45話 魔物素材って、強い装備品には欠かせないよね!
「よぉ、ギムリ~、レギン~!」
ドワーフ2人組との飲み会接待を終えた翌日(飲み会をしてたのは深夜なので、正確には当日)である。
あの後宿に戻って一眠りして、朝になったから約束通り皆を連れてギムリとレギンの鍛冶工房にやってきたのだ。
まぁ俺とナディは疲労無効だから眠らなくても問題はないんだけどね! ギムリ達含めて他の皆は眠らないとダメだから、俺達も時間帯を合わせているのだ。
『飲食不要』同様、あくまで『疲労無効』だから眠らなくても良いだけで眠ることは出来るからな。まぁ全然眠くならないから、結構時間はかかるんだけど。
でも、部屋を暗くして大人しくしてるといつの間にか朝になってたりする。だから俺やナディ、エッジの『疲労無効』三人組は夜になるといつも寝落ちを待つことになるのだ。何かどうしてもやっておきたいことがある時は、その時間を利用して三人で片付けてたりすることもあるんだけど。
宴の後片付けとかが、その最たる例だ。メイド隊の皆もまだ子供なので、夜に宴をやった際は後片付けを俺達三人でいつもやっている。
ちなみに奏はちゃんと寝てたけどクロはガッツリ発情してたので、宿に着いた瞬間『もう、限界や……』と押し倒された。
無論断る理由など俺にはないので、ヤラセテいただきましたとも。クロの妖術で皆の五感を弄れば同室だろうと皆に迷惑をかけずに出来るからな。
本当は奏ともシたかったが、奏はなんだかんだでまだ14歳。成長に悪影響が出てはいけないので既に寝ているのなら起こさない。それは前からの決まり事だ。
魔法の温泉に浸かれば健康体に戻るし、影の回廊の中に大量に放り込んである完全治療薬を飲んでも体調は良くなる。
それでも、なんとなくそればかりに頼って生活習慣をめちゃくちゃにするのは気分的に良くない。だから出来るだけ健康的な生活習慣を送るようにしているのだ。 拷問部屋にぶち込んでる野郎どもは、別に死んだら死んだで問題はないから好き放題拷問させてもらってるけど。あいつら、人体実験にも使えるから実に便利である。新技を開発する際の的にもなるからな。
「ん~? って、ああ!! あんたは! サタンの旦那じゃねぇか!!」
奥の鉄火場から出てきた汗まみれのギムリ。
飲み会の時と同じ格好をしている。ということは、恐らくこれが制服なんだろうな。そして常に腰に上着を巻いてるってことは、本当は上着も着込まなきゃいけないのだろう。鉄火場の業火やら焼けた鉄から身を守るために。
それでも熱すぎるから、脱いで腰に巻いてるのだ。上司が様子を見に来た時急いで着込んで誤魔化すために。俺も似たような経験があるから分かる。高校に入学して早々に始めた引っ越しのバイト。上司からはシャツも着なきゃダメだぞって言われてたけど、インナー1枚で常に仕事をしていた。
様子見対策で俺も腰に巻いていたのだ。きっと、ギムリも同じだろう。でなければ、常にあのスタイルでいる理由がないからな。
俺と違うのは、彼女らの上着はマジで暑そうってことだ。肌の露出を完全になくすくらいの奴だし、見るからに分厚い。冬に着る服じゃねぇの? って言いたくなるくらいに。
「よっ!」
なんて返事を返すと、
「どうしたよギムリ。って……サタンの旦那!! 来てくれたんだな! 歓迎するぜ~! 嬢ちゃん達もよく来たな。話には聞いてるぜ」
奥から続けてレギンも顔を出した。
彼女もやはり、ギムリと同じく飲み会の時と同じ格好をしている。
「よっ!」
レギンにも同じように挨拶を返してから、工房内をキョロキョロと首を動かしながら視線を巡らせる。
壁に無数の武器防具が飾られている。
一つ一つ丁寧に壁に掛けているということは、恐らくこれらは成功品。それに対して床に置かれた大きな木製の樽にごちゃごちゃに入れられている武器は、失敗品なのだろう。いわゆるジャンク品だな。地球ではこういうのも販売していたが、彼女たちはどうしているのだろうか? 捨てたり溶かしたりしてるのだろうか。
俺は武器防具を装備出来る人型POPモンスターの分も考えたら幾らあっても足りないくらいだから、譲ってもらえないか交渉してみるか。
「ちょっと、この子らはともかく私は72なんですケド」
嬢ちゃん扱いは遺憾だったのか、セーラが文句を垂れる。
「おおっと、こいつは悪かったなセイレーンの姉ちゃん。でも、やっぱオレらからすりゃあ十分嬢ちゃんだな」
「あぁ。オレは今年で118、レギンは121だからな」
なんと、予想以上の年齢。
やっぱ亜人は見かけじゃ年齢判別できねぇな。
「あっ、そ、そうなんだ~……。なんかごめんなさい……」
ちょっとしょげちゃった。セーラもあんなとこあるんだな。ちょっと微笑ましい気分になった。
「良いってことよ!! まぁちょいと散らかってっけど、好きに見てってくれや」
「戦い方なんかを聞かせてくれたら、オレらの方で装備を見繕ってやることも出来るぜ!」
ふむ……彼女らのセンスの方も気になりはするが、とりあえずは交渉だな。
「なぁギムリ、レギン。この樽にぶち込んである奴は何なんだ? 壁にかけてるのと区別化してるってことは、捨てるのか?」
「あぁ~、それな。そう、失敗作。別に捨てる訳じゃねぇけど、溶かして再利用する予定なんだよ。あぁ、欲しけりゃやるよ」
俺の質問に、ギムリが答える。
なんと! 交渉するまでもなく貰えるとは!
「ちなみに奥の方にも山のようにあるんだけどな! がっはっは!! 最近忙し過ぎて、再利用の為に溶かしたり柄を外したりする時間が勿体なくてよ。溜め込んでんのは、オレらだけじゃねえんだわ。ざっと剣やら槍やら、色々含めてざっと3万近くはあるんじゃねぇか?」
3万、か。流石に多いな。
幾ら我が家の住人も増えてきたといっても、まだまだ人型POPモンスター全てを含めたって2千に満たないくらいだ。
しかも影の回廊にも既にかなり荷物が入っている。あまりにも入れ過ぎたら良くないかもしれない。影は光ある所なら何処にでもあるから実質無限にぶちこめるし取り出す物のイメージをすれば、その通りのものが出てくるけど、本当に限界がないのかなんて分からないし、もしかしたら容量オーバーをすると入れた順番が古い順に消滅してしまうかもしれない。ここは慎重に計算に計算を重ね「全部ください!」
「はっ? お、おいおい。3万だぞ。一体どうやって……」
「ってか、なんか難しい顔して考え込んでたけど……そんなアホみたいな結論で良いのかよ。賢さ何処行った」
「うっせぇ! こういう時は勢いも大事なんだよ! あと、保管場所に関しちゃ何の心配も要らねぇ。ほれ」
俺の答えに呆然として聞き返してくるギムリとレギンに、俺の影の回廊を見せてやる。
「な、なんじゃこりゃ!? 黒い、渦みてえなのの中に、なんか皿とか液体が入った瓶とかジェセル硬貨とか、いっぱい入ってっけど……?」
「もしかして、空間魔法!? 亜空間倉庫って奴か? 初めて見たぜ……」
アイテムボックス! おぉ、異世界テンプレスキルの一つだ! そっか。そういえば、この影の回廊ってアイテムボックスみたいだな。
全然意識してなかったけど、似てるわ。空間魔法と言えば、確かにそうなのかもしれない。でも。
「いいや。俺のこいつは、そんな便利そうなもんじゃない。確かに物がいっぱい入るのは同じだけど、影がある所にしか門を出せない」
そう。何処でだって何時だってアイテムを取り出せて、中にしまうと時間が停止する! なんていう素敵能力、アイテムボックスとは違うのである。
まぁ、この世界の空間魔法アイテムボックスが、一体全体どういうもんなのかは知らないけど。それに、そもそもこいつは魔法ではなく俺のユニークスキル『暗殺者』の能力の一つ、『影渡り』の副次効果なのだ。
「へぇ~。……いいぜ! それなら、譲ってやるよ! 全部な! タダでいい! そん代わし、一つ頼まれちゃくれねぇか?」
そう言うとギムリは頭を下げ、パン! と顔の前で手を合わせながら片目で様子をうかがってきた。
「オレからも頼む! ちょっと上級装備を鍛えるために必要な生体魔鋼が足りなくなってきててよ。そこら辺をうろついてる鉱石角獣を狩って、その死体を持って来てくれりゃあ良い! もし一杯持って来てくれたら、色々とサービスするぜ~!! 本当は自分達で行きてぇんだけどよ、マジで仕事が山積みでよ」
「メタライノクス?」
「あぁ~分かんねぇか。なんつーか……身体が銀色で、角が生えてる魔物だよ。ここに来るまでに見かけただろ?」
「あぁ! アレか」
へぇ~! あのデカいメタリックなサイ、そんな名前なんだ。なんかかっけぇ。それにコプスメタルも、ちょっとかっけぇかも。
「あいつらを狩って死体ごと持ってくりゃ良いんだな?」
「おう!! 剥ぎ取りなんかの解体は、オレらの方でやるからよ! 適当に剥がすだけじゃ生体魔鋼になってくれねぇんだ。間違ってもバラバラにすんなよ? 出来るだけ身体が傷つかねぇように、キレイに仕留めてくれ」
「無茶言ってんのは承知の上だ。その上で頼む!!」
なんと! サービスでバラしてから持ってきてやろうかと思ってたけど、それはしない方が良さそうだな。
「おっけ! まぁ、任しとけ」
「おっけ、ってなんだ?」
ギムリが問いかけてくる。
「あぁ……おっけってのは、まぁなんだ? 良いぜ! みたいなもんだ!」
「ほ~。んじゃ、おっけ! 任せたぜ! サタンの旦那!」
こうして俺達はメタリックなサイ改め、メタライノクスを狩ることになったのであった。




