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65話 決勝前の、束の間の平穏


「結局こうなったか……」

「僕はあんたと当たりたくはなかったんだけどねぇ。ま、当たったからには全力でやらせてもらうさ。恨んでくれるなよ?」

「恨みはしねぇよ。だが、俺が勝つ。そしてセーラとナディの仇はとらせてもらう。良かったぜ……こうして戦えることになって。お前は俺が倒したかったからな」


 ググッと右手を握り込みながら、ニヤッと笑い眼前に立つセセリ―を睨みつける。そう。ナディVSセセリ―の戦いは、あっという間に終わってしまった。対クネーラ戦と違い、状態異常攻撃を禁止されなかったからワンチャンあるのでは? と思っていたのだが、ナディが動き出すより前にセセリ―が超高速の不可視の矢を放ち、あっという間に追い詰めてしまった。

 痛みを感じず、血さえ十分な量あれば幾らでも再生出来るナディは普通なら有利だ。けれど単純な戦闘経験と、そして何より身体能力の差で負けたのだ。

 ナディは戦い続けること自体は出来た。けれどセセリ―の動きに追いつけない。目で追うことは出来ても身体が反応しない。

 だからナディは、降参を選んだ。後を俺に託し、潔く引く道を選んだのだ。


「戦いは、明日だ。……精々体調に気を付けることだな。ここまで来て不戦勝なんて冗談じゃねぇからな」

「僕としちゃ、あんたの方には体調不良で休んで欲しいんだけどねぇ。王位に興味もないのに参加されちゃ、いい迷惑だよ。僕ら一般選手としてはね」

「そういう訳にもいかない。確かに王位に興味はないが、俺達には俺達の目的があって参加してるんだ」

「そうかい。……それじゃ、また明日。武舞台で会おう」


 そうして、俺とセセリ―は別れた。

 何故戦いが明日なのか? 単純に時間的な問題である。途中途中で休憩時間を挟んだりもするからな。ずっとぶっ続けで誰かが戦ってる訳ではないのだ。


 以前からずっと感じ続けていた嫌な予感が、だんだん強くなってきている。俺はもうすぐ、そのナニカに遭遇するらしい。

 けれどそれは、明日の戦いのことではなさそうだ。一体何が俺を待っているのか? 分からない。けれど、何が来たって乗り越えてみせる。




◇◇◇




「よ~っす、ガキ共~。元気にしてたか~?」

「あっ! おーい、みんな~! さたんのにいちゃんたちがきたぞ~!! うたのねえちゃんとおにのねえちゃん、みんないるぞ~!」

「わああ!! きょうはみんなできてくれたの~!? あそんであそんで~!!」


 わーわーと群がってくる、様々な種族のちびっこ共。

 そう。ギムリとレギンに武器を作ってもらっている間の一週間。その時から俺達は出来るだけ毎日、誰かしらがこの場所『ワンダフル』へ通っているのだ。  

 それは良いけど結局ワンダフルって何なんだよって? 勘の良い人なら察しているかもしれないが、戦争孤児など様々な理由で孤児になってしまった子供を一挙に集め育てている孤児院だ。

 キングス・ロック戦士養成校には子供もいるが、彼らは戦いの才を見出されたが故に入校が許される。そうでない普通の孤児は、ここに集められているのだ。

 国営であり、ある程度の資金はグラン王配下の財政担当から支給されているようで、贅沢が出来る訳ではないが、不自由はしていない。

 

 では何故、俺達がこんな所に今いるのか? それは俺の、この国で成し遂げたい目的の一つ。『我が家に遊びに行ってみたいと思わせる』に関わっている。

 俺が迷宮主(ダンジョンマスター)であり、そして当代の憤怒の魔王(サタン)であることは国中に知れ渡っている。

 だからこそ、イメージアップを行い俺のダンジョンへ来たいと思わせる。それが目的の一つなのだ。


 これは、ギムリやレギンを始めとする人材勧誘とは別枠だ。何故ならギムリ達は眷属として迎え入れるつもりだが、このイメージアップ作戦でやってきた客人は眷属にはしない。けれど客人として迎え入れる。

 何なら快適な宿屋なんかも用意する。一体何がしたいのか? DPの確保である。眷属にさえしなければ、敵対者でなくとも侵入者扱いだ。故に客人を招き、俺のダンジョンを街として宿泊してもらう。それが目的なのだ。

 その一環として、俺達は孤児のちびっこ共と暇が出来次第遊ぶことにしているのだ。奏の路上ライブも時折行っている。そして、その収益は全て孤児院に入れさせてもらっているのだ。全ては集客のために。『情けは人の為ならず』と言うが、まさにその通りである。


 おかげで、かなり魔王のイメージアップには成功している。

 子供からも大人からも。武闘会に出場したのだって、グラン王に勝って人材勧誘をさせてもらうってのも勿論あるが、イメージアップの為でもあるのだ。


 彼ら亜人は、強い奴が好きだ。そして、そこに優しさや礼儀正しさなんかがあればもっと好いてくれる。だからこそ強さを見せつけつつ、ちびっこ共との関わりを経て親近感と優しさをアピールしているのだ。

 まぁ、俺が単純に子供好きってのもあるんだけど。ちびっこ共の相手は日本に居た頃からよくやってたしな。紗耶香は奏と同じで2つ下だが、それよりずっと幼い赤ん坊の面倒なんかもよく見ていたのだ。


「お前ら、今日は土産があるぞ~! ほれ!!」


 そう言って、影の回廊から俺特製グレゴンの実のタルト&ケーキを取り出して皆に見せる。 


「うわ~~~!! おいしそ~~!!」

「うんっ!!! でも、それなあに?」


 ふむ。この世界にはないのかな? それとも、この子達が知らないだけか? まぁいい。


「これはな、タルトっていうんだ。こっちはケーキ。美味いぞ~」

「そうなんだ~!!」

「へへ~ん! おれいっちば~ん!!」


 文字通り飛び込んできた鼻たれのわんぱく坊主(サイの獣人の男の子)をすぐさまキャッチして軽く拳骨を入れる。


「こら、前にも言っただろ~? 飯を食う前は、ちゃんとしっかり手を洗ってからにしなさい!! 泥まみれで食べちゃダメでしょ? メッ!」

「うっ……! へ~い」

「宜しい! つー訳なんで、悪いんだけど院長さんとシスター、それから神父さん達。適当に切り分けといてもらって良いですかね? その間、俺達の方でちびっこ共相手しときますんで」

「いつも悪いねぇ。新しい憤怒の魔王(サタン)が来たなんて聞いた時は、いよいよマズいかなと思ってたんだけど……こんな優しくて礼儀正しい方だったなんて。歳はとりたくないねぇ。早とちりが多くなる」


 しわしわの顔で申し訳なさそうにする犬耳の婆ちゃん。この人こそ、孤児院『ワンダフル』の院長さんである。


「いやいや、魔王が来たなんて聞けばそう思うのが普通っすよ」

「ありがとうねぇ、サタン様。それじゃあ、こっちはやっておくから。宜しくね」


 しわしわの顔を更にしわくちゃにしながら笑うと、院長さんは部下のシスターと神父たちを引き連れて建物の中へ引っ込んでいった。

 そう。この『ワンダフル』は、この国の信仰神であるネブ=タ=ジェセルを祀る教会でもあるのだ。


「さて!!! んじゃ、院長さん達が切り分けてる間、遊ぼうか! お前らは自分の好きなとこ行って遊べ!! クロ、いつも通り鬼ごっこの鬼役よろしく」

「ひひっ! 任しとき」

「んでセーラとシンシア、それからナディは女の子たちとおままごとな!」


 俺の言葉に、3人はそれぞれ頷く。


「よし。んじゃ奏、やるか」

「うんっ!」


 俺達がこの場所に来てやることは、決まっている。

 身体を動かしたいわんぱく坊主共の相手はクロで、女の子達の相手はセーラとシンシアとナディ。そして俺と奏は当然――。


「「La~♪ La~♪」」


 弾き語りである。

 ギターとピアノを使って、特にオウムタイプの鳥人やハーピィなんかを楽しませる。ピアノソロの間は、俺はひたすらブレイクダンスだ。 




◇◇◇




『ごちそうさまでした!!』


 食事会が終わる。

 味の方はとても好評で、特にシスターさん達になかなかの圧力でレシピを問い詰められた。なので、暇が出来たら奏も参加でお料理教室を開くことにした。 


「さて、俺から一つ皆に伝えたいことがある。実は俺な、王位選定武闘会に出場してんだわ!! そんで明日、決勝やることになったから。是非見に来てくれ」

『ええええ~~~!?』


 ちびっこ共だけでなく、大人たちも驚く。

 そう。俺はまだ、孤児院の皆にこのことを伝えていなかったのだ。何故か? 決勝と、その後に控えるグラン王との戦いを見せてやりたかったからである。

 もし途中で負ければ格好がつかないしアピールにならない。だから、ここまでは伏せておいたのである。

 ちなみに何故大人たちも知らないのかと言うと、彼らはちびっこ共の面倒を見るのに忙し過ぎて武闘会どころではないからだ。

 

「子供たちの引率には、うちの奴らも協力しますんで。宜しくお願いします」

「は、はは……全く。驚かせてくれるわねぇ~。年寄りの心臓は弱いのよ?」

「ははは! そいつは申し訳ない。でも、院長さんはまだまだ元気っすよ」

「ふふ……そうだと良いわね。分かったわ。それじゃあ子供たちを連れて、明日は応援に行かせてもらうわね」

「えぇ。決勝に勝って、グラン王にも勝ってみせますよ」

「ふふ。貴方なら、本当にやってしまいかねないわね」


 そして時は過ぎ……。


《いよいよ!! いよいよやってまいりました!! 王位選定武闘会、決勝です!!! 両選手、ご入場くださぁぁぁい!!!》


 いよいよ、決勝が始まる!!! 


次回はいよいよ決勝戦です。

長かった武闘会も、終わりが迫ろうとしている。また、長らく創哉が感じ続けてきた嫌な予感も、ついに迫ろうとしています。

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