3話
自販機半喰われ少女、もとい、現、米多比さんに何故自販機に食べられていたのか、そもそもアレは一体何だったのかというのを聞きたくて仕方がなかった。
「あれですか。アレは何だったんでしょうね、私も初めて見ました。自販機でジュースを買おうとして、財布から小銭を落として拾ってたら、いきなり自販機が倒れてきてそのままパッくっと食べられちゃって、そのままずるずるゆっくり引き込まれたんです。あとはフチさんもご存じの通り、あの状態です」
「あれはもう安全というか、襲ってこないんですか?」ちらりと自販機の方に目をやる。もうただの屍ではなく、ただの、普通の自販機に戻っていた。
「たぶん、大丈夫です。私だけを狙っていたみたいなので。もし、フチさんや他の人を見栄えなく襲うなら、助けようとしたタイミングでもう一度、自販機の口を大きく開けて二人とも食べられてたはずですし」
彼女は凄く恐ろしい事を言った。見栄えもなく人を食べる自販機なんて。自販機が怒ったのだろうか。雨の日も風の日も台風が来ようとミサイルが落ちてこようとずっと突っ立ている我々の気持ちを考えたことはあるかと。今こそ復讐の時、人間に反旗を振り返すときだとか思っていたなんて事を考えたが現実的ではなかった。でも現に米多比さんは自販機に襲われていた。
「狙われるって誰に?」
「さあ、誰なんでしょう?」
じっと彼女を見つめるが嘘をついているようには見えなかった。
「とぼけたりなんてしてないですよ。でもこういうこって良くあるんです。私、運が悪いですから」
自販機に食べられるなんて運が悪いというレベルをはるかに超えているのではないだろうか。
それから彼女から少し話を聞いた。米多比さんはこの街にはまだ来たばかりだという事。誰かを探している事。そしてセーラー服を着ているが訳あって学校には行っていない事を教えてくれた。
そういえばと彼女が口を開く。
「フチさんは学生なんですよね、時間は大丈夫なのでしょうか?」
「あっ、」
急いで腕時計を見る。時刻は12時を過ぎていた。やってしまった。大遅刻である。午前中の授業を全てサボったことになる。話すのに夢中ですっかり忘れていた。
米多比さんが色々お世話になりましたと頭を下げて去ろうとしていたのだが、引き留める理由もなくて、ただ後姿を見送っただけになった。目をつぶり、よしっと気合を入れて立ち上がった。ふと彼女がいた方を見たがもう既に姿はない。元の見慣れた風景に戻っていた。今までのは本当は夢や幻覚だったとか実は米多比さんは昔、自販機に挟まれて亡くなった人の幽霊だとかなんて思いながら反対方向を歩こうとしたその時、どこからか声が響く。
「誰か、誰かいませんか。いたら助けてください。お願いします。もうこの際、人じゃなくてもいいですから。誰か!」
声の方に近づいてみると米多比さんの声は地面の下から聞こえた。どうやら、マンホールの蓋が開いておりそこにすっぽりと落ちたようだった。幻覚や夢、ましてや幽霊でもなく本当にツイていない人らしい。本日2度目の救難信号だ。