74話 慟哭
「ん? アレか?」
「あぁッ!」
ヘルハウンドとのあれこれを終えた後、俺達はすぐさま出発し、現在に至る。所要時間は5分ほど。
めちゃめちゃ近いじゃん!! と思うかもしれないが、そうでもない。
単に俺らが速いだけだ。なんたって音速で移動できるのだから。そんな奴らが最高速度で5分移動し続けてようやくたどり着いた場所だ。むしろかなり遠かったと言える。
ちなみに、暑さ対策としてセーラの水球で常に全員の身体に膜をはった状態にした上で、自分たちの半径10m程度の範囲に散水しながら移動していた。
しかも空中を。砂漠は熱の反射率がエグイし、足もとられる。まともに歩いて移動なんかしてらんないのである。今回に至っては先を急ぐしな。
とはいえ対策の甲斐あって、かなり快適に移動出来た。日本でよくやっていた道路に水を撒く行為、打ち水。アレの仕組みである気化熱理論はやはり最強だったな。むしろ少々寒いくらいだったらしい。……いや、俺は大して関係ないんだけどね。低レベルとはいえ『熱変動耐性』のおかげで、他人より熱には強いのだ。暑さにも寒さにも。
まぁおかげでセーラが結構魔力を消費してしまったが、完全治療薬を飲めば完全回復するので問題はない。神様仏様魔法の温泉様様である。
「うわ、デケェ~」
実際真上に辿り着いてみると、ピラミッドは凄まじく巨大だった。
一つのブロックが2m×2m。そして、そんなブロックが一辺300個あり、200段積み重なっている。つまり底面積36万平方メートル、容積48万立方メートルの巨大建造物。DPショップにあったら、間違いなく『城』に分類されるだろうな。
なんて考えつつ、ピラミッド内部の気配や魔力を探る。
「確かに強いのが一匹いるな。けど、そんなイカれた強さって訳じゃなさそうだ。けど、取り巻きの数がエグいな……ざっと6000は居る」
「そんなにっ!? だ、大丈夫かな……」
「まぁ、どうにかなるさ奏。考えはある。けど、それが効くかどうかは実際に見てみないと分からん。解析は直接見ないと使えねぇんだ。……行くぞ。罠の類もないみたいだから、最短距離で道なりに一番強い奴の所へ行く」
何故罠がないことも分かるのか? 単純である。
罠というのは、多少なりとも侵入者や敵に対する悪意を持って仕掛けるものだ。よって『悪意感知』を持つ俺なら、罠の有無も分かるのである。
「あぁッ!? 何の力か知らねぇが居場所が分かるなら壁なんか壊せば良いだろ!! こっちは妹があぶねぇんだ!!」
俺の襟首を掴んで、噛みついてくる(物理にあらず)ヘルハウンド。
「まぁ、そう言うな。こっちにも事情がある。安心しろ。お前に似た魔力の持ち主はまだピンピンしてる。少なくとも殺されちまったってことはないし、なんか怪我をしたってこともない」
それをあくまで冷静に、ヘルハウンドにダメージが行かないように払いのけながら、教えてやる。
まぁ最も、攫われたのが武闘会前なんだから、とっくに奪われるもんは奪われただろうし、早けりゃ着床くらいはしてるかもしれないが……まだ大きくなってるってことはないだろう。十分におろせる範囲の筈だ。
「おら、喧嘩してる暇なんかねぇぞ。一刻を争うんだ」
「~~~ッチ! 分かったよッ! ほら、乗りな」
不満たらたらなのを隠そうともせず、しかし、ヘルハウンドは大人しく俺の言葉に従い、狼化して奏とシンシアを背に乗せ、前を走る俺達についてきた。
気持ちは分かる。焦る一方だろう。不安でいっぱいなんだろう。頭を冷静に保ってなんていられないんだろう。俺だって紗耶香が、いや、今となっては身内の誰かがそうなったら……同じようになるだろう。
でも、焦って当たり散らしても、意味はないんだ。こういう時ほど冷静にならなくちゃいけないんだ。これも所詮は理想論で、実際に俺が出来るかと言われたらそんなことはないんだが。でも、そうあれるように心掛けることなら、誰にだって出来る。だから、そうしている。少しでも自制するために。
そうして暫く。俺達は辿り着いた。
ピラミッド内で最も強力な力を持つ存在、キングスフィンクスのもとへ。
そして見た。
キングスフィンクスの足元で疲れ果てたように眠る、すっかりお腹の膨らんだヘルハウンドと似た特徴を持つ女性を。
「っあ、ああ、あ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」




