87話 えっ、いいもんもんじゃんじょん
元気リスっ娘店長が靴の製作に取り掛かり始めた翌日の昼間である。
どうやら靴が完成したらしい。ちなみにあの後自己紹介を改めてしあったのだが、あの店長は栗鼠人のディナと言うらしい。
呼び捨てで良いらしいので、お言葉に甘えることにした。まぁ、対して俺はと言うとサタンの兄さん呼びのままなのだが。
いや、ちゃんと本名も言ったのよ!? でもね、やっぱこの世界の住民に日本名を正確に聞き取ることは難しいようで……一音一音しっかり教えても、カンズェアキソーヤになってしまう。まぁ、もう良いけどさ。今更だし。
でも……神崎って、そんな言い辛いかねぇ。カ・ン・ザ・キって感じで一音一音区切れば、発音してもらうことは出来たのだ。けれど連続して発音してもらうと、カンズェアキになってしまう。『万能翻訳』のおかげで苦労してないが、もしかしたらこの世界の言葉では『ザ』は発音しにくいのかもしれない。だって、『ザ』以外の部分はちゃんと言えてるのだ。まぁソウヤじゃなくてソーヤになっちゃうけど、そこはまぁ別に、大した問題じゃない。
う~む……『万能翻訳』を介さない状態だと、皆どんな言語を喋ってるんだろうか。いや便利だから、というか必要不可欠だから、無くなられたら困るけど。
「ふぁ……」
「お~っす」
「ん? あっ! やっと来たっすか~。待ってたっすよ!」
木箱に腰掛けてクシクシ毛づくろいしながら、ポヤポヤしてるディナに声をかけると、バッ! と目を大きく開き即座に木箱から立ち上がった。
「なんだ。暇なのか?」
「まぁそうっすねぇ。今は皆、靴どころじゃないっすから。新規のお客さんは来ないっすよ。以前予約入れてもらってたお客さんの分も、さっきちょうど下準備が終わった所だったんすよ。それでちょっと、眠くなっちゃって、へへ。そろそろ寒い季節が来るんで、眠気が強くなって来てるんすよねぇ。ふぁ……」
「はは、大分眠そうだな」
言われてみると、心なしか街の皆がちょっと厚着をしてるような気がする。俺は『熱変動耐性』があるから、全然気付いてなかったけど……。
そうか……。我が家がある大陸では今頃夏が終わるかな? どうかな? ってくらいだけど、こっちでは既に秋の終盤くらいの気温だったのか。言われてみれば確かに雨、全然降ってないな。サバンナ地帯の冬は乾季だって言うし。雨は降らなくて当然だったんだな。
「っと! いけない! 商品はこちらになります。お納めくださいっす」
再びバッ! と目を大きく開くと俊敏に動いてさっき座ってた木箱とは別の木箱から黒い革靴を取り出すと、ずい、と差し出してきた。
「ん? あっ、靴下の存在忘れてたな……はははは。えっ、これも、貰っちゃって良いの? すっげぇモフモフしてて高そうな感じだけど」
「どうぞどうぞっす! これもサービスのうちっすよ! それに、別に高くなんてないっすよ? うちの提携店舗の服屋が定期的にプレゼントしてくれる羊人の抜け毛で編んだ靴下っすから。貰い物の横流しっす」
「へぇ~、そうなのか。何にせよ、助かるよ! ありがとう。ディナ」
シープってことは……羊だよな? 要するにこれ、ウール製ってことか。えっ、いいもんもんじゃんじょん。現代だったらそれなりに高値つきそう。1セットで1500円くらいかな。知らんけど。
この革靴に合うかはともかく、まぁモフモフで気持ち良さそうなので全然アリ! というかロングパンツを履いてる以上靴下は隠れてしまうので、ぶっちゃけ何でもありだ。
「おお~、良いねぇ。めっちゃ気持ちいい。靴もちょうど良いな」
靴下も、靴も、履き心地抜群である。
それに、魔力を感じる。靴下は正真正銘ただの靴下のようだが、靴から魔力を感じるのだ。
でも身体が軽くなった、みたいな感覚は特にない。
ん~。まぁ、視てみれば良いか。
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『シックな革靴(黒)』…落下ダメージ無効,トラップ床無効の効果が籠められている。防御力は皆無に等しい
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えっ、強くね……?




