閑話 野次馬だよ! シンシアちゃん
これは、前話でセーラとセセリーが上空での超音速バトルを開始する前のお話である。
閑話 野次馬だよ! シンシアちゃん
「あっ、奏お姉ちゃん。私ちょっとトイレに行ってくるね?」
「ん? あぁうん。……どしたの? そんなニコニコして」
「お気になさらず! お姉ちゃんは愛しの旦那様と2人きりでイチャイチャしてて! 折角クロお姉ちゃんが居ないんだから、こういう時もっとグッと行かないとだよ?」
「え、えぇ? 私別にクロより優位に立ちたいとか、そんなのないんだけど。私達はあくまで平等に創哉に愛してもらってる訳で……」
「でも、お姉ちゃん夜寝ちゃうこともあるでしょ? そういう時はクロお姉ちゃんの独壇場なんだよ? たまにはアピった方が良いって! ね?」
「……ホンット、シンシアってば最近なんというか、色々と強くなったよね。昔はあんな引っ込み思案だったのに。一体何処行っちゃった訳?」
「ワタシニホンゴ、ワカリマセ~ン。それじゃ!」
ふっふっふ。よ~し、創哉様は試合に夢中で私のことに気付いてなかったし、今しかチャンスはない!!!
ナディくんのデート! 覗かずにはいられないッ! どうしてこんな野次馬精神に溢れすぎているのか分からないけど特に自分に荒れてはいない! ヨシッ!
「今何かの電波を受信したような気がする……」
アンデッドさん達の魂を自分の中に保管するようになってからというもの、凄く自信がついたのだ。彼らは私の中でいつも賑やかだ。
あの時、創哉様に叱られた時も、アンデッドさん達は私を励ましてくれた。そして私の芯を見つける手助けをしてくれた。
おかげで私は、私の『芯』を見つけることが出来た。けれど、やはり幾つもの死者の魂を自分の中で眠らせている以上何かしらの影響は受けるのか、ちょくちょく電波を受信してしまうようになったのだ。
もしかしたら私が従えているアンデッドさん達の中に創哉様と同じくこの世界ではない何処か出身の子がいたのかもしれない。記憶は引き継いでいなくても、魂の記録から受信してしまうこともあるのだ。
「――にゃ~」
おやおやおや? 今の声は……確かナディくんに猛アタックしてたフェレスのお姉ちゃん!? 早速イチャついてるんですか~!? ひょっとして本番中!!?
出店が並ぶ廊下の端にあるトイレの中から聞こえてきた甘い鳴き声に、私は思わず口を抑え極力音をたてないようにして、ナディくんがフェレスのお姉ちゃんと一緒にいる女子トイレの一番奥の個室のドアに身体をくっつけて、耳を当てた。
「クフフ、全く困った娘ですね。――さん」
「にゃ~ん……ごめんなさいにゃ~」
うう~ん、名前が聞こえない。
なんだろう。なにか液体が流れる音……? も、もしかして!? お、おしっこをアレコレする的な村で教わったアレ!? ちょ、ちょっとそれはナディくんには早すぎるよ~!
「え、えぇ~い!! こらナディくん!! まだ早過ぎるよ! もっと順を追ってラブラブしようよ!! 流石に看過できないよ!!」
バァン! と勢いよくドアを開けて、乗り込むシンシア。
「って……え?」
しかし、そこに居たのはナディとフェレスのお姉ちゃん……だけではなくもう一人フェレスのお姉ちゃんを凄く小さくした感じの子がいた。
「おや、シンシア姉様。どうなさったのですか? こんな所に来て」
「えっ? あ、そのぅ……ちょっ、とね。えと、この娘は?」
「うん? あぁ。私の友人であるシャムさんの妹ですよ。実はまだ一人でトイレの方が出来ないようで。たまたま通りかかったら『ど、どうすれば良いニャ~!?』と困っていらしたので手伝っている次第です。こういう年頃の子供の世話は初めてなようで」
※↑なんて言っているが、ナディ自身が生後二か月ほどだという事実はナディもシンシアも忘れ去っていた。ナディが色々と出来るのは、創哉の記憶と知識によるものなのである!! なお、戦闘面は本人のセンスが大きい。
創哉は自分も幼いながら、妹である紗耶香のおむつやら何やらを手伝っていたりしたので知っていた。そして大きくなってからも、親戚の子の世話をよく任されたりもしていたのだ。その結果、小さい子のお世話経験とその知識がかなり豊富なのである。by作者
「あ、へ、へぇ~。そう、なんだ~。ふぅ~ん。じゃ、じゃあ私はこれで~」
「ちょっと待つニャ」
「ひゃいっ!? ん、んんっ! な、何でしょうシャムさん」
「こっちに来るニャ」
「あ、はい」
シャムさんに言われた通り、私はナディくんとシャムさんの妹から少し離れた所に来た。
「ちゃんと聞くニャ。良いニャ……?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
ま、まさか私史上初めての壁ドンがナディくんに惚れているであろう女の子にされるとはっ……。ハッ!? まさか、このフェレスのお姉ちゃんは両刀でナディくんごと私も平らげようって言うの!?
「ラブラブしても良いのにゃ?」
「はぇ……?」
「順序さえ守ればナディくんとラブラブしても良いのかにゃ!?」
小声で、だけど叫ぶシャムさん。
「あ、そういう……。えっと、はい。ご自由にどうぞ。結婚するつもりなら、挨拶には来てくださいね? あ、でも無理矢理はダメですよ? 愛し合ってるなら、大歓迎です。身内は積極的に増やしていきたいので」
「……野次馬しに来たわりには、全然からかったりしないのニャ。何しに来たんだニャ? まぁでも、分かったニャ。ありがとニャ。シンシア!」
しゃがんで視線を合わせた上でがばっと抱きつき、私の頬に自分の頬を合わせてスリスリしながらシャムさんはお礼を言った。
そして、ナディくんと妹さんが待つトイレに再び戻っていった。
「……帰ろ。あーいや、創哉様と奏お姉ちゃんはもう暫く二人っきりにしてあげたいし、クロお姉ちゃんの応援でもしに行こ~っと」
※なお、魂の繋がりで通じ合っているためナディはシンシアの接近に気付いていた。その上で放置していた。何故なら面白いから。シンシアのキョドる姿が見たかったのである。いたずら好き再びの炸裂であった。




