75話 VSキングスフィンクス
一定間隔で設置された壁掛け松明で照らされた薄暗い廊下をひたすら進み、内部にあった階段を登り続けやがて辿り着いたその部屋に、そいつは居た。どうやら眠っているようだ。
それは、想像していたスフィンクスとはまるで違った。エジプトにある石像のアレでも、猫でもなかった。そいつは、俺の知る言葉に当てはめるなら、合成獣としか言えない姿をしていた。
基盤となったのは獅子だろう。真ん中の頭と肉体は獅子のもの。だが、両肩からそれぞれ違う種族の頭が生えている。左肩からは山羊の頭が、そして右肩には鷲の頭が生えており、鷲要素はそれだけでなく翼も生えており、尾は蛇だった。
(どうにも魔力が不自然だな……)
最初からこのように生まれたとは思えない。
俺もナディ達という、ある意味では合成獣を産み出した。だからこそ分かる。こいつは……不自然だ。ナディ達は、異なる種族同士を掛け合わせた新種族だ。シルルのような、元からこの世界に存在していた種族もいたが、基本的には俺が産み出した新種だ。
けれど、その魔力は自然な波長をしている。馴染んでいる。それに対してこいつの魔力はなんだ? ピラミッドの外から感知した時は気づかなかったが、こうして対面してハッキリと知覚すると、その不自然さが良く分かる。
フィリオーラとプライドキングダムは、長い敵対関係にある。そして、今回は誘拐を防ぐことが出来たが、これまでは防ぐことが出来なかったことも時にはあると言っていた。
(俺の思い過ごしだと良いが……。んっ!?)
ふと、キングスフィンクスの足元に視線が行く。
ヘルハウンドと似た魔力反応があったからだ。そこに居たのは、疲れ果てたように眠る、すっかりお腹の膨らんだ白銀の体毛の女性だった。
「っあ、ああ、あ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
どうやら、あいつも俺と同じタイミングで気づいたらしい。
猛り狂って突撃してしまった。
「ッ!! しゃーない行くぞッ!! 戦闘開始だ!!」
あいつの叫び声で、キングスフィンクスはおろか周りのチビ共も起きやがったらしい。影の中から、わらわらとその姿を現した。
皆、違う特徴を持っているが、もれなく全てが合成獣だった。キングスフィンクスと全く同じ構成の奴は一体も居ない。
やはり他種族のメスに産ませているというのは、本当なようだ。
――qwerdx殺mge!!!!
「グァッッッ!? 頭が、割れるッ!!? っは、ぐ、ああ゛!! っく、黙れェええ!!!」
ガンガンとハンマーで頭を横から殴りつけられているような鈍痛に、頭を抑えながら必死に耐えて、剣で斬りつける。
だがそれは無意味に終わる。奴の皮膚の硬さが俺の攻撃を上回ったからだ。
「どないしたんや創哉はん!!」
慌てて駆け寄ってきたクロ。全然平気そうだ。見れば、他の皆も平然としている。あいつの声に苦しんでいるのは、俺だけなのか……!?
「あい、つ、の、声!! まるで、言葉が、何重にも、重なってる、みたいなんだッッ!! 頭が、痛いッ! ぐうッ!!!?」
「なんやそれ……。~っ! しゃーないのぅ!!」
激痛が急に治まる。
なんだ……?
《落ち着いたか? 創哉はん》
《……クロ?》
《おぉ。よぉ分からんが、あいつの声が聞こえるんが悪いんやろ? せやから、聴覚を一時的に遮断させてもろたで。もう、大丈夫やな?》
《はは。ははは!! あぁ! もう大丈夫だ!! サンキュー、クロ!! やっぱお前は最高の右腕だ!!》
《ひひ! 当たり前やろ?》
一切の音が聞こえないが、あいつの声さえ聞こえなければ、もうまともに戦えない状態になることはない。
(これで、安心して戦えるッッ!!)
鎧を纏う。
折角考えたが、今はそれ所じゃないので変身ポーズも掛け声もなしだ。
キングスフィンクスの獅子の口から火炎が放たれる。同時に、山羊の頭が何事かぶつぶつと呟くと、俺達の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がっていく。
(マズいッ!! なんか分からんがマズい!!)
『直感』が告げてきたマズいぞ! という予感に従い、すぐさま山羊の詠唱を止めるために接近し、全魔力を剣に注ぎ込んで刃を鋭くすると山羊頭をキングスフィンクスの方から切断する。
すぐさま大きくバックステップして後退し、影の回廊から完全治療薬を取り出し、飲み干す。
《皆!! 消耗なんて考えてる場合じゃない!! 全力だ!! セーラとクロは取り巻き共を窒息!! あいつら普通に息をしてる!! そのうち死ぬ!! 奏はいつも通り全力支援!! シンシアはアンデッド軍団でセーラ達を支援!! 取り巻き共を一匹残さず殺せ!! ナディは今斬ったとこから血抜き!! ちょっとでも早く殺す!!!》
俺の飛ばした思念に皆言葉なく頷き、早速行動に移った。
そして俺も、魔力と闘気を混ぜ合わせた力によるジェットで加速しながらキングスフィンクスのもとへ迫る。
しかし、奴も黙ってやられるほど軟ではなかったらしい。ナディの『血液操作』で血を抜かれながらも翼を羽ばたかせ空中へ逃げたと思ったら、徐に尾の蛇が紫と縁が混ざったような気持ち悪い色の霧を吐き出した。毒だ。
即座に風魔法を発動し、毒の霧を吹き飛ばす。
その瞬間、ヘルハウンドが横から突っ込んできて翼を喰いちぎり、口から青い炎を吐き出してキングスフィンクスを燃やした。
力強い視線。
後先考えずに突っ込んだせいで壁に激突しそうになっているヘルハウンドが、後を託すように俺に視線を向けていた。
「任せろッ!!」
何も聞こえないせいでちゃんと喋れたのか良く分からないが、とりあえず、あいつの想いは受け取った。
「これで最後だァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!!」
叫びながら、俺の全魔力と闘気を剣に籠めて、空中で今も燃えながら身悶えているキングスフィンクスに突進する。
――ズバァァァァンッッッ!!!!
縦一文字に真っ二つに両断されたキングスフィンクスは、やがて真っ黒な炭と化すと、はらはらと風に流されて消滅した。
――キングスフィンクス及び、スフィンクスの群れを殲滅しました
――経験値を186万4063獲得しました
――レベル38に上昇しました
――称号スキル『転生者』の効果が発動。パラメータ成長値が上昇しました
――条件を達成。『闘気術』が『魔闘気術』に進化しました。それにより『武芸者』が『武芸者(魔)』に変化しました
――武技『超魔闘斬閃』を獲得しました
――領域支配者の無力化に成功しました。領地を拡大します
――領地内に生息する魔物反応なし。魔物情報の登録に失敗しました
天啓が響く。
あ、ここ、プライドキングダムエリアとはまた別のエリアだったんだ。
へぇ~……。あ、そうなんすねぇ……。
(ん~~。なんっか、亜人たちの大切な奴が眠ってるらしいお墓、勝手に領地にしちゃっ、たけど……大丈夫かな。まぁ……言わなきゃバレないか。グラン王に頼まれたの、建物壊すなよってだけだし。うん。大丈夫だよ。きっと。うん)
なんとも締まらないが、ともかくこうして俺達は、グラン王からの依頼『ピラミッドを傷つけぬまま内部に巣食う魔物を退治せよ』をクリアするのだった。
ちなみに、ちょっと経ってから知ったことだが、何故アレだけ激しい戦闘をしておいてピラミッドに傷がつかなかったかと言うと、セーラが気を遣ってずっと極薄の水の膜でバリアしてくれていたかららしい。
セーラの姐さんナイス!! グッジョブ!!! 魔法教室の件もあってご褒美の女装レベルが、なんだか段違いに跳ね上がってそうで怖いが、まぁもう仕方ない。心を無にして受け入れようじゃないか。悟りを開けば女装くらいなんのそのよ。
あと、ついにクロのレベルが2上がった。スキルの効果で最大8倍になるのに、素の状態で筋力値10000になってしまったようだ。化物すぎますよネェッ!? そしてクロのレベルが上がったくらいなので、他の皆も当然のようにかなり上昇したのであった。
今話の最終ステータス
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名前:神崎創哉 16歳 男 レベル:38
種族:魔王
クラス:迷宮主
魔法:全属性
CBP:3000/3000
筋力:8400
耐久:2950
敏捷:5700
魔力:97000
器用:11450
能力:クラススキル『迷宮の支配者』
…DPショップ,領地拡大,領域改変,領地内転移
虚ろなる身体,万能翻訳,眷属化,解析
オーバーリミットスキル『愛に生きる英雄』
…武芸者(魔),英雄化,絶対不敗,蘇生
ユニークスキル『暗殺者』
…暗器百般,生体解剖,弱点看破,影渡り,状態異常付与
ユニークスキル『吟遊詩人』
…唱奏思念伝達,地獄耳,絶対音感,声域拡張
称号スキル
『転生者』『憤怒の魔王』
エクストラスキル
『悪意感知』『直感』『家事全般』
常用スキル
『魔王死気』
武技
『超魔浸透拳』『超魔闘斬閃』
熟練度:芸術5,ダンス6
耐性:飲食不要,疲労無効,不老,痛み耐性Lv8,熱変動耐性Lv3
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