21話 モヤモヤ
「それじゃあ、行って来る。留守は任せたぞ」
洞窟の前に立ち、俺は対面に立つ我が家の住人にそう言葉を掛けた。
「はい、お任せください。行ってらっしゃいませ、創哉様」
「我らメイド一同、創哉様のお戻りの日をお待ちしていますです!」
恭しく頭を下げる2人の頭を軽く撫でてやり、無言で2人に習って頭を下げる他の皆の頭も撫でてやる。すると今度は、奏がズイと一歩前に出る。
「創哉」
「あぁ。むぐっ」
すると奏は、突然下から両手を伸ばして、俺の両頬を抑えた。
「どうか死なないでね。創哉の心臓は、私達が絶対に守り抜くから」
上目遣いで、心底心配そうにそう言う奏。
「あぁ。必ず、帰ってくる」
「それと、クロとの仲も応援してる! 頑張ってねクロ♪」
「なっ!? ちょ「ひひっ。おう! 帰ってくるまでにはチューの一つでもしてくるで」」
被せる形で俺の言葉を遮るクロ。
「はぁ……おいおい、なにも応援することないだろ!!? 俺は奏一筋でいたいのになぁんでその奏がクロを応援しちまうんだよ!!」
「だって……クロとお似合いなんだもん。クロのこと大好きだし♪ クロだったら別に3Pしたって全然良いもん私! それにさ創哉、一番頼りにしてるのはいつだってクロでしょ? 女として愛してくれてるのは、私だけどさ」
少し寂しそうに目を逸らし苦笑する奏。
「奏……」
だが、それは確かにそうだ。でもだからこそ、俺はクロを女としては見れない。俺より強いクロを、守ってやりたいなんて思えない。
俺にとって女というのは守る対象。愛する人なんて、尚更だ。
だからこそクロはかけがえのない戦友であり、右腕だ。この認識が変わるなど今の俺には考えられない。それにクロ達大鬼の女の旦那探しのやり方にも引いているのだ俺は。自分をタイマンで半殺しにした男に求婚するって……。
「んんっ! だからこそだ奏。俺は嫁さんは共に戦うんじゃなくて守りたい主義なんだよ」
「じゃあ、いつか私が2人と同じくらい強くなったら、私も創哉のお嫁さんではいられなくなっちゃうの……? 言ったでしょ。私は2人と同じ戦場に立ちたい。肩を並べたいんだって」
「それはっ! ちがっ!」
「違わないでしょ。創哉の言ってることは、そういうことだよ」
確かに、その通りなのかもしれない。
俺の言っていることをそのまま受け取ったら、そうなってしまう。
「本当に違うんだ。そんなつもりはないんだよ。なんていうのかな……」
「要するに、創哉は私だけを愛してたいんでしょ?」
「そう! それが分かってるなら、なんでクロを応援するんだよ。そりゃ、この世界では一夫多妻が一般的なのかもしれないけど……」
ハーレムには憧れてたけど、それとこれとは話が別なんだ。
「クロから逃げないであげて。それに自分の気持ちからも」
「俺は逃げてなんか!! ……逃げてなんか、ないよ。少なくとも自分の気持ちからは。俺はクロを女として見れない。何度も言ってるじゃないか」
「嘘。見てるでしょ? 女として。気付かないとでも思ってるの? 女の子はそういうの敏感なの。私達なんて特にね」
「っ……」
確かに、あの胸を見れば女を意識せざるを得ない。それがバレていたのだろう。完全に確信している目だ。
口答えなど出来ようはずもなく、俺は押し黙った。
「……意地悪すぎたかな。ごめん。とにかく、そういうことだから。気を付けて行ってきてね」
「……おう」
そんなモヤモヤした気持ちのまま、俺はクロと2人で我が家を後にした。
◇◇◇
「なんや、悪かったのぅ。うちのせいで」
「……何も言うな」
正直言って、今の俺に普段通り接することなど出来そうになかった。手当たり次第に当たり散らしてしまいそうで……話したくなかったのだ。
「そか。……どないして、クロムウェルんとこまで行く気や。走ってくんか?」
「……こいつらに乗ってく」
短くそう言うと、顎で場所を指す。
その先には爽やかな笑顔が眩しいキラキラしたコボルトが2人いた。
「……マジで言っとるんか?」
「本気だ。……お前ら、普通の犬と同じように四足でも走れるんだろ?」
「ええ勿論ですよ。脚の速さには自信があります! 我らが主のご要望とあらば何処へでも駆けましょうぞ!!」
キラキラキラ~! その爽やかで眩しい笑顔が、今の俺には非常にやかましい。
だが彼らの脚力は本物だ。何せ、
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コボルト 成体 ♂ レベル:10
筋力:120
耐久:48
敏捷:540(最大3倍まで上昇)
魔力:50
器用:35
能力:種族スキル
『超嗅覚』『駿足』
装備:毛皮のボロ服・下
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彼らコボルトは多少の違いはあるが大体このくらいのステータスなのだ。
つまり最大敏捷値1620、クロとほぼダブルスコアなのだ。つまり彼らを頼るのがベストな選択なのだ。え、POPモンスターじゃダメなのかって? POPモンスターはダンジョン内でしか活動出来ない。領地の外へ出ることは出来ないのだ。
「……あぁ、頼んだぞ」
「~~っ、はぁ。しゃーないのぅ。任せたで」
俺達が溢れ出るキラキラに眉根を寄せながらも頼むと、
「「はい!! お任せください!!」」
彼らは実に嬉しそうに更にキラキラと輝き爽やかな笑顔で承諾したのだった。
ステータス変化なし




