67話 王位選定武闘会-決勝2
お待たせいたしました~~~!! もうっしございません!!! ドラクエ3リメイクやりすぎた!!!
連続して飛来する超高速の不可視の矢。
しかし、創哉はそれを何処に来るのか事前に分かっているかのように動きその全てを斬り裂いていく。
《サタン選手!! セセリー選手の矢を次々と、次々と斬り裂いていきます!! 私にはぶっちゃけ見えておりませんが!! 何やら先程から何かが斬れる音がずっと続いているので素振りではなく本当に斬っているのでしょう!! 私、今から次回の実況では役を解任されそうで心配です!! 見えないものが多過ぎる~!!》
それはそうだと観客も思った。確かにハイテンションな実況が戦いを盛り上げてくれてはいる。けれど、実況が実況できてないことが多過ぎるのだ。
チュドンチュドンチュドォォン!!
《おっとぉっ!? 爆発です! セセリー選手、埒が明かなくなったのか爆発の矢に切り替えたァ!! しかしサタン選手、狼狽えない!! この男、冷静だあああ!! 爆発矢に変わったことを何かの力で察したらしく斬るのではなく避け始めました!! しかし!! なかなか攻勢に出ることが出来ない!! このまま粘っていても勝つことは出来ないぞ~~!!?》
実況の言葉を無視して飛来する矢をひたすら避け続ける創哉。
創哉が立ち去った一瞬後に矢は着弾し、武舞台を破壊する。一発一発に籠められた爆発力はそれほど高くはなく、既に武舞台に数十発は着弾しているが武舞台が消滅してはいない。けれど着実に武舞台は破壊されており、自由に動き回れるような逃げ場はなくなってきている。
《さぁ、サタン選手どうする~~~!? このままでは武舞台が消滅してしまうぞ~!!》
◇◇◇
(ぐっ、う……はぁ。はぁ。マズいな……。開幕直後の矢に毒が仕込まれてたらしいな……! 一撃も直撃してないのに、身体が、重いっ)
隙を見て完全治療薬を飲んで体調を治し、攻勢に出ようとするも、あいつはそれを察しているようで、なかなか暇を与えてくれない。
やはり予選で回復を行ったのは失敗だったか……? アレを見て、回復する手段があるのだとバレてしまったのだろう。
先程獲得した新しいスキルは既に発動している。
だからこそ、毒によって体調が絶不調であっても、どうにか攻撃を防ぎ、躱すことが出来ている。
しかしそれだけでは、実況の言う通り勝つことは出来ない。別に武舞台が木端微塵になって消滅しても、空中足場を使って空を走れば良いだけだから問題はない。けれど空の戦いになれば、俺は更に不利だ。あいつはガルーダ。そもそもが鳥だ。空中戦闘入門者の俺とあいつでは、レベルが違い過ぎる。
(何か……何か)
思考を巡らせる。
毒に蝕まれ、鈍る思考力を気合で働かせる。俺は負けられない。今後の計画の為というのもあるが、何よりちびっこ共の前でヒーローを名乗ったのだ。
カッコ悪い所は見せられない。必ず、勝利しなくてはならない。ヒーローは屈してはいけないのだ。
(まぁ俺、ヒーローどころか魔王なんですけどね! ははは!! ってあぁくそっ! 真面目に考えてるとこだってのに、考えが乱れるっ! 体調不良の時ってなんでこうなんだ……!?)
昔からそうだった。
インフルにかかって40数度の熱が出た時とか、これはヤバいぞ! って時ほどフザケタ思考になりやすいのだ。
いつもふざけてるだろって? そうとも言う。ある意味では体調不良の時でも平常運転出来る頑丈な精神の持ち主ということか。
(俺って実は最強だったのか……? ってあぁもう違うって!!! 今の現状を打開する方法を考えなくちゃいけないんだよ!)
そう、どうやって現状を打開するか。
俺が考えるべきはそこだ。では具体的にどうするか……。一度冷静になって情報をまとめてみる。
(あいつは鳥だ。空中戦が得意だ。色んな種類の矢を使う。スピードが速い)
そして……気づく。
(待てよ? ってことは、あいつを地面に落としちまえば。そして、それを今の俺なら出来るかもしれない……!)
鳥は、その翼によって揚力を発生させて飛ぶ。
ならば風を弄ってやればどうだ……? 正しく風を掴むことが出来ず、恐らくは、墜落する……!!!
荒ぶる風をイメージする。俺を中心とした大嵐。
「墜ちろ!!」
魔法が発動する。それは俺の予想通り風の流れを急激に乱し、あいつは驚愕に目を見開き、抵抗虚しく嵐に巻き込まれ翼をバサバサと撒き散らしながら墜落した。
◇◇◇
《サタン選手の凄まじい風魔法によって!!! セセリー選手、ついに地に墜ちてしまった~~~!!!! 翼も弓もボロボロです! もうこの試合中、空を飛ぶことも矢を放つことも出来ないでしょう~~!!! これは勝負あったか~~~!? そしてセセリー選手、立ち上がれなああい!! ダウン!! ダウンです!! カウントを致します!! 1! 2! 3!!》
「ぐ、うう……ま、参ったね。あんた、風を操れたのかい……」
墜落した衝撃で脳震盪でも起こしたのか、セセリーは立ち上がれないでいた。
「んぐ! んぐ! っはぁ~~。やっっと治った。あぁ。つい最近まで風どころか、魔法すら満足に使えなかったんだけどな」
それに創哉は、黒い渦から取り出した瓶を飲みながら答えた。
《4! 5! 6!!》
「く、くく……毒も治ってしまったか。なんて僕に都合の悪い。あんたは疫病神か何かなのか……?」
「失礼な奴だな。俺は魔王であって、疫病神なんかじゃないぞ。まぁ今はヒーローだけどな」
「ヒーロー、ヒーローか……。僕からすればあんたは、っう。この国の侵略者でしか、ないんだけどねぇ……。余所者のクセに、魔王のクセに、こんな人気者に、なりやがった……はぁ」
「あぁ、その通りだ。俺は魔王だからな。今はヒーローなんて名乗ってはいるが間違っても善なんかじゃねぇぞ」
《7!!! 8!!! 9!!!》
実況が10を数え、ゴング係がゴングを鳴らそうと構え、創哉が勝ちを確信し武舞台から去ろうとセセリーに背を向けて歩き出した瞬間!!
「僕は、僕だって、負けられないんだァッ!!!」
セセリーは立ち上がった。
「もう空は飛べない、得意の矢も、撃てないっ。けど、だけどっ!! まだ立ち上がれない訳じゃないっ!!! サタンッ……いいや、魔王仮面! 僕はまだ負けちゃいないぞッ!! 何を勝手に勝った気になってるんだ!!!」
よろめく身体を気合で動かし、セセリーは背後を向ける創哉に殴りかかった。
「……わりぃ。お前が動くの、分かってたわ」
しかし創哉は全く動じることなく、背後から来たセセリーの拳を受け止め、即座に首に手刀を叩きこんで気絶させた。
《せ、セセリー選手、立ち上がったと思ったら、再びのダウン、です。しょ、正直に申しまして急展開過ぎて理解が追い付いておりません……。と、とにかく、カウントを致します! 1!! 2!!》
そうして、今度こそセセリーは立ち上がることが出来ず、王位選定武闘会の優勝者は創哉ということになったのだった。
◇◇◇
「優勝おめでとう創哉!! 最後ちょっとドキッとしちゃったけど、やっぱ創哉って凄いね! 分かってたんだ」
「あぁ。ありがとう奏。実は最近、妙に勘が鋭くなっててな」
「それにしてもセセリーさん。あの状態から立ち上がってこれるなんて、凄いですよね……。飄々としたクールな人って印象だったのに……」
「あぁ、でもそれだけじゃないぞシンシア。あいつ最後の最後で成長しやがった」
「成長やと?」
「あぁ。明らかに、一皮むけた感じがした。多分俺と同じように、新しいスキルかなんかを獲得したんだろうな」
「……だとしたら、危なかったわね。でも、ありがとうマスター。仇をとってくれて」
「私からも、感謝します父上。そしておめでとうございます!」
「あぁ、ありがとう。けど……次はグラン王との戦いだ。優勝はしたが、まだゴールじゃない」
そう。まだゴールじゃないのだ。
しかも、グラン王すらゴールじゃない。嫌な予感がどんどん強くなってきている。気を引き締めないと。俺は魔王で、こいつらの主なんだから。




