表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/102

70話 正体

「あら、何のことかしら。頭がどうかしてしまったの? グランの坊や」

「ふん……。なるほど、読めたわ。あやつらしい手だ。どうやら、貴様と問答をしても無駄なようだな!!! 土塊(つちくれ)っ!!!」


 その瞬間、グラン王の身体がブレる。

 次の瞬間には、グラン王はフィリオーラの背後にいた。


「がああ!!!」


 吼えながら、グラン王はフィリオーラの首を手刀で斬り裂いた。斬り、裂けた。


「お、終わった……?」

「油断するなっ!! こやつはまだ動く!!!」 


 しかし、首と泣き別れになって残された身体は、グラン王の言葉通り、動き出した。間も無く、俺に向けて迫る弾丸の如き極光。


「っ……!!!」


 急展開に理解が追い付いていない身体を何とか強引に動かして、フィリオーラ(首無し)が放った魔力弾を、当たる寸前で躱す。


ドォォォォン!!


 振り返ると、武舞台の観客席の一角が、丸ごと消滅していた。


「安心せよ、サタン。余の部下が既に動き出しておる。そなたの身内は勿論、犠牲者など居らぬわっ! だが……チィ、面倒な!! 以前までは生身の使いを寄こしてきていたというのに、何故今回はこのようなものを……ふんっ!!」


 ボヤキながらも、グラン王がフィリオーラを殴る。いつの間にやら、頭と身体がくっついている。

 俺の攻撃は一切効かなかったのに、何故グラン王の攻撃は効くんだ……? 何か秘密があるのだろうか。それに、どうして泣き別れになったはずの頭と身体がくっついて……?

 いやしかし、犠牲者が居ないのなら良かった。まぁ、うちの奴らは魂の繋がり(パス)を通じて居場所も分かっているし、無事なことも確認していたから、それほど心配はしていなかったが……。 


「……なぁグラン王。あんたさっき、こいつのこと土塊(つちくれ)がどうこう言ってたよな……?」

「むっ? あぁ!! こやつはっ、フィリオーラの操るっ! 魔法人形(ゴーレム)だ! 別に負けはせんのだがっ! 何度でも蘇る! 倒し方がっ、分からんのだっ!! 以前、もっと無機質な魔法人形(ゴーレム)を寄こしてきたことが、あったのだがっ! その時はっ、首を落としたら倒せた! だが、この様だ!! 正直っ、お手上げだなっ!!」


 フィリオーラゴーレムと激戦を繰り広げながらも、俺の質問に答えてくれるグラン王。ちなみにそのフィリオーラゴーレムは、一度首を斬り飛ばされて以来気が狂ったようにアハハハ! と甲高い声で笑い続けている。


 ゴーレム……ゴーレムか。

 この世界のゴーレムにアレがあるのかは分からない。でも、アレがあるのなら……俺の『解析』と『弱点看破』なら、見つけられるはずだ。

 そう考え、魔力を目に集中させる。


「あった……!!! グラン王!! フィリオーラの背中を剥いでくれ!! 服だけだ!!」

「むっ? 何か考えがあるのだな!? いいだろうッ!! があああッッ!!!」


 俺の指示通り、グラン王は迅速にフィリオーラゴーレムの服を剥いでくれた。その背中には、ある文字が彫られていた。


 אמת   

                   

 読み方は、emeth(エメス)


「これで、どうだッ!!」

 

 左端のローマ字のNに近い文字、emethのeに相当する部分だけを剣で切り裂く。

 その瞬間、フィリオーラゴーレムは狂ったように笑うのをやめ、停止。間もなく、ただの泥と成り果てた。


「……サタン。そなた、何をしたのだ……?」


 目を見開き、俺を呆然と見つめるグラン王。


「俺はこいつの倒し方を知ってた。それだけだ」

「その倒し方を聞いておるのだ!! 余も知っておかなければ次また魔法人形(ゴーレム)に襲われた時、対処出来ぬではないかぁぁぁ~!!」

「おわぁっ!!? わ、分かったよ。話す! だから揺さぶるのをやめてくれ!!」

「むっ。す、すまん……。つい……して、何をしたのだ?」

「え~っとだな。あの背中に彫られてた文字あっただろ? アレは俺の故郷に伝わる言葉の一つで『真理』って意味なんだ。んで、その左端にあった一文字を消すと『死』って意味に変わる。だから、あいつは力を失って元に泥に戻っちまったんだよ」


 まぁ正確には俺の故郷の言葉である日本語じゃなくて、ヘブライ語なんだけど。でも……なんだって、この世界にヘブライ語が? アレは正真正銘、本当のヘブライ語だった。いつも『万能翻訳』のおかげで言葉も文字も、全部日本語になってるけど……アレは違った。れっきとしたヘブライ語だ。


 勇者……。確か、異世界から召喚してるとか何とか、言ってたよな。まさか、地球から召喚された奴が昔居たのか? だから、文字が伝わってるのか……? 


「なぁグラン王。今って勇者、召喚されてんだよな」

「むっ? あぁ。でなければあやつは来ない。言っておったであろう。『勇者の経験値諸君』とな。ふん……腹立たしい事この上ないが、余たち亜人国家の住人は、勇者が召喚される度にあやつの使いに襲われてきたのだ。勇者が強くなる為のエサとする為に」

「そうか……そう、か……」


 勇者。まさか、誰か来ているのか……? この、ずっと感じている嫌な予感は、その誰かとの出会いを予見しているというのか……? 分からない。しかし、まともな出会いにはならないのだろうなと、思わざるを得ないのだった。    


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これ、文字の順番がこちらの世界のヘブライ語とは逆なので、「右端の文字」を消せば良い。と覚えていたら詰んでいましたね。 でも、「truth」の一部を消して「death」になる言語なら良いので、平仮名で「…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ