54話 王位選定武闘会-予選くじ結果
武闘会は開幕し、予選のくじ引きが終了した。
俺達4人の組み合わせは以下の通りである。
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第3予選 ナディ&現地の選手4人VS巨牙毛獣5体&三頭首獣5体
第8予選 セーラ&現地の選手4人VSコッカトリス10体&バジリスク(牙に猛毒があり第三の目を開眼すると敵を石化させる地球と変わらないサイズの蛇)20体
第10予選 クロ&現地の選手4人VSしましま馬(見た目はシマウマそのもの)5体&死肉漁り5体&エッジホーン(角が側頭部から生えてて前に突き出しているガゼル)5体
第21予選 俺VSレッドスライム8体&オレンジスライム8体&イエロースライム8体&グリーンスライム8体&ブルースライム8体&インディゴスライム8体&パープルスライム8体
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いや俺だけ可笑しいだろッ!!!? クロたちだけでなく俺以前の全予選が、選手5人VSなんかの魔物っていう組み合わせなのに、なんで俺だけ!? いやまぁ、余っちゃったからなんだけど……。
敵がスライムなんだから良かったじゃんって? いや、俺もそう思ったんですけどね? なんか周りの選手が『可哀想に……』みたいな視線で見てくるのよ。そこで俺は察したよね。さてはこの世界のスライム、鬼強だな? と。
しかも、全スライムが8体で揃えられていることに何か意図的なものを感じる。まさか合体? いや、そんな某国民的RPGじゃあるまいし……。
すっご~~く嫌な予感がする……。しかも、以前からずっと感じている嫌な予感とはまた別枠なのだ。それが余計うざったい。マジでいつになったらこの嫌な予感が予見してる事件に遭遇するんだ? 俺は。
ちなみに、どうしてこのような予選形式になっているのかと言うと、即席チームでいかに上手く連携出来るか見るという目的と、対集団戦をいかにスムーズに攻略出来るか見るという目的があるらしい。
これは王を選定するための武闘会だからな。まぁ確かにリーダー適性なんかを見るのに必要な事なのだろう。なら俺は何なんだよ! とか言いたくなるけど、あからさまに別枠のモンスターを用意されてる所から考えるに、こいつは魔王として既にリーダーやってるんだから今更見るまでもないよね? という感じなのかもしれない。くじ引きの紙、基本何も細工されてなかったけど、1枚(つまり俺の紙)だけすっごい魔力放ってたしな。絶対コレは最後まで引いちゃダメよっていうサインだろアレ。まぁ別に良いけど。インチキだ~! なんて喚き散らすつもりはない。
元より何かしら策を仕込んでくることくらい予想してたからな。『余と戦うに相応しいか見定めてやる』とかなんとか考えるんだろう、どうせ。
「ふっ……」
わずかに肩を竦め、鼻で笑いながら俺のくじ引きの紙をグラン王に見せつける。『良いぜ乗ってやるよ』という意思を籠めて。
それを知ってか知らずか、グラン王はその口角を持ち上げた。
◇◇◇
「ふっ、ふふふ……」
「おや? ご機嫌が良さそうですねグラン王。何か良いことでも」
観客席の一角、王の為の特別な区画。
グラン王は玉座にどっかりと座りながら、武舞台の何処ぞを見てご機嫌に笑みを零した。それに気づいた二足歩行の黒い豹は王に声をかけつつ、王の空いたグラスにグレゴンの実のグラッパ(ワインを造る際に生じる実の絞りかすから造られる蒸留酒)を注ぎ入れる。
「ふっ、いやなに。やはり見透かされたかと思ってな。あの様子では、余の思惑にも気付かれているやもしれん。誠、賢き男よ」
「あぁ、噂の新生憤怒の魔王ですか。……良いのですか? 策が見破られているのならば、何か新しい手を打った方が良いのでは」
「構わん。余の目的はあの男をここで潰すことではない。シェパードよ。手出しは無用だぞ? 例え、あの男との戦いで余が致命となろうとも」
「……まるで、サタンが優勝すると分かっているかのような口振りですね」
「ふっ……あの男なら、やるさ。余はそう信じている。もし負けたなら、余の人を見る目も落ちぶれたもの。どの道、余はもう引退すべきという結論に至る」
わずかに、自嘲するような雰囲気を漏らすグラン王。
「如何なる戦場も、最後に立つは獅子の王。その計略は如何なる敵をも打ち滅ぼす神算鬼謀。その者は並ぶ者なき偉大なる英雄王、稀代の賢王。グラン・レオーネ」
それを見たシェパードと呼ばれた黒い豹は、グラン王を讃える言葉を謳う。プライドキングダムに住まう鳥人の吟遊詩人が、その昔グラン王に捧げた讃美歌である。
「グラン王は我々の、永遠の憧れで御座います。そのような気弱な発言など、しないでいただきたい。ご命令通り、どうなっても手出しは致しません。それは部下たちにも徹底させます。しかし私は、グラン王が勝つことを信じています」
片膝をついて傅きながら、シェパードは言う。
「……そうか。余は、家臣に愛されておるな。老いには勝てぬと思っていたが、まだまだ捨てたものではないということか。ふふ」
左ひじをひじ掛けについて頬杖にし、右手でグラッパを飲み足を組むグラン王。その表情には、心なしか先程までよりも、若さが宿っているかのようだった。




