52話 招待状-2
「失礼しますワ。こちらにサタン様御一行がいらっしゃるとお聞きしたのですが」
俺の勧誘に割り込む形で突然やってきたそいつ。
そこに居たのは、獣要素多めのバニーガール。
全体的にモフモフしてて、垂れ耳。鼻は兎のままだが、目と口は人間のソレになっている。瞳は赤で、体毛は白。アルビノ種のようだ。
何処かのパーティーから抜け出してきたのか? とすら思ってしまうような、煌びやかなドレスを身に纏っている。また、その襟元からは白い体毛が溢れ出ており、ここが最もモフモフしている。
「かわいい~~!!!」
「きゃっ!? な、なんですワ!?」
ちょっとモフモフしたいかな~? なんて思いながら観察していると、いつの間にやら奏がやってきたその娘に抱き着いて首元のモフモフに頬ずりしていた。
どうやら我慢出来なかったらしい。これはもしかしたら、もしかするかもな。予想できる展開に若干頭を痛めながら、仲裁する。
「こらこら。突然抱きついたりしたら迷惑だからやめなさい。困ってるでしょ」
「あははは~、ご、ごめんね~?」
「い、いえ……構いませんワ。ちょ、ちょっと気持ちよかったですし……。んんっ! あなたが、サタン様ですね?」
奏より少し高いが、俺より低い背丈。スラッとした体格。
そのつぶらな目が俺を見上げる。嫋やかな微笑みが、なんともグッと来るものがある。だが、これは仕込まれた笑み。いわゆる営業スマイルだ。
奏に首毛をモフモフされていた時に浮かべていた、戸惑いと快感が混ざり合ったような笑みとは少し違い、硬い印象を受ける。まぁそれでも、相当自然な笑みに近いように思えるが。
「えぇ、その通りです。貴女は?」
「失礼いたしましたワ。わたくしは、ランシーヌ・ハーヴァー。先王の娘で、今はキングス・ロック戦士養成校で薬草学の教諭をしております。以後お見知りおきを」
「おおっ、先王の! これはどうもご丁寧に」
随分と煌びやかなドレスを着ているなと思ったら、まさかそんな立場の奴だったとはな。しかし、キングス・ロック戦士養成校? そんなものがあったのか。
しかも薬草学の教諭……ねぇ。この国において、キングス・ロック内での役職に就くことが出来るのはごく一部の限られた実力者のみだ。
血筋など一切関係なく、本人の実力のみで判断される。だから、そんな場所で一つの科目とは言え教諭を勤めているということは、この人……相当優秀な薬草学の研究者だ。
「それで、ランシーヌ嬢。本日はどういったご用件で?」
「そこまで硬くなさらないで結構ですワ。先王の娘と言えど、王には成れなかった身ですので。……これを、お渡しに」
懐から取り出したのは、一通の手紙。
それは、獅子が描かれた封蝋で閉じられている。右下には、達筆な字体でグラン・レオーネと書かれていた。
「国王から……? 一体、俺に何の用だ?」
中身を取り出し、目を通す。
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新しき憤怒の魔王カンズェアキソーヤへ
急な手紙に驚いていることだろう。
だが、まずは言わせて欲しい。ようこそ、我が亜人国家プライドキングダムへ。そなたの噂はかねがね耳にしている。
曰く、キレない憤怒。
曰く、一度キレたら手が付けられぬ。
曰く、敵と認識したら何処までも冷酷非道になる復讐者。
曰く、強く賢く家族愛に溢れている。
そんなそなたに、余は一つ提案がしたい。
今年で余は、在位300年を迎える。そしてこの国では、100年に1度国を挙げての大武闘会を開くのが恒例なのだ。そこに、余はそなたを招待したく思う。
無論そなただけ出場せよ、とは言わぬ。共に来た家族皆での出場も大歓迎だ。安全面に関しても、心配は要らぬ。今そなたの目の前に居るランシーヌ・ハーヴァーは『冥府の拒絶者』と称されるほど優秀な、薬草学の研究者だ。
四肢の欠損すらも、彼女の前ではちょっとした怪我に過ぎん。例え心臓が貫かれていようと、首が切断されていようと、彼女のもとへ運び込めば大抵が生還する。 故に、是非ともそなたらには奮って出場して欲しい。
余自身も優勝者と戦うことになっている。余は、そなたと互いの誇りをかけて決闘をしたいと期待している。そこでもしそなたが優勝し、そして余に勝ったのならば、この国の王座を譲っても構わんとすら思っている。
追伸
ここでルールも伝えておきたいが、かなり複雑でな。手紙とは別に大会のルール用紙も彼女に持たせておいた。出場する気になってくれたのならば、よく読んで出場するようにしてくれ。ルール違反で途中退場などとつまらぬ結果に終わってはくれるなよ?
亜人国家プライドキングダム第252代国王グラン・レオーネ
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「……ふっ、ふふ。なるほどな。よし! やはりここは、今言うのは止しておこう。ギムリ、レギン。俺がもしグラン王に勝てたら、また話を聞いてくれ」
俺がそう言うと、2人はしょーがねぇなと言わんばかりにフッ、と嘆息した。
「……ランシーヌ嬢、ルール用紙を貰えますか? 出場します」
「左様ですか。かしこまりましたワ。……こちらが、大会のルール用紙になりますワ。他の方々はどうなされますか?」
俺にルール用紙を渡しながら、ランシーヌは目線を動かして奏たちの意見を確認する。
「当然、うちは出るで」
「お姉さんも出ちゃおっかな~」
「父上が出るのなら、私も出てみます!」
どうやら、大会に出場するのはクロとセーラ、ナディの3人のようだ。
奏とシンシアは観戦側に回るようだな。
「かしこまりましたワ。それでは、失礼いたしますワ。あなた方の治療をすることにならないよう祈っておきますワ。ご武運を」
そう言って、ランシーヌは去っていった。
ルール用紙の一番上に書かれているタイトルは、王位選定武闘会規約。
「王位選定武闘会、か」
グラン王。思った通り、面白い真似をしてくれる。
実際に会うのが楽しみだな。




