61話 王位選定武闘会-本選1
いよいよ始まりました本選。
ここまでちょっと長かったかな(笑)
《いよいよ始まります!! 王位選定武闘会本選、第1試合!! 両選手、ご入場くださぁぁぁい!!!》
その言葉に従って、両サイドの門からナディとアラクネのお姉さんが堂々とした足取りでゆったりと入場してくる。
2人ともかなりの声援をかけられているが、特に目立つのはナディへの黄色い声援だ。というか、もはや愛の叫びだ。
そう。ナディに猛アタックしたらしいフェレスの娘である。
ナディも優しげな目つきでそれに応えて手を振り返している。これは……ひょっとして冗談抜きに”ある”のか? 面白半分で近々お爺ちゃんになる説とか言ってたけど、マジであるかもな。知らんけど。
《東方、ナディ選手! 来客であるサタン一派のデイライトウォーカー! 伸縮自在なレイピアの使い手であり、血を操る能力を持ちます! 若手ながらもその実力は相当に高い!! また、その甘いマスクから女性人気も高いようだ~!!!》
実況の解説が入る。
流石に本選だけあって、紹介が丁寧だな。
――キャー!! ナディ様~!!
――ナディくん頑張るニャ~!!
女性たちの黄色い声援が場内に響き渡る。
ナディくん呼びですかそうですか……。ん~む。
《続いて西方!! クネーラ選手! キングス・ロック戦士養成校出身のアラクネであります!! 遠い祖先に女郎蜘蛛という極東の妖怪を持つこの辺りでは珍しい妖術の使い手だ~! 養成校ではハンターのクラスを卒業しており、こちらも相当な実力者だぞ~!!》
「なにっ!?」
実況の解説に思わず突っ込んでしまう。
まさか、妖術の使い手とは……。これはかなり厄介だぞ。
「……ナディの奴、無茶をしなければいいが。クロ、気付いてたか? あのクネーラって奴が妖術の使い手だって」
「いや、気づいとらんかったわ。ぱっと見じゃ魔法と区別つかへんからのぅ。五感への介入に至っては、外からじゃ分からへんしな。それにうち、感知は苦手やしの~。気配はなんとなく分かるが、妖力持っとるかどうかなんて分からへんわ」
「そうか……」
《さて! それでは本選から始まる、特殊ルールのくじをこれより引かせていただきます。……出ました!! 第1試合の特殊ルールは~? 『状態異常攻撃の禁止』です!! それ以外は何でもあり! 時間制限もなし! 降参宣言をするか、10カウントまで立ち上がることが出来なければ試合終了となります! それぞれ磨いた力と技を、存分にぶつけあってください!! それでは……始め!!》
実況の合図が出されると同時、予選やバトルロイヤルの時はいなかったゴング係が、カン!! と大きく一度ゴングを鳴らした。
状態異常攻撃の禁止、か。それなら妖術の一番恐ろしい部分は封じ込めることが出来たと言って良いな。しかし、それはナディも同じことだ。
ナディの『血液操作』は、状態異常そのものだ。つまり、一番使い慣れた戦法を封じられてしまったのだ。まともに肉弾戦でやり合うか、魔法戦で行くしかない。
「頑張れ。ナディ……」
なんて呟きながら、俺は観戦に集中し始めるのだった。
◇◇◇
「宜しくお願いするわね? ナディだったかしら」
4本ある腕の上にある方で腕を組み頬に手を当てつつ、下にある方の右手を差し出してくるクネーラ。
「えぇ。こちらこそ、対戦宜しくお願いします。クネーラ殿」
両者が握手を交わし合う。
《さて! それでは本選から始まる、特殊ルールのくじをこれより引かせていただきます。……出ました!! 第1試合の特殊ルールは~? 『状態異常攻撃の禁止』です!! それ以外は何でもあり! 時間制限もなし! 降参宣言をするか、10カウントまで立ち上がることが出来なければ試合終了となります! それぞれ磨いた力と技を、存分にぶつけあってください!! それでは……始め!!》
カン!!
ルールが説明され、そして試合開始の合図が鳴る。
その瞬間両者は動き出した。
キンッ!!
甲高い音。
ぶつかり合う鋼と鋼。
「今ので決めるつもりだったのですが……流石は本選に勝ち上がってきた実力者ですね」
「お褒めに預かり光栄ね。でもそれは、貴方だって同じよナディ。私だって今ので決めるつもりだったんだもの。これでもスピードには自信があったんだけどねぇ」
ギリギリとそれぞれの得物を鍔迫り合わせながら、両者は言葉を交わす。
《試合開始早々の衝突!! クネーラ選手の短剣と、ナディ選手のレイピアが鍔迫り合っております!! どちらが押し勝つのか~!?》
「それは残念でしたね」
「えぇ、残念だわ。でも……」
クネーラは中途半端に言葉を切ると、残り3本の手を動かし始めた。
「これで終わりよっ!」
その3本の手に持っていたのは、レイピアと今も鍔迫り合っている短剣より少し小さなナイフ。クネーラは四刀流の使い手だったのだ。
《クネーラ選手!! 残り3本の手に隠し持っていたナイフでナディ選手を攻撃!! 対してナディ選手の得物は一つしかない! これは万事休すか~!?》
キンキンキン!
万事休す。これは決まったな。そう思われた時、突如としてレイピアの刀身が変化し、枝葉のように伸びていくとクネーラの別々の所への攻撃を全て防いでみせた。
《ナディ選手のレイピアが変化した~!! 伸縮自在の剣だからこそ出来る防御方法で、窮地を切り抜けてみせた~!! これは凄い!!》
「クフフ……残念。私の剣は特別性なのです。この首、そう簡単に獲れると思ったら大間違いですよ」
ニヤリと、イタズラな笑みを浮かべるナディ。
「~~っ。わざわざ当たる直前で防ぐなんて……貴方、性格悪いわね!」
「クフフ……自覚しています。他人の驚く顔が何よりの大好物ですので。ごちそうさまです。イイ間抜け面でしたよ。クネーラ殿」
実にイイ笑顔を浮かべながら、ナディは笑う。
「~~っ! 死ね!」
恥ずかしさからか顔を紅潮させながら、クネーラは4本のナイフを振るう。冷静さを欠いているように見えても、その太刀筋は巧みなもので的確にナディを追い詰めていく。
《ナディ選手の煽りを受けて、クネーラ選手恥辱の猛攻撃です!!! 速い! 速い速い!!》
しかし、ナディもナディで実にイイ笑顔を浮かべたまま枝分かれした刀身を元のレイピア状態に戻した上で、巧みに剣を動かしその全てを防いでいく。
《しかし! ナディ選手も負けてはおりません!! その全てを防いでみせた~!! やはりこの男、実力者だ~!!》
「クフフ。足元がお留守ですよ? ……『穿て』」
クネーラの猛攻撃を防ぎながら、ナディはそう告げた。
次の瞬間!!
ズウォッ!!
クネーラの下半身である大きな蜘蛛部分の真下にある、武舞台のタイルの岩が突如として隆起する。
「残念!! 甘いわね!」
しかし、クネーラはそれを避ける。
攻撃の手を止め自ら大きくジャンプすることで、岩の隆起による衝撃を食らうことなく躱したのだ。
「クフフ……甘いのはどちらでしょうね? 『弾けろ』」
再び実にイイ笑顔を浮かべながら、ナディはそう告げる。
その瞬間!!
パン! パンパン!!
隆起したことで空中に散っていた岩の小さな破片が、断続的に破裂する。
「いった!? いた! いたた!? ちょっ! もうっ! ウザったいわね~!」
落下しながら、弾ける岩の破片による散弾を食らい続けるクネーラ。
《ナディ選手の巧みな魔法による連撃で、クネーラ選手成す術もない!! 全てはこの男の計算の上だった~!! これは決まったか~!?》
「おや、空を飛ぶ手段は持ち合わせていませんでしたか。なら余計に悪手でしたね。それでは」
そう言ってナディは素早く足に力を入れて地面を蹴ると、軽やかに力強く、弾丸のようにクネーラの落下射線上へ猛スピードで突っ込んでいき、そのまま落ちてきた人間部分の腹部を突き刺した。
「ぐっ! ……ゴホッ。戦えなくはっ、ないけど……づっ! 勝てそうに、ないわねっ。……降参、するわ!」
突き刺された腹部から赤い血をドクドクと垂れながしながら、それを手で抑えつつ降参宣言をしたクネーラ。
《クネーラ選手、降参宣言! よって第1試合の勝者は、ナディ選手となりま~す!! おめでとうございます!! ナディ選手準決勝出場決定!! クネーラ選手! ただちに救護班が向かいます! 少々お待ちください!》
実況の宣言と共に、試合中より更に割れんばかりの声援が武舞台に轟く。
「あれ……? 血が、流れてこない?」
「私の『血液操作』ですよ。もう試合は終わりましたから。治療室まで同伴します。私がつけてしまった傷ですから」
「……貴方、意外と優しい所もあるのね」
「クフフ、あくまで悪戯が好きなだけですから」
こうして、第1試合はナディの勝利で幕を閉じたのであった。
という訳で、ナディの前身であるいたずら吸血鬼の頃の特徴であるいたずら好きは決して消えてませんよって回でした。




