47話 シンシアの力と『魔』の流儀
現在俺達は、2班に別れて行動している。
チームAはクロとセーラの、鉱石角獣をひたする狩る班。そしてチームBは俺、奏、ナディ、シンシアの四人班。そんな俺達が今、何をしているのかと言うと、
「我が神憤怒の魔王の名において、貴方に仮初めの生を授けましょう。さぁ、死の徒となりて蘇るのです。『闇の祝福』」
中二病ごっこ! では勿論ない。
シンシアが言葉に魔力を乗せて死体に話しかけると、死体が動き出す。皮膚が、肉が崩れ一部の骨が露出し、肉が溶け出しポタポタと謎の汁を垂らす。その汁が地面に触れると、ジュワっと音を立てて沁み込んでいく。溶け出した部位的に考えて、恐らく胃酸だろう。続けて顔の辺りの皮膚がポロポロと崩れていき、眼球と歯が剥き出しになる。そこで、変化は終わった。
「ほ、ホントにゾンビになっちゃった……」
奏が口をぽかんと開けて『ほえ~』と息を漏らす。
そう。これこそが、シンシアが獲得したクラスによる力。死体のアンデッド化である。能力の獲得自体はシンシアがある日天啓を聞いたことで以前から判明していたが、実際に使ったのは今回が初めてなのだ。シンシア自身も、ホッと息をついて胸を撫で下ろしているし、上手く出来たことに安堵している様子だ。
ちなみに、シンシアが獲得したクラスとは何かと言うと、闇の女神官である。魔王である俺に仕えている内に、自然と開花したもの。魔女の子孫でありサタニストなシンシアらしいクラスである。不死者使い的な感じにも思えるが、シンシアの闇の女神官はそれとは少し違うのである。
今回、ゾンビとして蘇らせたのは三叉首キリン。クロ達が鉱石角獣狩りをしている間、俺達はレベル上げついでに、倒した奴らを片っ端からアンデッド化させて従えてしまおうという計画なのだ。
戦力は多いに越したことはないからな。え、そんなことしたら大所帯になってしまうだろうって? 問題ない。
何故なら、
「貴方に安らかなる闇を与えましょう。おやすみなさい『闇のゆりかご』」
自分がアンデッド化させた相手限定で亜空間に飛ばすことが出来るからだ。
そう。今シンシアが使った『闇のゆりかご』とは、いわばポ○モンバンク。いつでも召喚出来るけど普段は亜空間の中で眠らせておくことが出来るという便利技なのだ。こいつは俺の影の回廊とは違い、道具なんかを入れることは出来ない。あくまで召喚獣専用保管スペース、ということだ。
「すげぇじゃん! シンシア」
「ホントホント! 倒した魔物を蘇らせて仲間に出来ちゃうなんて凄いよ! いっくらでも戦力増やせちゃうじゃん!」
「そ、そんな……凄いだなんて。大したことじゃないですよ」
なんて二人して照れるシンシアの頭をよしよしよしよし撫でながら褒めていると、
「……シンシア姉様、この能力って生者相手に中途半端に使えたりしますか?」
ナディが突然よく分からないことを言い出した。
「えっ……と、それって、どういうこと? ナディ君」
案の定困惑した様子のシンシアが聞き返す。
「はい。この能力、奴らへの拷問に使えるとは思いませんか? 生きたまま身体が腐っていく恐怖と痛み……あの子は既に死んでいたから痛覚が麻痺していましたが、痛覚が正常な生者に使えば相当な苦しみを与えられるはずです」
なるほど、そういうことか。
完全に使ってしまうとアンデッド化してしまう。だからこそ、生者に中途半端に使う。そうすることで痛みと恐怖を与えるという拷問か。
う~ん、こわっっっっっ!!
ナディも大概ヤベー奴だな。怖いですねぇ~。まぁ相手があいつらならどうでも良いけど。
「あっ、てなるとさ……。今やってるレイプ拷問と組み合わせて、いざおっぱじめようとした瞬間アレが腐ってボロっと落ちるってどーよ。これなら感情収益にもなるだろ。多分相当DP稼げると思う」
「……父上。私のことを『こいつヤベー奴だな~』なんて内心で笑っていたみたいですが、父上も相当ですよ……。怖いです」
「うん。怖い」
「流石は創哉様! そんなエゲつなさに痺れちゃいますぅ!!」
おや……? 戦況がいつの間にかひっくり返っていらっしゃるぞ。俺、四面楚歌やん。シンシアだけ両手を組んでお祈りポーズしながら、キラッキラの目で俺のことを見つめてるけど……生憎と別に嬉しくないです。まぁいいけどさ。
だって、自分で言っといてなんだけど怖すぎるもんね。おっぱじめる直前でなくともアレが腐り落ちたら恐怖だってのに、直前とかヤバい。いざ本番だと腰つき出したらスカっちゃって、なんだ? とか思ってると一瞬遅れてボトって音がして床に自分のアレが落ちてるってことだぜ? 怖すぎるでしょ。
「あ~、うん。で……どうなの? 出来そう?」
「う~ん、やってみないことには分からないですね……。どの道倒すんですし、魔物相手に試してみますか?」
気軽な発言。これは、ダメだな。良くない。表情からして悪気などないのだろう。自分の発言の意味を理解していないと見える。
こういう所、やはりこの子達はまだ倫理観の低い子供なのだと実感する。だからこそ親代わりである年長者の俺が、しっかりと教えてやらないといけない。
「シンシア、それは良くない。その考え方はダメだぞ。無駄に苦しめていいのはあいつらだけだ。というより、拷問部屋送りにした奴だけだ。それ以外の奴に『どうせ殺すんだから無駄に苦しめても良いよね?』なんて考え方で接しちゃダメだ。そのラインだけはハッキリさせておかなくちゃいけない。常道を外れた『魔』だからこそ、自分の定めたルールには、これと決めた『芯』には、厳格でなくちゃいけない。そこを適当にすると、そのうちクロムウェルのような醜悪なモンスターになり果てちまう。魔物とは違う、本当のクズだ。あぁはなりたくないだろう?」
心を鬼にして、言う。
いつだって仲良くやっていきたい。ピリついた雰囲気になんてしたくない。険悪な関係になってしまうかもしれない説教なんてしたくない。
俺はこういう雰囲気が嫌いなんだ。年がら年中ウェイウェイしてるようなパリピとは違うけど、それでも明るい雰囲気の方が好きであることは確かだ。
でも、それでも、こう言う所はキチっとしておかなければいけないんだ。外道だからこそ、血に塗れた暗い闇に生きる選択をしたからこそ、『魔』だからこそ、そこだけは守らなくちゃいけない。最後の一線だから。
「……はい。申し訳ございません創哉様。もう二度と、このようなことは申しません」
目に若干の水気を帯びさせながら、深く頭を下げるシンシア。
「ち、父上!! そこまでに、そこまでにしてあげてください!! 元はと言えば、このようなことを提案した私が悪かったのです! 責めるのなら私を!」
シンシアを庇うように、俺とシンシアの間に立つナディ。
「言いたいことはしっかり伝わったと思うからさ。そこまでにしといてあげなよ」
諫めるように、後ろから俺の右肩に手を置く奏。
「……はぁ。わざわざお前達に言われなくても、元からそのつもりだ。悪いなシンシア。怖かったか? 出来るだけ優しく言ったつもりなんだが」
「い、いえ! 考えなしにあのようなことを言った私が悪いんです。創哉様は優しく言ってくださいました。目が濡れているのは、単に砂が入っただけですっ!」
「そうか。なら、もうこの件は終わりだ。以後気を付けなさい。それだけだ」
「はいっ!」
今は、比較的弱風だ。砂が目に入るような天候じゃない。だから分かりきってはいる。けれど、この嘘は乗ってあげるべき嘘だ。わざわざ揚げ足をとる必要など欠片もない。
「だがまぁ、能力の実験は必要だ。帰ったら、奴ら相手に色々試してみよう。うん。そうだな。今後は何か能力に目覚めたら、全部あいつらを的にして実験しよう。あいつらなら別に何やったって良いから」
「分かりました。そうします!」
「ん。それじゃあ、続きをやっていきましょうかねぇ。改めて言いますが、無駄に獲物を苦しませず、華麗に殺しましょう。それが一流の『魔』というモノ。悪意をぶつける相手は『敵』だけに絞る。いいですね? 皆さん。これが我らサタン一派の『魔』としての流儀です。これは今夜、定期連絡で留守番組にも通達しますので。しかと胸に刻むように」
『はいっ!』
まだ若干ながらピリついた雰囲気は残っている。けどまぁ、戦っている内にいつも通りのノリに戻れるだろう。そう信じながら、俺達はレベル上げ兼戦力確保を再開するのだった。




