけ、目を見開く。



「あぁ……そうだ。あの遺跡は、ピラミッドは、かつての勇者を祀るために建設されたものだ。最も、余は直接関わったことはないのだがな。まだ暦が変わる前、神話の時代に居た初代勇者。彼女は、召喚主であるフィリオーラの亜人に対する暴虐に怒り、我々亜人の味方をしてくれたのだと伝え聞いている」

「へぇ……」



 暦が変わる前ってことは、フィリオーラの日記に書かれていたファルダリーゼ創西暦とかいう時代か。『召喚した勇者を御しきれず勝手をされてしまった事例もある』とか何とか、そういえば書いてあったな。

 

「ってことは、初代の建国王とやらが、ピラミッドも一緒に建設したってことか?」

「あぁ、そう聞いている。神話時代、我ら亜人にはそれほど文明力がなかった。故に恩を返したくても、返す術がなかった。しかし初代勇者は、我ら亜人をフィリオーラから守るだけでなく、知恵も授けてくれたのだ。おかげで、我らは今のような暮らしが出来ている。故に、あのピラミッドはとても大事なのだ」

「そうか、なるほどな……。今ので、やっと納得できたぞ。だからこそアンタらは勇者の経験値扱いされても、フィリオーラの悪口は言うし抵抗はするけど、勇者に対する恨み言は言わないのか」 

「まぁ、そういうことだ。そもそも勇者とは、フィリオーラが異世界から拉致してきた被害者だ。その上、初代以降の勇者は魔法の力で絶対服従になっている。それに役割自体は我ら亜人を含め世界にとって重要だ。例え身内を殺されたとしても、彼女らを恨む気にはなれんよ……」


 目を伏せて、複雑そうな顔をするグラン。


「フィリオーラを殺す訳にはいかないのか? ……やっぱ、強すぎるからってことか?」

「うむ……。それもある。奴は非常に強い。だがそれ以上に、勇者を召喚出来る存在が、奴以外にいないというのが大きい。世界が窮地に陥った際、世界を救えるのは勇者召喚が出来る奴を置いて他に居ない。だから我らは、ただ抵抗する以外に出来ることはないのだ……。自分から攻め入ることは、出来ぬのだ……」

「そうか……」


 だとしたら、何故フィリオーラは勇者を召喚出来る? あの地球産の紙や、科学者チックな姿をしたフィリオーラゴーレム。というか、そもそもあの実験場自体が、この世界の文明レベルと合わない。あからさまなオーバーテクノロジーだ。

 何故フィリオーラだけが、それほどの技術力を持っている? 奴の他と異なる点と言えば、何よりまず生きた年数だ。しかし、それだけならエルフの里とやらに住む他のエルフ達も、同じようにオーバーテクノロジーでなければおかしい。

 もしや……神話時代は、むしろ科学が発展していた? 天魔大戦とやらのせいで文明が一度滅んだ、とか。それによって文明が1から再スタートになって、今は魔法文明が発達している、とか。


「ん~、分からんな」


 なんて俺が唸っていると、


「グラン王、魔王サタン様、そろそろお時間です」


 グランの侍従役であるシェパードさんが時間を告げてきた。


「おっと、すまぬが時間のようだ。また今度、話をするとしよう」

「あぁ、邪魔したな。改めて、これから宜しくな」

「うむ。復興支援の方、期待しておるぞ」

「あぁ。まぁ、任せとけ。じゃあな」


 そうして、俺とグランの対談会は終了したのであった。

 

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