50話 生体魔鋼の真骨頂
早いもので、あっという間に一週間が経過した。
その間俺達はと言うと、ひたすらのんびりしていた。奏のライブのおかげでかなり潤沢な資金が手に入ったし、ギムリとレギンというドワーフの勧誘にも成功しそうだしな。まぁとは言え何事もなくダラダラ過ごしていた訳ではなく色々とあったものだが、それはまた別の話だ。
「よぉギムリ、一週間ぶりだな」
キングス・ロックの入口の外、洞窟に入る手前にて空を見上げて深く息を吐いているギムリを見かけた俺は声をかけた。
これから2人の工房へ向かおうとしていたのだ。武器の完成は1週間後という話だったからな。
「ふぅ~……。ん? おぉ、旦那たちか! っと……! すまねぇな。まだちっちぇえガキも居るってのに」
近づいてよく見てみると、どうやら一服中だったらしいことが分かった。ため息ついて黄昏たりなんかしてどうしたんだ? なんて思っていたが、喫煙していたなら納得だ。というかこの世界、タバコあったんだな。何気に初めて見た。煙が紫色とは、一体何で出来ているんだ? というか、キセルなんだな。
ちょっと欲しいな。いや、タバコって身体に良くないから吸って欲しくはないんだけど……。クロに絶対に合うんだよな。何処に売ってるのか聞いてみようかな。いや、ファッションキセルだし、眷属化に成功したら作ってもらおう。うん。
「それはこっちのセリフだギムリ。100歳超えなのは分かってるが、見た目があまりにもだからかなりイケない雰囲気を感じちまう」
「がっはっは!! ま、それがドワーフってもんよ。……武器の件だろ? 約束通り全員分完成してるぜ。んじゃ、行くか」
◇◇◇
「ほれ、この通りだ!」
じゃーん! と言わんばかりに手を広げて、キレイに飾られた武器の数々。それぞれの台にネームプレートが置かれており、どれが誰のか一発で分かるようになっている。
「レイピアを希望した筈でしたが……」
「なんか妙にゴツイハープね」
ナディとセーラが怪訝な顔をして首を傾げる。
そう。そこにあった6つの武器は、そのどれもが妙にゴツかったのだ。ナディのネームプレートが置かれた台にある剣など、レイピアの筈なのに大剣並みにゴツい。というか、俺とナディの剣にサイズの違いがほとんどなかった。持ち手で辛うじて判断できるくらいだったのである。
「これは、どういうことなんだ? ギムリ、レギン」
「へへっ! まぁ騙されたと思って、いっちょ手に持って戦闘開始って言ってみてくれや」
「おう。会心の出来だ!! 後悔はさせねぇぜ!」
凄く自信ありげな顔をするギムリとレギンに、俺達はそこまで言うならと困惑しながらも言われた通りそれぞれの武器を握る。
そして、
『戦闘開始』
一斉に呟く。
その瞬間! 平たく言えば金属の塊に過ぎない筈の俺達の武器が流動し始める。さながら触手のように、生きているかのように。そして、それはやがて身体全体を覆いつくした。
「おお~!! 似合ってんじゃねぇか。カッコいいぜ! ほら、見てみろよ」
ギムリはそう言うと、何の変哲もないただの壁に見える部分を徐に手のひらで触り始め、やがて何かに気付いたように「あったあった」と呟くと壁の一部分を人差し指で押す。
すると大量の武器が飾られていた壁がぐるんと180℃横に軸回転し、壁は大きな一枚の鏡に変わった。
そのからくり屋敷のような仕掛けにも驚いたが、それ以上に俺達は驚いた。
何故なら、
「よ、鎧!?」
そう。俺達は皆、いつの間にか全身鎧に身を包んでいたからだ。
「な、なんで!? 全然、重くないですよ!?」
「うん! むしろ、いつもより身体が軽いくらいかも!」
「はい……。まるで、奏お姉ちゃんの『能力向上曲』を聞いている時のようです」
シンシアと奏がうっそ~! と言った風に鏡に貼りつくようにして驚く。
「へへっ! これこそが、生体魔鋼の真骨頂よ! 液体のように動き、例え壊れても勝手に修復する形状記憶! 身体の動きを阻害しない柔軟さ! 元が魔物の肉体だからこその、圧倒的な魔力との親和性! 更に、あらゆる属性に対する高い耐性もある!!」
「これぞ生体魔鋼製武器の最高級ブランド、鎧武器シリーズ!! 単価にして最低3000万ジェセルの超高級装備だぜ!」
鎧武器シリーズ……。
「なんて、なんてロマンある武器なんだこれは!!? 最っ高だぜ!」
カッコよすぎる! まるで子供の頃紗耶香と見た、変身ヒーローみたいじゃないか!! こういうの、何気に憧れてたんだよなぁ……!!
「おっ、良いねぇ! こいつのカッコよさが分かるかい! イケる口じゃねぇか旦那!! オレ、尚更あんたのこと気に入っちまったぜ!」
「あぁ分かるとも!! 変身合体は男の子の夢だからな!!!」
「おっと、そいつは聞き捨てならねぇな。男だけじゃねえ、女にとっても夢の武器さこいつは」
「ふっ……あぁそうだな」
「「「はっはっは!!!」」」
久しぶりだな。こんな童心に帰るのは。
凄く興奮していることを自覚する。そして、フルフェイスだから顔など少しも見えないのに、何故だか奏たちが微笑ましいものを見るような目で俺を見ているのがよく分かる。でも大人らしく落ち着こうなんて気にはならない。
はしゃぐ時は全力ではしゃぐ! それが俺のスタイル。生き方だからな。
「そうだな……。久しぶりに視てみるか」
ここ最近、すっかり使わなくなってしまった解析を発動して自分の鎧を視る。
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『魔王の鎧剣』…自動修復、伸縮自在、刃鋭化、身体能力向上、上位物理耐性、上位衝撃緩和、上位全属性耐性の効果が籠められている。あと5つまで魔法付与可能。他の装備品に籠められた魔法と効果は重複する
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えっ、メッチャ強くね……? 既にめちゃめちゃ優秀そうなのに、あと5つも魔法を付与出来ちゃうの……? それに魔法効果重複しちゃうの……? ってことは俺が今鎧の下に着てるリーリエお手製極道風スーツに籠められてる結界やら何やらの魔法効果も有効ってことでしょ……? ヤバくね。え、ヤバくね?




