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86話 ここら一帯は全部うちの店だから

「いやぁ~、すまんすまん。つい部下の仕事っぷりに見惚れちまってた」

「あぁ? あ~、確かにすげぇよな。流石は屋敷妖精(ハウスゴブリナ)だよな。まぁ、オレは家事能力がとんでもなくて、出て行かれるとヤバいってくらいしか知らなかったんだが……あんな風に建築とかまで出来るとは思わなかったぜ」


 意外だ、と言った感じの目で俺が眺めてた屋敷妖精(ハウスゴブリナ)たちを見つめるギムリ。それは俺もちょっと思ってた。建築できること自体は知ってたけど。というかそれ知らなかったら、そもそも呼んでないしな。

 

「ばっかやろギムリ、お前はもう少し歴史に興味持てっつーの。屋敷妖精(ハウスゴブリナ)っつーのはな。家に居る間は家事を代役してくれて、その上幸運を招いてくれる守り神。で、それに甘えて家の住人が堕落すると出てっちまって、家に不幸をもたらされるんだよ。見捨てられちまった奴らは、どいつもこいつも破滅したって話だ」


 レギンは歴史通なのか。まぁ、(エルダー)のこととか伝説武具(アーティファクト)のこととかもレギンの方が知ってたし、今更か。


「ほ~、そんな奴らなのか。屋敷妖精(ハウスゴブリナ)って。じゃあ、やっぱサタンの旦那は大した器だな。そんなのをもう、長いこと住ませてるんだからよ。それでいて怯えてる訳じゃなくて自然体だ。これだけでサタンの旦那の人柄がよく分かるってもんだぜ。なぁ? レギン」

「それはオレも同意だな」


 うんうん、と頷く二人。


「褒め過ぎだって。ほら、靴屋紹介してくれよ。俺は靴の予約のために一人抜け出してんだからさ」

「ん? あぁ、いねぇと思ったらそういうことか。ワンダフルのシスター連中と一緒にガキ共の面倒を見てるって訳だ」

「そういうこと。だから、早めに頼む」

「あいよ。んじゃ、早速行くか」




◇◇◇




「つー訳なんだ。今はそれ所じゃねぇだろうけど、予約だけでも頼めねぇか?」


 ギムリ達についていくこと暫く。

 やってきたのは涎噴水がある広場から東へ行った、商業区跡地。

 同じように涎噴水広場から南へ行くと街の入り口があり、そこまでの通路こそが屋台村。いわばグルメストリートである。大まかな区別なら屋台村も同じ商業区なのだが、グラン王が腹ペコキャラであり、また国民も獣人が多いだけあってその多くが腹ペコなので、専用の区画が用意されたのだ。

 ちなみに、スナックにゃん丸は商業区の端っこ。あそこは比較的新参の店で、中央近くの良い立地に居を構えることは出来なかったらしい。

 まぁ中央は土地代も高いし、先客もいるからな。新参の彼らに高騰した土地代+立ち退き料+その他諸々の料金を払うことなど出来なかったのだろう。


「良いっすよ~! 仕事道具とか諸々全部地下に置いてあるんで、この開かなくなっちゃってる地下へ行く為の扉さえ開けられれば、すぐにでも!」


 元気な感じでそう言ってきたのは、体毛が金色で瞳が青い褐色肌のリス娘。

 まるっとした尻尾がかなりモフモフで、奏が大喜びしそうだ。いや、セーラも相当喜ぶだろうな。かなり可愛らしい容姿をしている。

 服装がギムリ達と同じようなザ・作業着って感じなので、余計セーラが張りきりそうだ。


「本当か! 分かった。扉さえ開けられれば、仕事を始められるんだな?」

「えぇ、その通りっす。サタンの兄さん! 扉を開けてくれたなら、サタンの兄さんの靴代はサービスで無料にしちゃうっすよ! しかも最優先で! 仕事道具がないと仕事を再開できないっすからね! 予約はそれなりに入ってるっすけど、そこは空気を読んでもらうっす」

「マジか!! 分かった。今すぐやろう。にしても……これと同じような地下への扉が幾つもあるように見えるが、流行ってるのか?」

「まさか! 地下に仕事道具を置いてるのはうちだけっすよ。単に、ここら一帯は全部うちの店だからってだけっす! ここだけじゃなくて、全部お願いしたいんすけど、良いっすかね?」

「あ、あぁ。了解した」


 了解した、なんてサラッと言いはしたものの……ここら一帯は全部うちの店って……マジで言ってんのか、この元気リスっ娘店長。

 

 2000㎡くらいあるんですケド? 80台くらい車駐車できるサイズなんですケド? この世界、駐車場なんて概念ないのに。つまり店舗面積だけでそのサイズということ。確か、大規模小売店舗に分類されるための店舗面積の最低基準が1000㎡だったから、余裕でそれを超えている。つまり、かの有名な『ド○・キホーテ』クラスにデカいということだ。流石にらら○ーとみたいな、いわゆる大型ショッピングモールほどではないが。あそこまで行くと最低でも30000㎡以上だからな。

 

 ぶっ潰れる前は、一体どんな店だったのだろうか……。だってここ、靴屋だぜ? ……いやまぁ、国中で唯一の靴屋って考えたら、このサイズになっても可笑しくはない……のかなぁ。分かんねぇけど。


「はぁ。ま、いいか」


 ついつい考え込んでしまったが、俺がやるべきは目の前にある扉を開けることだ。とりあえず、開かなくなってしまった原因から探るか。

 目に魔力を集中させ『解析』を発動し、扉を視る。


「あぁ、なるほど」


 理由は至って単純だった。

 見た目はちょっと鉄の扉がべこっとへこんでるだけに見えるが、内部の蝶番がイカレてしまっている。

 これじゃあ開きようがない。まぁ、パワーごり押しで周りの地面ごと抉るか、扉そのものをぶっ壊していいなら開けられるが。


「この扉、壊していいか? 無事なまま開けるのは無理そうだ。内部の蝶番がイカレてる」

「あぁ、やっぱりそうだったんすね……。薄々察してはいたっす……。はは……。良いっすよ!! ……扉の修理、お願い出来ます? ギムリさんレギンさん」

「おう。値段の方は後で相談ってことで。まぁ、多少はサービスしてやるよ。緊急時だしな」

「ありがたいっす」

「良いってことよ」


 なんか3人でこそこそ話してるが、俺は『地獄耳』なので聞こえている。あの口振りからして、普段はサービスなどしないのだろう。まぁ相当金持ってるだろうからな。サービスをしてやる理由もないってことか。

 それはともかく、壊していいのなら話は簡単だ。


「よっ」


 扉と壁の隙間に魔闘気の刃を差し込み、そのまま真下にスライド。

 実にあっさりと鍵は切断され、扉は開いた。


「おお~!! 助かるっす~!! その調子で他の扉もお願いするっす!!」

「おう」


 それから、30もの開かなくなった鉄の扉を俺は開けた。

 元気リスっ娘店長さんは大喜びして地下へ入り、次々に仕事道具その他諸々を取り出してきて、早速靴を作り始めた。

 俺の足のサイズとか測らなくて良いのか? なんて思ったが、どうやら既に測定されていたらしい。パッと見で詳しくサイズを測定できる、こんなナリでもやっぱ凄腕の職人なんだな……と思わされた瞬間なのであった。


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