71話 ゴーレム軍団
フィリオーラゴーレムを倒しひとまず一息ついていると、突如巨大な地響きと爆発音が聞こえた。それに慌ててグラン王と一緒に武舞台から出ると、そこは戦場だった。
フィリオーラゴーレム程の戦闘力ではないものの、数え切れないほどの白いローブを羽織り、顔まですっぽりフードで隠した人間大魔法人形が群れを成して一般人たちを襲っていたのだ。
そして、それを防ぐべくセセリーやクネーラ、ガルーダ警備隊の奴らやギムリ達、奏たち、プライドキングダムに今いる戦える者全員が入り乱れて戦い、街はすっかり大火に包まれ、一つの戦場と化していた。
押されてはいない。皆の奮闘の甲斐あって、被害者はいないようだ。しかし決め手がないらしく、壊しては再生され、を繰り返している。
どうやらグラン王と同じく、倒し方が分かっていないようだ。
「皆~~~!!!! そいつらは身体の何処かに文字が刻まれている!!! それを探してくれ!! その文字を弄ることで、そいつらは無力化出来る!! でも消す文字は正確に選ばないと逆効果になったりもするから、俺かグラン王が行くまで抑えててくれ!!」
街中の皆に聞こえるように叫ぶ。
「グラン王。俺が教えた文字、覚えてるよな? その文字だけを正確に消すんだ」
「うむ、分かっておる。あまり舐めてくれるな。では、行くぞ!!!」
「あぁ!!」
現在、ゴーレムたちの対処法を知っているのは俺と、俺が消すべき文字を教えたグラン王だけ。故に、手分けして行う必要がある。
急ぎ一番近くのゴーレムのもとへ駆け寄る。
「サタンの兄さん! 文字はあったぞ! それで、これをどうすれば良いんだ!?」
そこに居たのは、今の今まで気付いていなかったがガルーダ警備隊の隊長だった。こいつなら、しっかり覚えられるだろう。
「この文字だ!! この文字だけを消せ!! 抉ってもいいし斬ってもイイ! 何でも良いからこの文字だけをこいつらの身体から消すんだ!!」
「これだな!!? 了解した!! 聞いたなお前達!! 手分けして行くぞ!!」
『おうっ!!』
よし。これで、ゴーレムを殺せる奴が5人に増えた。だが、まだまだ人手が必要だ。奏たちは……遠いな。あいつらの手も借りたいんだが……。
「ってそうだ! ッチ、何やってんだ俺は!!」
自分の間抜け加減に苛立ちつつ、急ぎ思念話のネットワークを奏たち全員に繋ぐ。
《お前ら聞こえてるな!?》
《っうん! 聞こえるよっ、創哉!》
《うちもっ! 聞こえとるで!!》
《こっちも聞こえてますっ! 創哉様!!》
《聞こえてるよっ! マスター!!》
《私も聞こえていますっ!! 父上ッ!!》
全員バラバラの所に居るからどうしたと武舞台に居る時思っていたが、今にして思えばそういうことだったのだ。
そう。皆、ゴーレムからこの国の人々を守るために、それぞれで戦ってくれていたのだ。
《俺の記憶と知識を持つお前らなら分かる筈だ。こいつらはヘブライ語のギミックで動いている。身体の何処かにある文字からeに当たる部分を消してくれ。良いな?》
俺が簡潔にそう告げると、全員が一発で理解してくれたようですぐに了解と言って思念話を切った。
「これでよし……。ゴーレムを殺せる奴は10人に増えた」
ゴーレム共は『うじゃうじゃ』と表現出来るくらいの数だ。
まだまだ殺せる奴を増やさなくては。だが、ひとまずは一番近くの奴から順に対処していくより他にないか。急がねぇと!!!
◇◇◇
「つー訳で、お疲れ~!!!」
コンッ!! と木製のジョッキをぶつけ合う。
祝勝会である。アレから5時間、街の皆の協力の甲斐あって、マジで無限に居るんじゃないかと思えたゴーレム共も無事処理し終えたのである。
被害者はどうやらいないようだ。グラン王が部下たちを使って念入りに調べさせたようだから、まぁ間違いないだろう。
「しっかし、今回のババァは人形で攻めてきやがったか~。オレらが戦争の準備だっつって必死こいて鍛えた装備がみ~んな無駄になっちまったぜ……はぁ」
「まぁ、そうむくれんなよギムリ……気持ちは分かるけどよ」
攻めてきたのがゴーレムで一番しょげていたのは、ギムリだった。
「お疲れ。ギムリ、レギン。協力ありがとな。助かった」
「お~、サタンの旦那じゃねぇか。お疲れ! でも、なんだって旦那はアレの対処法を知ってたんだよ」
「……なんっつーかな。俺の故郷で、アレに似た奴を本で読んでな。武舞台に居る時、俺とグラン王はフィリオーラの姿をしたゴーレムに襲われてたんだが、そいつを本に書いてあった倒し方で倒せたから、他の奴もそうだろうなってさ」
「ほ~、なるほどねぇ」
いやホント、一時はどうなることかと思ったが……無事なんとかなって良かった。
「けど、街が半壊しちまったな。これじゃ、俺とグラン王のエキシビションマッチの再開どころじゃないか」
まぁ……実力の差は身に沁みて理解出来たので、どっちにしろ俺は今の実力のまま挑む気はないんだが。
しかし、どうすっかな。ギムリ達をどうにかして連れ帰りたいんだけど……。
「ま、後でダメもとで聞いてみるか」
玉座の間だろうと顔パスで通れるくらいの関係にはなれたしな。この襲撃を経て。なんだかんだで結果的には、美味しかったかもしれない。この世界に来て初めての、完膚なきまでの敗北も含めて。
「強く……なんねぇとな」
酒の入ったジョッキ片手に夜空を見上げながら、俺は独りごちるのだった。




