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79話 カ、ズェア、ナ……?

「創哉様!! 探索に行かせてたアンデッドの子達が、最上階で何か見つけたって!」

「なんだと!? 何があった!」

「……棺と石碑です。かなり古い」


 ここはピラミッドだ。巨大な墓であることは、シンシアも知っている。だから棺など、あって当然なのだ。それなのに、このシリアスな顔。

 

「なにか、妙なのか?」

「かなり(かす)れてて、勘違いかもしれないのですが……地球の言葉が石碑に彫られてるように見えるんです……。それで、思わず……」

「本当かっ!?」


 シンシアのクラス闇の女神官(ダークプリエステス)のスキルには、使役しているアンデッドの五感を一方的に借りることが出来る『五感接続』というものがある。それを介して、今シンシアは俺の前に居ながらにして、向こうの景色を見ているのだ。


 しかし、一体どうなっている……? 何故地球の言葉が彫られた石碑が、このピラミッドに……。いや、ゴーレムのemethの件もある。言葉自体は、勇者が残した、ということで辻褄(つじつま)は合う。

 だが、そうであれば余計に謎だ。勇者は、プライドキングダムの住人にとって災厄以外の何者でもない。何せフィリオーラに、勇者の経験値扱いされて少なくない数を攫われているのだから。それに抗うための戦争被害のこともある。

 勇者は嫌われて当然くらいに思っていたのだが……何故、勇者の使っていた言葉が彫られた石碑を、このような巨大なピラミッドに祀る?

 グラン王は、ピラミッドをとても大事だと言っていた。勇者と、過去に恨み以外の想いを抱くだけのナニカがあったのか……? もしそうだとすれば、少々疑問に思っていた部分も解決する訳だが……。

 

「……とりあえず、行くっきゃねぇか。勘違いオチってこともある」

「もしそうだったら、申し訳ありません……」

「顔をあげろ、シンシア。ないと思い込んで放置するより、あると仮定して動いた方が良いんだ。何事もな。こういうの、かもしれない運転って言うんだけどな? ま、今後も続けてくれ。勘違いなら勘違いで良いんだ」


 失敗を恐れて俯いたシンシアの顎に手をやって強引にあげさせ、しゃがんで視線を合わせる。そして軽く頭を撫でると、立ち上がる。


「行くぞ」

「っはい!」


 いの一番にシンシアが頷き、他の皆も一拍遅れてそれぞれ『おー』だの何だの、適当に相槌を打つと、動き出した。




◇◇◇




「これか……」


 階層を2つ上がると、そこには確かに棺と石碑のある部屋があった。

 壁には、何かの光景が描かれている。豊満な胸を持つ黒髪の女性が、どの壁画にも登場している。どうやら彼女が、ここに眠る存在のようだ。


「黒髪、か……。やはり、日本人なのか? んっ?」


 俺達の正面にある、石碑の真裏の壁画。

 それを見て、驚く。何故か? そこには輝きを放っているらしい描写のされた剣を携えて真っ黒な異形と対峙している女性が描かれている訳だが、その彼女の髪が黒ではなく白一色になっていたからだ。勿論(かす)れているし、所々欠けたりもしている。でも、分かる。

 そして思う。


 まるで、今の俺じゃないか……と。彼女は黒一色から真っ白になっている。あくまで白髪が混ざっただけの俺とは少し違う。でも、何か縁のようなものを感じてしまう。


「あの胸、母さんを思い出すな。……ハッ、馬鹿馬鹿しい。俺は何を言っているんだ。そんな訳はない」


 そうだ。そんな訳はない。母さんは確かに運動神経は良かった。やたらとチャンバラも強かった。でも、それだけだ。母さんは黒髪だったし、俺と紗耶香を厳しくも優しく、愛情をもって育ててくれた。あの人が勇者である筈はない。あんなあらあらうふふな、おっとりお姉さんキャラが現実に飛び出してきたみたいな人が。

 

「……確かに、かなり掠れてるな」


 棺の前にある石碑は、壁画よりかなり経年劣化が進行しているようで、文字がほとんど読めなくなっていた。


「……異、より、し、者……チィッ! 分からん」


 けど、これは確かに日本語だ。

 漢字まで使われている。『万能翻訳』を中継した文字は、元々の言葉を上書きするように日本語が浮かぶ。だけど、今回はそれがない。emethの時も日本語にはならなかったが、アレは俺が意味を知っていたからだ。分からない場合は翻訳し、分かる場合は機能しない。それが『万能翻訳』スキルなのである。

 つまり、これが正真正銘、本当に日本語であるという証だ。


「ん? ここは比較的文字が読めるな。え~っと……カ、ズェア、ナ……? あ゛ぁ‟ぁ‟あ‟あ‟!! くっそ! わっかんねぇ~。はぁ」


 後もうちょっとで手が届くのに結局届かない時みたいな、そんなストレスを感じて後頭部をガシガシ掻きむしってため息をつく。


「とりあえず、この石碑に彫られてる文字は確かに日本語そのものだ。結局、書かれてる内容は全然分かんなかったけど、日本語がこの世界にもあるってことが分かっただけで十分だ。ありがとな、シンシア。お手柄だぞ」

「い、いえ……そんな。あ、それと、この石碑、裏にも文字が彫られてて……こっちは日本語じゃないんです」

「えっ!? マジか」


 シンシアの言葉に、慌てて石碑の裏に移動する。

 そこには、確かに日本語でもこの世界の言葉でもない文字が彫られていた。何故わざわざ日本語と言わず、地球の言葉と称したのか疑問に思っていたが、こういうことだったのか……。


「これは、ローマ字か……。なんとなくは分かるが、ダメだな。掠れてる部分が多過ぎて全体的な意味が分からん……。でも、gloriasとかbrilliantになりそうな部分があるし、この感じ、アメリカ英語じゃないな。ブリティッシュだ……」


 いや、マジで全然分からんな。なんで表は日本語で彫られてて、裏はブリティッシュで彫られてるんだ? なにか地球から来た者に伝えたいことがあった……? 


「だぁぁ~~もう!! めんどくせぇ……!!! めっちゃ本人呼び起こして聞き出してぇ……」


 そう。やろうと思えば、この棺に眠る存在を呼び起こすことが出来る。シンシアの力があれば、それが出来る。

 でも、それをやったら流石にプライドキングダムとの関係にヒビが入りそうだし、何より俺の流儀に反する。だから出来ない。やらない。


「はぁ~~。やめだやめだ!! んじゃ、そろそろ帰――」


 帰るか。そう言おうとして、途中でやめる。

 『直感』が、激しく俺に伝えてきたのだ。まだ、帰ってはいけないと。


 かなり、嫌な予感がする。ずっと感じている嫌な予感とは別だ。そして、俺たちに何かが起こるとかじゃない。それは分かる。けど、かなりの嫌な予感だ。

 

 そうなんじゃないか、と考えているモノはある。だが、もし俺の考え通りだとしたら……相当に胸糞の悪い光景を見ることになるだろうな。


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