81話 フィリオーラの日記
「ッッッ!!?」
頭が、痛い……! ザザザと、ノイズが走る。
「はぁっ、はぁっ……! な、なんだったんだ……?」
頭痛はすぐに治まった。けれど、原因は分からない。それに、さっきまで自分が何を考えていたのかも、思い出せなかった。
「……はぁ。まぁ、いいか」
なんて呟きながら他の場所も調べてみようと歩き始めると、
「創哉はん! こっち、来てみぃ」
一つだけ離れて設置してあるビーカーの前に立っているクロが俺を呼びつけた。
「なんだ。どうかしたか?」
その言葉通りに、とりあえず向かってみる。
すると、そのビーカーの中には、素っ裸の胎児が眠っていた。どうやら純粋な人間、しかも女の子らしい。
「これは……?」
「これ、読んでみぃや。日記らしいんやけどな。おもろいこと書いてあるで。うちには読めん部分もあったけどのぅ」
そう言ってクロが渡してきたのは、地球でよくよく見慣れた白い紙。俺自身も前世、数え切れないくらい扱ったことのある、あの紙だった。
「何故この世界にコレがあるんだ……!?」
「それも気になるやろけど、今は内容や。ほれ」
「あ、あぁ。わりぃ」
クロの言葉に従い、日記の内容に目を通す。
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ファルダリーゼ創世暦2万1500年 イルラプの月 エァディシドの曜日
それなりの消耗を強いられるわりに勇者の性能は期待外れなことも多く、いちいち殺すのが面倒になってきた。また、召喚した勇者を御しきれず勝手をされてしまった事例もあるため、かねてより計画していた案を本日より実行に移す。この計画は、世界各地より集めた強力な素体の細胞を混ぜ合わせた『強化細胞』を赤子に注入。適合し、勇者の素質を得る者が現れるまで繰り返すものである。
この計画を『勇者量産計画』、通称B・project.と名付けることとする。また、もし本計画が成功するより先に『天魔大戦』が起こりかねない事態となった時のために、勇者を召喚した段階で絶対服従させるための魔法も開発を急ぐこととする。助手も必要だ。私のクローンなども、開発することにする。
ファルダリーゼ創世暦2万3200年 ルスーメの月 アスディラトの曜日
散々実験を繰り返したが、『強化細胞』に適合し、勇者の素質を持つ者は現れなかった。しかし人間の赤子ならば、勇者の素質こそ獲得し得なかったが、適合出来ず爆発四散することは比較的少ないようだと判明した。どうやら人間の細胞は、調和しやすい性質を持っているらしい。もしそうだとすれば、どのような手段で試しても混ぜ合わせることが出来ず諦めた、もっと強力な素体の細胞同士を混ぜることが出来るかもしれない。もしかすれば、相反する聖と魔を融合した存在すらも。
ファルダリーゼ創世暦2万8074年 トゥウィーニの月 ルフスタの曜日
素晴らしい結果だ。やはり私の考えは正しかった。人間の細胞を緩衝材にすることで、更に強力な細胞を生み出すことが出来た。これを『進化細胞』と名付けることにする。これがあれば、魔物や亜人と違い『進化』という概念が存在しない人間種を、人工的に進化させることが出来る。しかし、やはり聖と魔を融合させることは不可能なようだ。天使と悪魔の細胞を混ぜ合わせても、どちらかに染まるだけで終わってしまった。このプロジェクトはここで凍結とする。これ以上の試行は時間と素材、そして何より労力の無駄だろう。面倒だ。
また実験材料が足りなくなってきた。もう面倒だ。今はひっ迫した状況でもないし勇者を召喚してもいないが、召喚したことにして方々からモルモットを譲り受けてくることにしよう。自分の国でも興せば、好きに素体を確保できるだろうか……? そろそろジジババ共の前で猫を被るのも面倒になってきた。エルフの里を出る良い機会かもしれない。都に行けば、若い男の一人や二人居るだろう。
ファルダリーゼ新暦30年 イルラプの月 ルフスタの曜日
エルフの里を出て自分の国を興してみた。寿命が長いのも考えものだ。何か行動を起こそうとしても、ついのんびりしてしまう。隠れ家に籠って研究に耽っていたら、いつの間にか暦が変わっていた。噂によると、何やら亜人国家なるものが出来たらしい。亜人なら力技で攫ってもジジババ共に目を付けられることもないだろう。建国した獅子の坊やに感謝しよう。素材の宝庫として便利に使わせてもらうこととする。
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「……『勇者量産計画』、ね。つまり、このビーカーの中に居る赤子は、その勇者候補って訳だ」
「どうやら、そういうことらしいで。はん! 思った以上にけったクソの悪い話で、もはや一周回っておもろいわ。こんなのがどこぞの国の女王なんてやっとると思うと、反吐が出るのぅ」
「……まったくだ。とりあえず、ここは破壊して行くぞ。どうせ他にも施設はあるんだろうが、こんなのを放置して帰っちゃ気分が悪いからな。おもちゃにされるよりは、ちゃんと殺して寝かせてやった方が良いだろ」
「ひひっ! そうやな」
「あっ。シンシア、そんな訳だからこいつらはアンデッドにしないでやれ。良いな?」
「あっ、はい! 勿論です!」
そうして俺達は、この施設を塵一つ残さず破壊しつくしてから転移陣を介してピラミッドへ戻り、そしてプライドキングダムへと帰るのだった。
当然、グラン王に見せるため例のレポート用紙の山を持ち帰るのは忘れない。俺が読んだのは、ほんの一部に過ぎないのだ。




