60話 王位選定武闘会-本選開始
半ば呆然とした状態のまま、俺は武舞台を降りて皆のもとへ戻るため歩いていた。
凄まじく魔力が上昇したことだけは分かる。
でも、どうやって勝ったのか? 何故魔力が上昇したのか? 何も分からない。
「一体……俺に何が起きたんだ……?」
スウォームスライムとか呼ばれていた合体スライムと戦っていた所までは覚えている。どうやって攻略したもんかと思考を巡らせながら、ひたすらに攻撃を避けていた。しかし、その後が分からない。
気付いたら勝利していた。訳が分からない。
「創哉!!」
「創哉はん!!」
片手で頭を抑えながら廊下を歩いていると、皆が来てくれた。
心配そうに俺を見つめている。
「わりぃ。なんか、心配かけちまったみたいだな」
「うち等のことなんかどうでもええ!! 創哉はん……鎧、脱ぎや」
真剣な表情。
何か、あるのだろうか。
「あ、あぁ。分かった」
戸惑いつつもクロの言葉に素直に従い、全身を覆っていた鎧を剣形態に戻す。
『っ……!!!』
皆が眉間にしわを寄せて、息を飲む。
「皆してそんな顔しちまって、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないよ!! 身体はもう治ってるみたいだけど……鏡、何処かにあったっけ」
「鏡を探す必要なんかないわ。マスター、今の自分の姿……見てみなよ。そうすれば私達の反応の理由も分かる」
そう言うとセーラは、俺の前に水の壁を発生させる。そこに映り込んでいた俺は、記憶にある姿とは随分変わっていた。
黒一色だった髪は白髪が混じり、右目はクロのように白目の部分が黒くなり、瞳は赤く染まっている。また右手から這い上がるように、禍々しい血のような色をした炎のような形状の痣が、右頬まで伸びていた。
目の下と耳の下には、一筋のパリパリとした赤があった。血が乾いた痕だ。
「創哉はん……これで分かったやろ。さっきの戦いで、何したんや。明らかに良くないもんやで。そいつは」
「……みたいだな」
「みたいだな……って。何言ってるのさ!! そんな風になるような力、もう使っちゃダメだからね!? 分かってる!?」
クロと奏、いや……皆が怒ってますって顔をして俺に事の真相を説明するように圧力を放ってくる。
しかし、俺にはどうすることも出来なかった。
「……わりぃ。俺にも分かんねぇんだ」
そう。俺にも分からない。
だから、説明のしようがなかったのだ。
「むしろ俺こそ聞いていいか? 俺、どうやって勝ったんだ? 気付いたら試合が終わってて、何も覚えてないんだ」
「なんやと……? じゃあ、スライムにブチギレたのも覚えとらんのか?」
「よくも紗耶香に化けやがったな~!? みたいな感じのこと言ってたんだけど、それも覚えてない? インディゴスライムの洗脳の霧にやられちゃって」
「マスターってば、私でもよく分かんない凄い魔法を空想発生で使ってたんだけど……それも覚えてない訳?」
スライムにブチギレた? 紗耶香に化けた? 洗脳の霧? セーラですらよく分からない凄い魔法を空想発生で?
「わりぃ……全然身に覚えがねぇ。でも、一つ分かった。多分……ブチギレ過ぎて理性が飛んだってこと……なんだと思う。魔法に関しちゃマジで分かんねぇ。どうして俺が魔法なんか使えるんだ? 空中足場で空を走れるようにはなったけど、属性付与が出来なくて魔法らしい魔法は出来ないハズだけど……」
「……暴走っちゅうことか。これも、魔王の力なんかのぅ?」
「分かんないわね。少なくとも、私は聞いたことない。……ちょっとマスター、炎をイメージしてみて。指先程度の弱い火を」
「え? いや、だから俺には属性魔法は……。は?」
俺の眼前には、いつの間にかゆらゆらと揺れる火が現れていた。
「……決まりね。どうして急に使えるようになったのかは分からないけど、今のマスターは魔法が自由に使える。しかも空想発生で。ま、無茶な魔法さえ使わなければ、この副作用みたいなのも進行しないでしょ。素直に強くなったって思っとけば良いんじゃない? 本人に記憶がないんじゃ、考えたってキリがないわ」
「……ま、それもそやな」
とりあえず放置ってことに決めたようだ。
俺も、その方がありがたい。答えのない疑問を考え続けるのは面倒だからな。
◇◇◇
それからあっという間に時は過ぎ、班員同士でのバトルロイヤルとそれに勝ち残った者達での第2回バトルロイヤルも終わり、本選に出場出来る8名が決定したのだった。
俺達一派は全員出場勝ち抜き出場決定。そして残りの4枠は、
1…下半身が蜘蛛のお姉さん。予想通りアラクネという種族らしい
2…白銀の体毛でモフモフした狼の獣人。獣成分多めだから雄
3…ガルーダ。隊長ではないが、警備隊のメンバーらしい
4…めっちゃムキムキで眼鏡かけてるゴブリン
というメンバーである。
そして組み合わせは、
第1戦 アラクネVSナディ
第2戦 ガルーダVSセーラ
第3戦 マッチョ眼鏡ゴブリンVSクロ
第4戦 狼獣人VS俺
というように決定したのであった!!!




