35話 魔物融合-2
俺の予想した組み合わせは、やはり正しかった。
スネーク×ギャングフィッシュからは暴れ海蛇というウツボ並に歯が生えていて強力な毒を持つ両生類な蛇が産まれた。両生類の例にもれず、陸地に上がれる時間は短時間のようだった。
また、この子も名付けたら眷属化した。この分だと魔物は基本名付けすれば眷属化すると見て良いだろうな。
転生後の種族名はメドゥーサ。女の子で、ミスリと名付けた。髪の毛の一本一本を緑色の鱗で赤い目の蛇にすることが出来る。そう、出来る。戦闘時以外は普通の緑髪で、腰まで伸びたボサボサである。前髪も相当で、片目以外はほぼ全て髪の裏に隠れており、そのわずかな隙間から覗く瞳の色は赤で爬虫類らしい縦割れの瞳孔をしている。
ちなみにメドゥーサと言えば石化させる目だが、これも普段は抑えることが出来るようだ。地球の神話における怪物とは違い、彼女のそれは石化の魔眼という技になっているのだとか。魔力消費が高くて一日○回しか使えないんです~! みたいな感じだったら、ちょっと名前負けかな? って思わなくもなかったが、どうやら切り替えられるだけで石化の魔眼はノーリスクノーコスト技らしい。バケモンですね分かります。侵入者からすれば堪ったもんじゃねぇな。
身長はかなり高く、2m10㎝ちょっと。俺が見上げなきゃならん。既婚者である俺的に救いなのは、彼女がペチャパイだってことだ。俺が正面を見るとちょうど胸辺りの高さだからな。これで谷間が出来るくらいのサイズだったら、無意識に吸い寄せられていたかもしれない。とても助かる。
いわゆる無口系キャラだが、喋らないだけで可愛い性格をしている。俺が髪の裏に隠れている顔を見ようとしたら脱兎のごとく逃げ出してわたわた手を振ってペコペコ頭を下げて恥ずかしそうにもじもじしてたからな。結構な乙女さんなんだろうね。うん。まぁしっかり意思疎通しないとマズいって状況になったら思念話すれば良いでしょ。喋りたくない子に無理矢理喋らせるなんて可哀想な真似はしない。
次のバット×ソードフィッシュウェーブからは、やはりコウモリ大集合が産まれた。種族名はエッジバットスウォーム。爪が剣になっているコウモリが何百体と大集合して、遠目からではもはや巨大な黒い柱にしか見えない魔物である。
爪の剣で斬りつけて吸血し、超音波によるエコーで周囲の状況を把握し意思疎通する。この子もやはり眷属化し吸血悪魔という、ナディとはまた違う吸血鬼となった。
具体的な違いはあの子が目で世界を把握するのに対し、この子は耳で世界を把握する。そう、コウモリ……バットとしての能力だ。更にこの子は日光の下で活動出来ないが、線や点での物理攻撃が一切効かない。この子の本質はやはりコウモリ大集合だからだ。斬られた部分や突かれた部分から肉体を構成するコウモリを逃がすことでダメージを避けるのだ。その代わり面での攻撃は普通に効いてしまう。ハンマーなどの打撃系武器には弱いということだ。吸血すれば再生出来るから、問題はないっちゃないのだが……。
名前はエッジ。男の子で、ナディと同じくらいの身長だ。コウモリを象徴するかのような黒いマントを羽織っていて、切れ長な目で赤い瞳。吸血鬼らしくないが牙はなく人間と変わらない歯をしている。爪から吸血するから牙は必要ないのだ。
この子もナディと同じく礼儀正しいが、ナディよりクールな印象だ。それにミスリと違って喋るけど口数は多くない。
「さて! それじゃ、クロの考案した組み合わせを試してみようか」
「おっ、いよいよやな? イルカちゃん産まれてくれんかのぅ。かわええから、うち好きなんやけど」
「おっ、なんだなんだ? そうなのかよ。そりゃ意外な一面だな」
「うっさいわ! かわええもんはかわええんや。はよイルカちゃん産まんかい!」
「いや、クロ……イルカが可愛いのは私もよく分かるけど落ち着こうね? ホントに産まれるかは分かんないんだから」
「うぐっ……わぁっとる。けど見たいもんは見たいんやから、しゃーないやろ。創哉はんの記憶を通して見ただけで、ホンマもんはまだ見たことないんやから」
恥ずかしさからか頬を染めて、拗ねるようにそっぽを向いて口を尖らせるクロ。
「お前可愛いな。イルカよりお前の方が可愛いだろよっぽど」
「は、はぁっ!? な、なんやねんいきなり……アホ」
先程とはまた違った意味で顔を赤くするクロ。
それを見て、俺はたまらず子供たちを抱き寄せた。
「母ちゃん可愛いなぁ! な! お前らもそう思うよな!?」
「そ、そうですね……。少し意外です。母様が、あんなに可愛らしい御方だったとは」
「母さん。可愛い」
「っ……!!」
ミスリも、喋りはしないがうんうんと激しく首を縦に振って同意している。ふと視線を動かして奏を見れば、彼女もグッとサムズアップして頷いている。
「なっ、なな……!? だぁもう! ええからせぇ言うとるやろが!」
クロがウガーと吼えた所で、ガチャリと扉が開く。
「おっ、ナイスタイミングだったな。ありがとよセーラ」
「ん~ん、別に良いってマスター。まぁ私的にはもっとカワイ子ちゃんが増えて欲しかったけど……ナディとエッジみたいなイケメンもあり! あの子たちも美形だしマスターと同じように女装させれば似合うだろうしねぇ~」
「セーラ……? お前、子供たちにまでやらせる気か? んん?」
「いいっ……! じょ、冗談! 冗談だって! それじゃねぇ~!!」
ピュー! と逃げ去っていくセーラ。そう、ソードフィッシュウェーブもそうだが水場でしか生きられない魔物たちは、セーラの力でつい最近俺とクロも閉じ込められた水球の中に入れて運んできてもらっていたのだ。
「ったく……んじゃ早速始めるか。サハギンが窒息死する」
そう言うとオークに指示を出して自分から魔法陣に向かってもらい、サハギンは素早く俺が反対側の魔法陣に乗せて俺含め皆が巻き込まれないよう十分離れていることを確認すると融合を開始する。
そして産まれたのは……一人の巨漢。セイレーンと同じような尖ったエラ耳で、身体全体を水色の鱗が覆い、白目の部分がない赤一色の目。顔面は完全にサハギンかな? と思いきや完全な豚鼻で、鋭くて大きな下から突き上げる反りかえった牙が生えている。そして首から下は、鱗が覆っているのはサハギンと同じだが、ゴリマッチョである。身長は5mはあり、物凄く筋骨隆々である。
――魔物融合を実行。新種族『豚魚人』が誕生しました
――新種族『豚魚人』の情報登録に成功。魔物渦の設置が可能になりました
「なっ、なん……やと……!? う、うちの……イルカちゃん……! ううっ」
産まれた子の姿を見るや否や、クロは四つん這いになって打ちひしがれた。
ま、そりゃ全部が全部予想通り行く訳はないわな。
思ってたんと違う……! って時、あるよね。




