4話 転校生1
もしかするともう帰ってしまったのではと考えて一度、転校生のクラスに聞いてみたら、まだ鞄があるから校内にはいるんじゃないかという話だ。捜索を継続する。
でも、出会えたら出会えたで何を話せばいいのか。果たして「狙っているのか」とストレートに尋ねてみるのがいいのか、それとも罠を張って様子をみてみるか。悩む。やはりこちらから行くのだから攻めの姿勢で行くのが良いと思う。銃を持っていなくとも背後に立たれるだけで十分恐怖を覚えるという実体験を元に考えた。
それから図書館、パソコン室、運動場、体育館、保健室などなど手当たり次第に探ってみたが収穫はゼロであった。もしかすると部活動見学を行っているのかと思ったがそれらしい姿は見当たらない。
「あとは屋上ぐらいかな」なんて冗談交じりに言う。外から校舎を見上げ、屋上が見えそうな位置を探す。
「誰かいる」
無意識にそうつぶやいていた。見間違いや気のせいかもしれないと思い、目を擦りもう一度見上げるがやっぱりそこには誰かがいた。間違いがなかった。
「あれが転校生?」
真相を突き止めるべく、階段を上る。屋上へは五階から行けた。普段は四階までしか使われていない。五階は立ち入り禁止だったが容赦なくそのラインを超える。階段を上がる。もういないでくれと言う願いまで生まれた。
あと半分上がったら、答えが分かると思いながら足を上げていく。
屋上の扉までたどり着く、周りは薄暗い。使われていないのだから掃除も行われていないのが埃をみれば嫌でもわかるだろう。
息が切れている僕は考えなしにこの扉を開けた。そこには男が一人立っていた。昼間にうっすら見たあの男だった。やはりこの男が転校生なんだ。
まさか扉の前で待ち構えているなんて思いもしなかったから僕は後退りし、階段の淵でふらつく、このままでは階段から転がり落ちる。自分の防衛本能が危険信号を出していた。
あっさりとバランスを崩し、虚無を踏んだ。そうして転がり落ちた。
はず、だったが、なんとかまだ階段の上に居た。手を握っていてくれた。敵であるはずの転校生がだ。
よく考えれば、敵であると決まったわけではない。メダルを避けたのも転校、初日から面倒ごとに関わりたくなかっただけかもしれない。僕を見ていたのも何かわけがあったとか、例えば、あの時避けたのを気にして大丈夫かな、と心配してくれていたとかそういう事だったかもしれない。多分そうだ、落ちそうになった人を助けてくれた人が悪い人とは思えない。そう思えたのもつかの間。
「ふんっ」
僕は殴られた。階段で落下する所を助けて貰った命の恩人に、顔を。手を握られたまま。思いっきりぶんという風を切る勢いで殴った。なるほど。これが「ぶん殴るか」などと考えている間に相手を見る。相手はなんだか嬉しそうだった。僕は全然嬉しくない。頭が追い付かない。誰か説明して欲しかった。
「まさか、貴様の方から来てくれるとはなぁ。俺に勝ちに来たのか、それとも降伏しに来たのか?」
どうなんだ、と言ってまた顔を目掛けて拳が振るわれた。何も言えなかった。一撃一撃が重い。口の中が切れ、血が垂れた。口内は鉄の味がするもんだから、この拳も鉄の塊に見えてきた。幻覚だった。
手を握ったのは、逃がさない為だった事が分かった時には、もう遅く離そうにも、相手が強くて不可能だった。僕はこの手を命綱だとばかり思っていたが、どうやらこの手は手錠だったらしい。それなのにのんきなことを考えていた。結局メロンソーダ飲めてないなと後悔する。
相手の手を離しては貰えないから、蹴りを入れたいが僕の今の状態は階段の淵っこで片足だけで立たなくてはならない。言うならば崖っぷちに追い詰められて、鉄の拳のおまけつきだ。
これでは僕は風船みたいだ。白い線の上に風船があり子供たちはそれに向かってパンチするのと一緒だ。この場合、子供が転校生、僕の手が線で頭が風船と言った所だろう。
このままでは喋る暇もないまま、殺されてしまう。そんな恐怖が現れた。恐ろしく怖い、絶対に勝てない相手だと本能が言っている。あの手は何かあるんだ。しかし、それを確かめる手段はないから今は逃げに徹する。作戦はある。あの手をどうにかさえすれば、逃げ切る事も出来る筈だ。
運がいいことぐらいが僕の取柄なんだ。試してやる。自分自身の運を。
なんとかバランスをとって耐えようとしていた身体に今度はあえて力を抜いた。そして、一気に後ろに力を入れる。こちらの急な行動に相手は戸惑い、拳を振るおうとしていたのを急いで止めようとするが止められない。これには流石の転校生も驚いていた。そりゃあ、驚くだろう。自ら階段に転がりに行くのだから。巻き添えは誰だって食らいたくはない。そうならない為には離さなくてはならない。だからその嫌なことをした。手を。更に強く掴む。
相手が危険を感じてその手を離そうとするだが、その手を放すつもりは僕にはない。殴られてばかりというわけじゃないぞという事を示してやる。
「運試しだ」
やっとかと思いながら階段へ倒れる。ここからは運任せだ。運がいいと言われる僕の腕の見せ所というわけだ。腕じゃないし運ってどこに値するんだろう。やっぱ脳かな。
運の事を考えて思い出した。そういえば、最近朝の天気予報の後にやっていた占いやらなくなったな。




