53話 王位選定武闘会-開会式
招待状を貰った日から、はや一週間が経過した。
いよいよ今日から、王位選定武闘会が始まる。ちなみにこの一週間は、ひたすら新しい武器の扱いに慣れるためのトレーニングに打ち込んでいた。
余裕ぶってられるような相手ではないだろうからな。それに武闘会の特殊ルールにも注意しないと。特に俺は、目的を達成するためには優勝してグラン王に勝たなければならないからな。別にこの国の王になりたい訳ではないが……ギムリとレギンをはじめとした移住者の勧誘以外にも、他に考えていることが幾つかあるのだ。
場所は、キングス・ロックの内部にある円形闘技場。我が家にあるのと似た形式だ。違いはサイズ感と、日光が一切射しこまないことくらいだ。しかし、暗い訳ではない。どうやら魔法によって疑似太陽のようなものを生み出しているようで、それによって外同然の明るさを保つことに成功しているのだ。
それでサイズだが、我が家のコロシアムよりはこじんまりとしている。
だがそれは武舞台が、という話であり観客席はむしろ我が家のソレより遥かに広く作られている。観客一人一人がゆったりと座っても5万人は収容出来る。
そしてこの国の総人口は5万とちょっとのようなので、マジでこの国の住人全員が一堂に会しても問題ない大きさ、ということである。
見た所、既に客席は満員。パッと見では分かりにくいが、奏とシンシアは東ブロックの真ん中辺りにいるようだ。
俺が視線をやると、すぐさま気付いて手を振ってくれた。
こういう時、やはり眷属との魂の繋がりは便利だ。互いの位置を正確に把握出来るからな。いきなり飛び出てビックリ!? みたいなイタズラが出来ないのは残念だが、まぁしょうがない。
闘技場の廊下部分には、出店もある。
スナックにゃん丸の連中も店を出しているようで、先程から精力的に売り出している声が聞こえる。観客席では売り子も徘徊していて、にゃん丸のスタッフは三頭首獣のももの串焼きやら、コッカトリス(ニワトリと蛇が合体したような、爪でひっかいた相手を石化させる能力を持つ魔物)の砂肝串やら、いつか見た紫色のフルーツジュースやらを販売している。
これまで生活してきた中で飲む機会があったのだが、これが美味いのなんの。味としては……ぶどうとマスカット、ドラゴンフルーツが混ざり合ったような感じ。その原料である禍々しい見た目の果物はグレゴンの実と言って、大陸の至る所に点在しているオアシスに群生しているのだとか。
現在、参加者たちが集まっている武舞台。
ここは巨大な石を加工して埋め込んであるようだ。2m四方に加工された硬い岩を、更に魔法で硬化させた代物。それを碁盤のように、丁寧に並べているのだ。
一辺15ブロックの岩が並んだ正方形であるため、30m×30m。つまり900㎡の武舞台となる。
会場は熱気に包まれている。
それはそうだろう。この国の王を選定するための武闘会なのだから。当然だ。最も武闘会の優勝は、王を選定するための参考要素の一つでしかない。
腕っぷしが強いだけで王は務まらないからだ。とはいえ、彼らは文化的な生活をしているためそうは見えないが、強者こそ正義の思想が根底に刻まれている亜人。
腕っぷしの強い奴は普通に好かれるので、この武闘会で優勝するというのはかなり選定に良い影響を与えることは間違いない。
《皆の者。余が、グラン・レオーネである。今年も無事にこの日を迎えられたこと、嬉しく思う》
声がコロシアム中に響く。今グラン王が片手に持っているマイクと、コロシアムの壁のあちこちに設置された、マイクと繋がっている蓄音機みたいな見た目の魔道具のおかげだ。要はスピーカーだな。解析してみた所どうやらこれもドワーフが作成した道具で、マイクには『声量増幅』の魔法が、スピーカーには『集音拡散』の魔法が籠められているらしいことが分かった。
ドワーフ、やっぱすげぇな。マイクとスピーカー作れちゃうんだ。魔法面からのアプローチとは言え、やはり凄い。
現在グラン王がいるのは、観客席の一角にある特別な場所。
金色の王冠マークが刺繍された赤い絨毯の上にある、見るからにふかふかで金で縁取られた赤い玉座。
玉座のわりには質素な印象を受けなくもないが、それが逆に彼の飾りっ気のない性格を表しているようにも思う。俺としては好印象だ。金ぴかで宝石まみれな玉座なんて、下品だからな。成金趣味過ぎて。
なんだかんだ姿を見るのは、初めてだな。しかし、予想通りの見た目だ。他の雄の獣人と同じく、まるっきり二足歩行の獅子である。
立派なたてがみが生えており、頭頂部には王冠がちょこんと載っている。シンプルな装飾の大剣を片手で杖のように持っていて、白い羽毛のファーがついたマントを背にたなびかせ悠然と立つ姿からは、圧倒的な王としての風格を感じざるを得ない。これは俺には出せないな。まぁ、俺の個人的評価だから、うちの娘ら……特にリーリエとかが見たら創哉様の方が風格ありますよ! とか言うかもしれないけど。
《さて、此度もまたいずれ劣らぬ強豪たちが揃っている。今日までに鍛えた力と技で、正々堂々互いの誇りをかけて戦うことを期待する。勝敗の行方は余にも、誰にも分からぬ。故に余は、ただ称賛しよう。勝者の栄誉を讃え、敗者の力闘を讃えよう。優勝し、余と戦うことになる者は誰か。この席より、見守らせてもらう。以上だ》
グラン王はそう締めると、マイクを側近らしき金色の瞳をした二足歩行の黒い豹に渡す。
《ありがとうございました。グラン王。それではこれにて王位選定武闘会、開会式を終了といたします。観客の皆様はごゆるりと試合開始の時間をお待ちください。それから選手の皆さんは、まず予選の組み合わせをくじ引きで決めますので、集合願います。以上》
会場内に割れんばかりの拍手が響き渡る。
こうして、武闘会は開幕したのであった。




