62話 王位選定武闘会-本選2
《さぁ王位選定武闘会本選、第2試合!! 両選手、ご入場くださぁぁぁい!!!》
その言葉に従って、両サイドの門からセーラとガルーダが堂々とした足取りでゆったりと入場してくる。
ナディはまだ戻ってきていない。先程まで俺達がいる観客席の向かい側に居たあのフェレスも消えているので、多分また会っているのだろう。
これはもう間違いないか……? いや、女側からの片想いでナディは紳士的に対応しているだけ説もなくはないしなぁ。
ん~む、どうなんだろう。気になる……。
《東方、セーラ選手! 第1試合のナディ選手と同じく、サタン一派の海翼種です!! 予選では素晴らしい演奏技術にて我々を魅了してくれました! 正直何が起きたのか分かってないので紹介できることがありません! 申し訳ない!! でも実力者なのは間違いないぞ~!!》
実況の解説が入る。
凄いぶっちゃけた解説に、観客たちも笑っている。
《続いて西方!! セセリー選手! クネーラ選手同様、キングス・ロック戦士養成校出身のガルーダ!! アーチャークラスを卒業している弓の名手であります!! 更に! 普段はガルーダ警備隊のエースとして働いておりまぁぁす!! これは期待出来るぞ~~~!!》
あいつ、セセリーっていうのか……。ちょっと面白い。
「どしたの創哉。なんか楽しそうだね」
「うん? いや、ちょっとあいつの名前がさ」
「セセリ―さんのこと? そんな変わった名前かな」
「いや、別に変わってるとは思わないけど……いやほら、鳥の首らへんのことセセリって言うんじゃなかったっけって思ってさ」
「あ~、そういうこと。ふふっ、確かに。もしかしたら鳥の獣人さんは皆そういう名前なのかもね!」
「かもなぁ~。あれ、そういやシンシアいねぇじゃん。どしたん? 奏なんか知ってる?」
「あ~、なんかさっきニコニコ笑いながらトイレ行って来るとかなんとか言ってたけど」
「……ニコニコ笑いながらトイレに? ……はぁ。そゆことね」
ナディの野次馬しに行ったって訳か。ほっといてやればいいのに。
《さて! それでは特殊ルールのくじを引かせていただきます。……出ました!! 第2試合の特殊ルールは~? 『回復系能力及びアイテムの使用禁止』です!! それ以外は何でもあり! 時間制限もなし! 降参宣言をするか、10カウントまで立ち上がることが出来なければ試合終了となります! それぞれ磨いた力と技を、存分にぶつけあってください!! それでは……始め!!》
実況の合図と共に、ゴング係がカン!! と大きく一度ゴングを鳴らす。
回復系能力及びアイテムの使用禁止、か。
相手選手のセセリ―はどうか知らんけど、セーラ的には全く意味のない縛りだなコレ。あいつ回復系の魔法もスキルも使えないし、それに完全治療薬も持たせてないからな。
これなら、少なくともセーラは特殊ルールの影響を全く受けずに戦うことが出来る。セセリ―も何か持ってたのだとしても、回復出来ないだけで戦う力は制限されない。つまり、正真正銘全力勝負が見れる訳だ。
1試合目のナディVSクネーラは、2人とも制限バリバリ受けてたからな。クネーラさん、絶対あんなもんじゃない。妖術も使えない蜘蛛糸も使えない毒も使えない。そんなんで戦わなきゃいけなかったから、アレで終わった訳で。
「さて、どうなるか……」
◇◇◇
「宜しくお願いするよ。それと……以前、うちの若い奴らが失礼したみたいだね。隊長から聞いたよ」
体毛は深い青で嘴は黄色、そして瞳の色は翡翠。飄々とした雰囲気を醸し出す感情の読めない目つきをした二足歩行の鷲は、カチャと背負う弓を鳴らしながらそう言って話しかけた。
見るからに質の良い弓である。しかし、矢が見当たらない。弓の使い手である以上は矢を持っていて当然の筈なのに、だ。
「あぁ、別にそれは良いわよ。それより、警備隊のエースなんだって?」
「ま、一応ね。それなりにやらせてもらっているよ」
「ふぅん……? それなり、ねぇ」
「あぁ。それなり、さ。……君の方こそ、予選では凄い活躍だったそうだねぇ。演奏に聞き惚れている内に戦いが終わっていたそうじゃないか。そのハープ、何か秘密がありそうだ。それとも……君自身かな? 若い奴らも言っていたが、どえらく強いという評判は間違っていなさそうだ」
「さぁ、どうでしょうねぇ~? 私もそれなり、だから」
「ほぅ? それなり、か」
「えぇ。それなり、よ」
「「ふ。ふふ……」」
両者が握手を交わしながら笑い合う。しかしその眼は互いに全く笑っておらず、会話の中で自分の情報を隠しつつ相手を探っているのが良く分かる。
《さて! それでは特殊ルールのくじを引かせていただきます。……出ました!! 第2試合の特殊ルールは~? 『回復系能力及びアイテムの使用禁止』です!! それ以外は何でもあり! 時間制限もなし! 降参宣言をするか、10カウントまで立ち上がることが出来なければ試合終了となります! それぞれ磨いた力と技を、存分にぶつけあってください!! それでは……始め!!》
カン!!
ルールが説明され、試合開始の合図が鳴る。
セーラは即座にハープを奏でようとする。
しかしその瞬間!!
ボォン!!!
突如として巻き起こる爆発。
セーラが手に持っていたハープは弾き飛ばされてしまった。
「悪いねぇ。僕は慎重派なんだ。やらせないよ」
「ふぅん、あらそう。でも……それだけで勝ったつもりかしら?」
《試合開始早々巻き起こる爆発!! それによってセーラ選手のハープが弾き飛ばされてしまった~!! またあの演奏を聞きたかった私としては残念ですが、同時にアレを聞くと試合がどう進んだのか分からないので安心もしています!! この複雑な感情をどう言えば良いのか~!? っとぉ~!? セーラ選手の足元に水の膜? のようなものが発生している~!! アレはなんだ~!?》
そう。既に、セーラの足元には水が発生していた。
ハープを奏でようとする動き自体がブラフだったのだ。
「生憎と、私の準備は既に整ってるの。ふふっ、これはお姉さんの勝ちかしらん?」
むふぅ、と笑うセーラ。
目を閉じて腕を組んで、あからさまに無防備な姿を晒している。
それを訝し気に思いつつもセセリ―は念の為と考えてか天高く舞い上がった上で、弓を構えた。
そして何もつがえないまま、引きしぼった弦を離した。
ヒュン! ゴォ……!!
風を切ってナニカが進む音が武舞台に響き渡る。
しかしそれが着弾する直前、セーラの足元の水が独りでにうごめき、セーラの頭上を守るように膜を張った。
ボンボンボォン!!!
再びの爆発。
それは3回、連鎖的に巻き起こった。
それを見るや否や、セセリ―は目を細め次の手を打った。
セーラの周囲を高速で飛び回りながら、次から次へと矢を放ち続ける。
チュドンチュドンチュドォォォン!!
《セセリ―選手、猛攻撃です!! 目にも止まらぬ速度で空を飛び回りながら! 中心にいるセーラ選手へ爆撃を浴びせ続けています!!! そう! これこそガルーダ警備隊エースの十八番技!! 連鎖爆撃矢です!! これによって多くの人間や敵対勢力が葬り去られてきました~!! これはセーラ選手、流石にやられてしまったか~!?》
何度も何度も、爆発が起こる。
度重なる爆発による煙で、セーラの姿が見えなくなっていた。
そこでセセリ―は一旦攻撃の手を止める。
すると次第に煙は晴れていき、人影があらわになっていく。
そこには――、
《な、なんということだ~!!! せ、セーラ選手!! 無傷、無傷です!! あの超必殺技を棒立ちで食らっておきながら、その衣服すら! 何一つ変わっていません!! 煤すらもないとは、一体何ごとだ~!?》
全く無傷のセーラが立っていた。
先程と寸分違わぬ、むふぅとした笑顔を浮かべている。
それを見ると、セセリ―は降りてきた。
「なるほど。どうやらその水は、君への攻撃を自動的に防ぐ防御膜のようなものらしいね。しかも、かなりの性能だ」
「ふふん。そゆこと♪ ふぁ~あ、お姉さんあくびが出ちゃうな~。ガルーダ警備隊のエース様はこの程度なのかしら~?」
「ふぅ……随分と分かりやすい挑発をするものだねぇ君。でも、良いだろう。ノッてあげようじゃないか。狙いは僕の実力を測ることかな? 何の目的かは知らないが、僕は次の王になるため試合に出場した。……全力で君を倒す。もう、ソレの攻略法はなんとなく理解出来たからねぇ」
そう言うや否や、セセリ―は再び空の弦を弾いた。
その瞬間、一瞬ビリッという音が鳴る。すると、
「づっ!?」
セーラの腕に一筋の切り傷が出来た。そして、その周りは焼けていた。
「どうやら僕の推測は当たっていたらしいねぇ。次は獲る気で行くよ。そろそろ君も本気を出した方が良いんじゃないかい? ご自慢の防御膜も意味を失くしてしまったことだしねぇ」
《一体何がどうしたことか!? セーラ選手の右腕に切り傷と火傷が出来ております!! あの超爆撃を耐えきっておきながら、一体何故攻撃を受けてしまったのでしょうか~!? 私には分かりません!!》
何が起きたのか? それは単純な話だった。
「……爆発矢だけでなく、雷の矢も使えたのね。貴方」
「まぁね」
そう。水の防御膜だから、雷は通ってしまうのだ。
「何もつがえていないのに矢が飛んでくるのは、魔力で矢をその場で生成しているって所かしら? しかもご丁寧に透明化させて。貴方……暗殺者の素質があるんじゃない?」
「さぁ、どうだろうね」
なんて話していたと思った次の瞬間!!
ポロロン/チュドォォォン!!
ハープの音に重なるように爆発音が響き渡る。
それによって、ハープの音はほとんどがかき消されてしまった。
そう。セーラは会話にてセセリ―の視線を顔に誘導しながら、極限まで薄く細く伸ばした水でハープの弦を撫でたのだ。逆転の目を掴むために。
だが、それは潰えてしまった。
「抜け目ないわね……」
「言っただろう? 慎重派なんだよ僕は」
「……なら! 真っ向勝負でケリをつける! ついてこれるもんなら、ついてきてみなさい!!」
ドン!!
凄まじい衝撃音が武舞台に響き渡る。
《き、消えた~!? セーラ選手、消えました!! 凄まじい音が鳴ったと思った次の瞬間、セーラ選手、消えてしまいました!! 一体何が起きたのか~!?》
何が起きたのか? ソニックブームである。
「……なるほど、速いな。だが」
ドン!!
再び凄まじい衝撃音が武舞台に響き渡る。
《き、消えた~!? セセリ―選手まで、消えてしまいました!! もう私何を実況して良いのか分かりませ~ん!! 一体何が起きているんだ~!?》
◇◇◇
「セーラの速度についてくるか。あいつ、ヤベーな」
「えっ! 創哉ってば見えてるの?」
「あぁ、今は上空で戦ってる。セーラが手刀を振って水の刃をバンバン飛ばして、それをセセリ―が躱しながら雷の矢を撃ちまくってる。見てみろ。白い雲なのに稲光が見えないか?」
「い、言われてみれば……見える、ような……?」
「おっ! あれなら分かるだろ! ほら、今雲に線状の穴が開いただろ?」
「うん。見えた見えた! すっご~!」
「ッ……!! ヤベーあいつモロに食らったぞ!!!」
「えっ!?」
実況が実況出来ねぇよ~! と泣き言を言っている最中、創哉は戦場をハッキリと追うことが出来ていた。
また、別の所にも同じように上空を見つめるものが複数。
一人は、特別席の玉座に座るグラン王。
一人は、自分の出番を選手控室にて待っているクロ。
一人は、フェレスの娘と共に出店を巡っていたナディ。
一人は。一人は。一人は。一人は。一人は。
そして――。
「ふん、程度が知れるな。とはいえ、まだもう暫くは泳がせてやろう」
プライドキングダムより遥か遠方の上空に浮かぶ、黒コートの何者かもその戦場をハッキリと捉えることが出来ていた。
◇◇◇
「ぐっ、あっ!? づっ、う!! ああ゛ァ゛!!」
落ちていく。墜ちていく。堕ちていく。
焼けた三対の白翼から白い羽をバサバサとまき散らしながら、苦悶する。
ズドォォォン!!!
超上空から墜落したセーラは、武舞台に大きなクレーターを作りながら、そのクレーターの底で暫く悶えた後、がくっと力なく倒れ伏した。
《せ、セーラ選手……だ、大丈夫でしょうか……? んんっ! か、カウントをとります!! 1、2!》
それが10を数えても、セーラは立ち上がることが出来なかった。
《セーラ選手、ダウン! 残念ながら、10カウントを数えても立ち上がることが出来ませんでしたっ! よって、第2試合の勝者は、セセリ―選手となります!! おめでとうございます!! セセリ―選手準決勝出場決定!! セーラ選手には既に救護班が向かっております! 少々お待ちください!》
「そんなの必要ねぇ!!」
《おや。貴方は、魔王仮面選手? 必要ないとは……》
「もう試合は終わったんだ。俺が干渉しても良い筈だ」
創哉は観客席から飛び降りて、武舞台の中央に出来た大きなクレーターの中心で力なく眠っているボロボロになったセーラに駆け寄ると、すぐさま手元に黒い渦を発生させると、そこから小瓶を取り出し、手早くその蓋を開けてセーラの口に流し込んだ。
すると、ボロボロで火傷まみれだったセーラの身体は一瞬とは言わずとも高速で癒え始めた。
「……これは試合だ。納得済みでの出場だ。何も言わないし、恨みもしない。そういう場だからな。だが、一つ言っておくぞセセリ―。もし決勝で会うことになったら……ぜってぇ負けねぇ」
「そいつは恐いねぇ。あんたと当たらないことを祈っておくよ」
「……言っとけ。すかし野郎」
◇◇◇
「……はぁ~~~~。やっちまった。めっちゃキレてると思われたよなぁ。はぁ~~~。あいつもセーラも全力で戦った。その結果の傷で敗北だ。誰も悪くねぇ。なのに俺ってば……あ゛あ゛あ゛あ゛~~」
「そんな落ち込むことないって! セセリ―さんも分かってくれてるよ。きっと」「そうかなぁ~? はあああぁ~~~」
理性と感情は別枠って言うけど、正にそれだな……。
どっかでセーラなら絶対勝てるって、思い込んじまってたのかなぁ~。皆に油断して勝てる相手じゃないぞ。なんて言っておきながら俺が一番油断を、慢心をしていたのかもしれないな……。




