72話 え、あんた腹ペコキャラだったん?
キングス・ロック内部。
比較的被害が薄い応接室にて、俺とグラン王は大きな一枚岩を削って作られたテーブルを挟んで向かい合っていた。それぞれ背後に、一人侍従役を控えさせている。俺はクロを、グラン王はシェパードと言うらしい黒い豹を。
侍従というなら、本当はシンシアなのだが……彼女はまだ幼すぎる。幾ら精神的に出来ていても、場にそぐわないということでクロを代打とすることにしたのだ。
ちなみにこれは、クロ自身が名乗り出たことである。俺としてもクロは嫁になりはしたが、頼れる右腕であるという認識も変わってはいない。
当然ながら、異論はなかった。今後こういう場面では、基本的にクロと共に参加する事になるだろうな。
「一応聞くが、何の用で面談を持ち掛けてきたのだ?」
問いかけるグラン王は、その言葉通りまるでお前の目的は見えているぞ、と言いたげな表情をしていた。
「どうやらお見通しのようだな。……単刀直入に言おう。何人か、この国から人材を貰って行っても良いか?」
「ふっ……やはりな。お目当てはドワーフだろう?」
「あぁ、その通りだ。特に――」
「ギムリとレギン、であろう?」
「……知ってたか。あぁ、この2人を貰いたい。本人たちの意思は確認済みだ。あとはグラン王、あんたが了承してくれれば話は済む」
「良かろう!!! なんて、簡単に言ってやりたい所なのだが……。この通り、奴らからの襲撃を受け、我が国は半壊状態にある。人材をやるどころか、むしろ欲しいくらいなのだがな。復興のために」
「無論、承知している。だから、トレードをしないか?」
「トレード、だと?」
「あぁ、そうだ」
トレード。これこそが、戦いで勝って要求を通そう作戦が御破算になってから思いついた方法である。
「うちの魔物に、屋敷妖精ってのがいる。聞いたことはあるか?」
「無論だ。彼女らの姿ある家に繁栄あり、とまで言われた種族だからな。つまり、そなたは屋敷妖精とギムリ達を交換しようと言うのか?」
「その通りだ。だが、うちの屋敷妖精たちはダンジョンのPOPモンスターなんだ。領地外に行くことは出来ない。そこでどうだろう。俺達と友好条約を結ぶというのは?」
そう。これこそが、俺の真の目的。人材勧誘とかイメージアップとか、色々と目的はあった。けれど何より狙っていたのは、この国自体と友好を結ぶことだったのだ。もしこの国の住民たちが俺達に敵対していたなら、その限りではなかった。けれど実際には、仲良くやってこれた。なら狙うしかないよね! ということだ。
「あんたが敵対しないことを誓ってくれれば、その瞬間この辺り一帯も俺の領地になる。つまり、屋敷妖精たちをこの国に住まわせることが出来る。それこそ、山のように。それだけじゃない。この国がピンチになれば、昨日のように俺達が瞬時に駆けつけて援軍となることも出来る。領地内ならば、好き勝手に転移出来る力があるからだ」
「ふむ……その代わり、我々にも万一の時は援軍となってくれ、と」
「あぁ、復興活動も支援させてもらう。うちの侍従に、闇の女神官ってクラス持ちがいる。彼女はアンデッド使いだ。飲まず食わずの疲れ知らず、しかも怪力。復興活動には最適と思わないか? これはうちのPOPモンスターたちも同様だ。かなりのメリットがある取引だと思うのだが、どうだろうか? あ、勿論この国の王はそのままで良い」
まだキツイかッ!? これ実質、属国化しろって言ってるようなもんだもんな。領地内に入れって言ってんだから。
「……うむ。なるほど。話は分かった。かなり我々に得がある話だ。損はほとんどないも同然とすら言える。しかし、それだけでそなたの領地内に入ってやることは出来ぬ。実質影響はほとんどないと言えどな。よって、一つ頼まれてはくれぬか?」
「頼み?」
「うむ。これをもし、無事に完了できれば友好条約を飲もう。そなたの領地内に入っても構わぬ。民にとっては、ただ便利になるだけだからな。余のプライドの問題でしかない」
「本当か!? その、頼みってのは何なんだ?」
「ここ、プライドキングダムより更に奥へ暫く進むと砂漠がある。そこに巨大な三角形型の遺跡があるのだが……そこに住み着いた魔物共を一掃してきて欲しい。遺跡を可能な限り傷つけずに、だ。アレほどの生体魔鋼を確保出来るような戦い方が出来るのなら、容易かろう? ちとあそこは、我々亜人にとって大事な場所でな。そう。とても、大事な……」
過去を懐かしむように目を細めて呟くグラン王。
三角形型の遺跡、しかも砂漠にある。確実にピラミッドだな。となると……かなり亜人たちにとって大切な誰かの遺体が安置されているってとこか。
「……分かった!! その依頼、引き受けよう。待っていてくれ。必ず、遺跡に傷をつけず魔物共を一掃してくる。約束しよう」
「頼まれてくれるか! 感謝するぞ、サタンよ。いや、ソーヤ!」
「はは。構わないさ。こちらとしても、プライドキングダムという強大な味方を得られるんだからな」
「ふっ……。さて、話も落ち着いたことだ。少し食事でもしようか。そなた、酒はイケる口か?」
「っ……。あぁ、何も問題ない。あんたが満足するまで付き合おう」
「そうかそうか!! ふっ、ははは!! それは良い!! なら、是非とも付き合ってもらおうか!! シェパード!!」
「はっ!」
グラン王が侍従の黒豹と話している内に、思念話を繋ぐ。
《クロ、やっぱお前で正解だったわ。また頼む》
《……うちとしては、あんま無茶して飲まんで欲しいんやけどな。今の創哉はんは、身体が健康体やないからのぅ》
《……まぁ、それはそうなんだが。今回は付き合っておくべきだ。な? 頼むよ。完全治療薬もまだストックあるしさ》
《……はぁ~~、しゃーないのぅ》
表面上は真顔と無言を保ったまま、話をつける。
さて……飲むか。どうせまた口からナイアガラの滝を噴射して、生けるマーライオン化するの確定だけど、まぁこればっかりはしょうがない。
「来た来た!! やはりこれしかあるまい!! ソーヤ、そしてクロ! そなたらも遠慮せず食らうが良い!! 無礼講よ!!」
目をキラッキラに輝かせて、シェパードと数人の様々な種族のメイドたちが運んできたもりもり肉プレートを眺めるグラン王。
よだれを垂らしている。その光景に、何処か既視感を覚える。
「あ」
思い出した。
奏がライブを行った円形広場の涎噴水。アレに似てるんだ。というか、モロそのまんまだ。
なんであんなデザインにしたんだろうか? とか思ってたけど、そういうことだったのか。今にして思えば、確かに屋台村のある方向を見つめてライオン像は涎を垂らしていた。つまり、グラン王が実は腹ペコキャラであるということを表現すると同時に、屋台村のアピールを行っていたのだ。
いや、にしても……え、あんた腹ペコキャラだったん? ビックリなんですケド。
ちなみにその後、めちゃくちゃ食って呑んで騒いで、結局朝まで宴会は続き、そして俺は無事口からキラキラビーム出しまくリング。
クロに介抱されながら、完全治療薬を飲んで体調を回復させるのであった。




