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42話 L・O・V・E!! ラブリーかなで!!


「それで創哉、具体的にどうするか……考えてあるの?」


 換金所を出て暫く歩いたところで、とうとう奏に聞かれてしまった。


「ゔっ……いや、ぶっちゃけ何もないっす。どうしよっか皆」


 あはは~、なんて笑いながら皆に意見を聞く。

 まさかこんなことになるとは、予想していなかった。流石にたったこれっぽっちの金じゃ、心もとなさすぎる。


「外に()った魔物でも適当に狩って来ればええんとちゃうか? 普通の鉱石は安価でも、あのサイの身体の鉱石は高価かもしれへんやろ。なんせ、魔力を帯びた鉱石やからな。普通の鉱石やない。別に専門家やないから、詳しくは知らへんけど」


 クロの鶴の一声。確かに、可能性はある。そうするか! と俺の中で方針が定まりかけた所で、


「ふっふ~ん! まぁまぁ、ここは私に任せてよ皆」


 奏がいかにも自信あり! な表情でそう言う。

 いつも穏やかな奏が、こんな風に胸をはるなんて。珍しいな。


「具体的にはどうするんだ?」


 俺がそう聞くと、


「ふふっ、そんなの決まってるでしょ? 忘れたの創哉。戦いにばかり使ってたけど、私のユニークスキルは『歌姫』なんだよ?」


 ニヤッと不敵な笑みを浮かべるのだった。




◇◇◇




 プライドキングダムの城下街。

 街の入口から真っ直ぐに進み、屋台が立ち並ぶ俗にいう屋台村の終着点からもう少し奥まで行くと、細い裏路地を除いて基本一本道だった道は広がり、様々な場所へのアクセスが出来る円形の広場となっている。そしてそこの中心には、建国王なのか現王グラン・レオーネをイメージしてなのかは定かではないが、うつ伏せの姿勢で横たわるライオンの口からちょろちょろと水が漏れだす噴水がある。

 ぶっちゃけ(よだれ)にしか見えなくて微妙な気分にならざるを得ないが、これを建てたものはどういった気分でこのような設計にしたのだろうか? せめて勢いよく豪快に放たれていれば、シンガポールのマーライオンみたいでまだ良いと思えたのだけど。

 そこは普段待ち合わせに使われるか、休憩がてら噴水付近のベンチに座る者がまばらにいる程度の場所。あくまで様々な場所へアクセスする為の経由地に過ぎない筈の場所。そこに現在、大勢の亜人が集まっていた。


 半ば交通妨害にもなっており、騒ぎを聞きつけたガルーダ警備隊もちらほらいるのだが、そんな彼らすら熱心に人だかりの中央を見つめている。

 その中央にいる者とは、


《みなさ~ん、盛り上がってますか~!? 次はかなり刺激的で闇が深いラブソングだけど、良かったら聞いていってね~!》


 言わずもがな我らが歌姫奏である。 


――ワァアアアアアッッ!!!!

――ヒューヒュー!!

――カッナデちゅわ~ん! かわいいよ~!!


「いやぁ~、想像以上の成果だわ。こういう路上ライブって、そんな収入高くない印象だったんだけど……これじゃまるで超大スターのゲリラライブみてぇじゃん」


 観客たちに紛れて皆と奏のライブを聞いている訳だが、既に投げ銭は俺のギターケースの縁を大幅に超えもりもりになっている上、地面にもちょっと零れだしている。ジェセル金貨もちらほら混ざっているようなので、パッと見でも17万ジェセルは超えていそうだ。ちなみに硬貨のレートはファルと同じ。金貨1枚で1万ジェセルの価値がある。


「そうやな。にしても……かなり刺激的で闇が深いラブソングって、なんやろな」

「さぁな。分からん」


 さっきまではJPOPやらアニソンやら、某坂道な人達のアイドルソングやらを歌っていた。基本可愛くて明るい曲調の歌ばかりだったのだけど……いきなり方向性を変えるとは、どうしたのだろうか。


《歌い始める前にも言ったけど、さっきまで歌ってた曲は私の旦那さんの故郷に伝わる曲! でも次の曲はね! 私のオリジナル! 私の想いなの!》


――なんだって~~~!!!?

――俺らのカナデちゃんがああああ!!

――うおおおおん!!


 なんだってはこっちのセリフなんだけど。

 というか、え? オリジナルって、マジで?


《それから、今日はこれで最後にします。ここまで聞いてくださりありがとうございました! それじゃあ、行くよ! 『あなたは私の光』》


 奏がピアノを弾き始める。

 そう。子供たちが生まれてから一ヶ月の間に、奏はピアノを練習したのだ。弾き語りに憧れたらしい。だから俺はギターを教えてやろうとしたのだが、『それだと創哉と被っちゃうでしょ? それにやりたいことがあるの』と言われた。

 何がやりたいんだと聞いてもはぐらかされてきたが、まさか作詞していたとはな。俺への想いとか言っていたが……どんな曲なんだろうか。

 

《ほの暗い闇の中に、狂気の村があったとさ》


 10秒ほどの暗いイントロが終わると、奏はついに歌い出した。

 

《気持ちの悪い愛に、耐えたいつかの私》


 奏の過去だ。性奴隷時代のことを歌っている。

 今でも奴らのことを思い出すと、(はらわた)が煮えくり返る想いだ。

 最近はセーラも拷問に加わっており、奴らを文字通り水風船にして身体の内部から爆発させては治療する。という新しい拷問が出来た。

 俺が魔法教室の前、膨らませると聞いて爆発をすぐに連想したのも、これが原因だったりする。


《つるぺたな胸がたまらない? 小さくて綺麗な身体を汚したい? 無垢な心を染めてやる? うわぁ~、どうしようもな~い! さっさと死ねば良いんじゃないですか~?》


 セリフパートだ。捲し立てるように、ピアノを弾くのを辞めて言葉を紡ぐ。

 きっと奏だけでなく、村に囚われていた女の子達皆が、村のオッサン共に言われてきたことなのだろう。そして、当時実際に思っていたことなのだろう。

 

《ほの暗い闇の中に、狂気の村があったとさ》


 再びピアノを弾き始め、メロディーに乗せて歌う。


《死ねと睨む私、二チャッと笑う大人たち》


 奴らの気持ち悪さを、最大限に表現している。吐き捨てるように、言葉を紡ぐ。


《大きくなったお前は要らない? お前みたいな巨女は目障りだ? お前は汚れてるから要らない? ゴミはゴミらしく野垂れ死んでろ?》


 再びのセリフパート。

 奴らへの怒りが再燃しそうになる。あいつら、奏にそんなことを言っていやがったのか。確かに奏は14歳の少女にしてはかなり身体が大きい。何せ、160㎝ほどはあるからな。俺と頭一個分しか変わらないのである。


《うるせぇ黙れよクソ溜まり。ブーメランって知ってますかぁ~? お前らが今汚したんですけどねぇ~?》


 荒々しい口調。普段の奏からは考えられないような、攻撃的な言葉だ。けれどいつか、俺と奏が初めて喧嘩した時に言っていた。『私達は毎日恨んできた。憎んできた。他に生きれる道があるのなら、こんな奴らさっさと殺して自由になりたいってずっと願ってきたの』と。

 だったら、これくらい攻撃的な想いを抱えていたって不思議ではない。いや、むしろ当然だ。というか、クロムウェルを捕えてからこっちずっと平和だったから忘れかけていたが、うちの住人の大半は復讐者なのだ。殺してやりたい、苦しめてやりたい。そんなどす黒い怒りを胸に抱いて生きてきた女の子ばかりなのだ。


《「もう死んでもいい」「それで良いの?」 潰れそうな心に、何度も問いかけた》


 またピアノを弾き始める。

 あぁそうだ。奏は最初山に捨てられ自暴自棄になって、自分を食おうとする大鬼(オーガ)時代のクロに『食べて良いよ』なんて言ってしまうほどに、生を諦めていた。それでも、最後の葛藤で助けを求めてくれたから、俺は奏の存在に気付くことが出来た。奏が本当に諦めきって黙り込んでいたら、俺は自分の安全を優先してクロに挑むことはなかった。

 奏が助けを求めてくれなければ、今の幸せはなかったんだ。


《泣きたい日、くじけそうな日。でも耐えた。だって私はお姉ちゃん!》


 そうだ。奏は、村に囚われていた女の子たちの中で、一番の古株。年長者だった。いつかの奏が俺を太陽と称してくれたように、あの娘たちにとっては奏が太陽だった筈だ。闇を照らす、一筋の希望の光だった筈だ。


《乗り越えよう。どんな闇にだって、いつか希望(ひかり)が射しこむはず》


 俺が、そうだって言うのか……? 奏。


《でも捨てられちゃった! 私はゴミなんだって。そんな時ね! 貴方が来てくれたの!!》


 一気に曲調が明るくなる。

 まるで闇が晴れていくような、そんな感覚すらした。


「来て! 創哉!!」


 俺に視線をやると、奏は歌うのを止めて普通に叫び、俺を手招きした。


「我らが歌姫様のお呼びだ。ちょっくら行ってくるわ」

「ひひっ、おぉ。いっちょかましてきたれや」

「お姉さん、やっぱ2人のこと好きだわ。頑張ってねマスター」

「創哉様、ファイトです!」

「父上、ご武運を!」


 皆が温かく送り出してくれる。

 他の観客たちも、大人しく事の次第を見守っている。


「明るい感じで4小節くらいソロでお願い! メロディーは掴んでるよね?」

「あぁ。とんだ無茶振りだけど、任しとけ」


 先程少し流れた明るい曲調に良い感じに合わせておけば良いだろう。

 ケースを投げ銭入れにするため、外に出されたまま地面に横たわっている俺のギターを拾い上げると、比較的奏のピアノセットの近くにある噴水の傍にあるベンチに座って、じゃかじゃかとギターをかき鳴らす。

 その間、10秒ほど。


《変わった私、もうありのまま生きれるんだ! 走り出そう! 今の私なら、どんな夢だってきっと叶えられる!》


 村を潰して、クロムウェルを捕えて、奏やメイド隊の女の子たちは凄く前向きになった。今まで出来なかったこと何でもやりたい! ってくらいの勢いで、凄くチャレンジ精神旺盛になった。好奇心旺盛になった。

 その理由こそ、これだったのかもしれない。


《ありがとう。全部全部、貴方のおかげだよ!》


 ピアノを弾きながらも、俺に微笑みかけてくれる奏。

 思わず、泣きそうになる。俺の行いの全てが報われたような。そんな感覚すら覚える。これまでだって、散々感謝を伝えあってきたのに。

 どうして歌に乗せて言われると、こうも胸に響くんだろう。俺の『吟遊詩人』と違って奏の『歌姫』には、自分の想いを完全に歌や演奏に乗せて伝える能力なんてないのに。


《あの頃の悲しみも苦しみも、貴方が傍に居てくれるだけで私、忘れられる! あなたは私の光》


 もう堪えきれない。涙が溢れ出す。


「俺だって、俺だってそうなんだぞっ。奏、お前はっ、俺の光だっ……」


 ボロボロと涙を流しながら、それでも気合でギターの弦を(はじ)き続ける。今は胸に内に留めておくつもりだった言葉が、思わず口から漏れる。

 しかし観客の泣き声で、俺の声はかき消されたようだ。


《でもね一つわがまま。もっといっぱい愛してちょうだい! 私の想いを受け止めて? あなたは私の光なの。……愛してる》


 歌が終わる。 

 奏のピアノが終わるのと同時に、俺もギターを弾くのをやめる。


「えへへ。ご清聴、ありがとうございました!!」


 奏がぺこりと頭を下げる。

 その瞬間、


――わあああああ!!!

――お前ら幸せになああああ!!

――カナデちゃんの旦那あああ!! 絶対幸せにしてやれよぉぉ!!


 割れんばかりの歓声が轟く。

 それと同時にちゃりちゃりちゃりちゃりと、既に溢れているギターケースの近くに男女問わず観客たちが金を落としていく。

 こうして、歌姫奏のゲリラライブは幕を閉じたのであった。




◇◇◇




「あ゛あ゛あ゛あ゛もう!! 止まんねぇな! くっそ~!! このやろ奏ぇ! 俺を泣きすぎによる水分不足で殺すつもりかよ!! 推すぞ!! 俺のオタ芸披露してやろうかと思ったぞこんちくしょう!!」


 団体様でちょっと高めの宿の大部屋を貸切にして、影の回廊にとりあえず突っ込んでおいた溢れんばかりの硬貨を取り出し、皆で収入を確認している最中。

 俺はいまだこぼれ続ける涙に、思わず奏に苦言を漏らした。 


「あはは~、ごめんごめん。でも私の本心だよ。あと創哉のオタ芸は見てみたいかも」


 目を輝かせてワクワクしている奏。


「……っしゃーねぇな!! いっちょやったるぜ!!」

「ええっ!? な、何も今すぐじゃなくても!」

「いやいや! ここは今すぐやるべきっしょ! お姉さんに任せて! 水の結界で外に音が漏れないようにしたげるから」


 セーラはそう言うと、部屋をまるっと覆うように水の膜を張った。


「これで、相当遮音される筈だよ。少なくともクレームとかは来ない筈。思いっきり歌っちゃって良いよ! どうせだから二次会にしよう! お酒も家から持ってきてたよね?」

「おう!! そういうことなら好きに飲め!! 騒げ! 俺はその間ひたすら奏を推し続ける!!」


 こうして、俺達の二次会が始まった。


「それじゃあ行くよ? La~♪」

「ふっふっー! うおおおおお!! よっしゃいくぞー! タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー! はい! はい! はい! はい! GOGOGOGO! っおーい! っおーい! ぃよっしゃー! GOGOレッツゴーか・な・で! L・O・V・E!! ラブリーかなで!! ふぅーー!!」


 ふっ……紗耶香が中1の時の合唱コンぶりの、良いはしゃぎっぷりだったぜ。即行で追い出されて先生達にしこたま怒られたっけな。懐かしいぜ……!

 


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