56話 王位選定武闘会-予選2
《さぁ、第3予選! 始めてくださぁぁぁぁい!!!》
試合開始の合図が響く。
するとナディは目にちょろりとかかっていた前髪を払いながら、妖艶に微笑んだ。すると何故か興奮剤のせいで暴れていた魔物達が大人しくなった。
「え、あんなに怒ってた魔物さんたちが大人しくなっちゃいましたよ!? ナディ君。何をしたんですか……? なんだか顔に魔力が集まってたのは分かりますけど」
シンシアが立ち上がって目を見開く。
それは俺も同じ気持ちだ。アレは見たことない力だ。何か新しい能力をいつの間にか習得していたのだろうか?
「ひひっ! ナディの奴、オモロイ魔法やな。シンシア、ありゃ魅了やで。セーラと奏ちゃんの誘惑とか魅惑と根本的には同じや」
クロが武舞台を見ながら、面白そうに笑って呟く。
「魅了、ですか?」
「おぉせや、魔物達が同士討ちを始めとるんがええ証拠や。それぞれナディの敵を攻撃しとるつもりなんやろな。ホンマは、もれなく全員魅了されとるんやけどな」
その言葉通り現在武舞台では、選手を襲うように仕向けられている筈の魔物達が同士討ちを始めていた。
――クフ、終わらせます。死にたくなければ離れていなさい
俺達の前では全く見せてこなかった不敵で冷たい笑みを浮かべると、ナディはそう言って班員を大きく後ろに下がらせる。
次の瞬間!!!
ダッ!! ……チンッ。
ナディはレイピアを腰から提げた鞘から抜き払い、構えて魔物達が同士討ちをしている只中に突っ込んだかと思うと、一瞬でそこを通り過ぎて再び鞘に収めた。
スパパパパパンッ!
そう思うや否や、魔物達はもれなく全員サイコロのようにコマ切れになってしまった。
《しゅ、終了~~~~~!! 第3予選、終了です!! 突破タイムは……な、7秒!! す、凄い結果です!! 無事突破です! おめでとうございます!!》
予選終了の合図が実況から告げられる。
実況が盛り上げるために言葉を挟むよりも先に、試合が終わってしまったな。第1予選や第2予選ではしっかり実況らしく盛り上げていたんだが。
観客も、これには思わずフリーズ。先程までワーワー! と盛り上がっていたのに、まるで時が止まってしまったように、しんとしている。
そして一瞬遅れて、
――うぉぉぉぉぉおお!! すっげぇぇぇぇええ!!
――なんじゃあ今のはあああ!!!
――にゃあああ!! イケニャアアン!! カッコ良すぎにゃああ!! こっち向いてにゃあああ!!
ドッ!!! と会場が一瞬揺れて、全員が立ち上がってナディに声援を送る。
まさしく拍手喝采。スタンディングオベーションである。なんかどこぞの雌猫がナディに欲情してるっぽいけど、あの子あぁ見えてまだ生後二か月行ってないから勘弁してあげてください。いや、ナディが望むなら話は別だけど。肉体そのものは成体のものなんだし。
――ふふ
そんな観客たちの声援に、ナディは再び妖艶な笑みを浮かべて片手を上げてフリフリと振って武舞台から去っていった。
一緒に組んでいた班員たちは、もれなく全員宇宙猫状態である。未だに何が起きているのか、理解が追いついていないようだ。
「いやぁ~、すっげぇな。あいつ……あんなに強かったのか。魔力高いのは知ってたけど」
まだ解析でステータス見たことなかったからな。
あんな動きが出来るんなら、敏捷値3000は超えてそうだな。まぁ鎧武器シリーズであるレイピアのおかげで、身体能力も向上してるから素の状態であの動きが出来るのかは分からないけども。
「けど、あの使い方はうちには合わんな」
「あぁ。俺もあんな上手く剣先を操れる気がしねぇ」
俺とクロが呟く。
「え、何のこと? 私、速すぎてナディが何をしたのか分かってないんだけど」
「申し訳ありません創哉様。私もです……」
奏とシンシアが戸惑いながら聞いてくる。
「ん? あぁ、そうか。まぁあの速度じゃしょうがない。謝ることはないよ」
「せやで。奏ちゃん、シンシア。これから強くなってけばええんや。ま、うち等からすれば、皆は妹分やからな。ずっと守られててほしいとも思うには思うんやが」
「それは俺も同意だが、そうはいかない。……何が起こったかだったな」
それから俺とクロは、2人に説明した。
ナディがあの一瞬の交差で、何をしたのか。といっても、実に簡単な話だ。俺達の持つ、この鎧武器シリーズは伸縮自在なのだ。どんな形にでも変化させることが出来る。ギムリ達から貰う前は大剣のようだったのに今は細いレイピアになっていることから分かる通り、鎧武器シリーズは質量保存の法則をガン無視しているのだ。それこそ普段はネックレスや指輪のようにして携帯することも可能だろう。やはりロマン。カッコいい。
閑話休題。
ともかく、ナディはレイピアの刀身を極めて細く長く伸ばして、かつ『刃鋭化』によって刃を鋭くして鞭のように振り回したのだ。
それによって、魔物達は一瞬にしてコマ切れになってしまったということだ。
「すっご……う~、仮にもお母さんなのにナディの動きすら見えないなんて~」
「それは私もです……。私魔女の子孫なのに、ナディ君の魔法分かりませんでした……」
悔しそうにする2人。
「これからだこれから! セーラの出番は第7だったよな? もうちょい時間あるしちょっと出店でも行ってみようぜ。クロはどうする? そろそろ控え室の方に行っておくか?」
「あ~、せやなぁ。行っといたほうがええかもしれへんのぅ。ほな、うちは一旦離れるわ。また後での。パパッと片付けてくるさかい。よっく見たってや」
にっと笑うクロ。
「おう、頑張って来いよ。負けるとは思っちゃいないけど、油断せずにな」
笑いながら、拳を空中に掲げる。
するとクロはニヤリと笑って俺の拳に自分の拳を軽くコツンとぶつけて、去っていくのだった。




