1話 メロンソーダかコーヒーか
何か喋ってくれればなとぼやいた。あの場面を見ていたというか襲った張本人なのだから、もし動いて、喋ってくれたなら何故米多比さんが狙った理由とか君たちは一体何者なのだと問い詰める事ができるのに。
がこん、今日もいつも通りこの自販機で飲み物を購入した。あの時は、缶コーヒーを選んだのに誰かの自己満足のせいでメロンソーダが出てきたんだっけ。しかも、噴射した。
でも、味は悪くなく、好みの味だった。一年以上は通っているのに飲まなかったのが勿体ないと思えた程だ。メロンソーダは偽物の味だと思っていたから、あまり好きじゃなかった。つい、昨日までは。今はもう一度飲みたくて仕方がない、飲まずにはいられないという謎の中毒性に侵されている。
ボタンを押す。がこん、と聞きなれた音がして取り出す。
「缶コーヒージャマイカ」
じゃなかいか。出てきたのは缶コーヒーだった。昨日、買えなかったのに今日買えた。一周遅れの登場です、みんながおかえりと言っている。
飲みたい時には来てくれないのに、逆の事をすれば現れる。さては、天邪鬼という奴だな、この自販機。
つまりだ、今缶コーヒーを押せばメロンソーダが出るという事になる。すかさず、小銭を入れてボタンを押す。いつもの音と共に缶が落ちる。中身はなんと。
「コーヒーじゃん」
コーヒーだった。単に入れ違いだったという事か。でも、ここまでくると意地でもメロンソーダが飲みたい! という気持ちがとどまる事を知らず、ブレーキのない、ただ走り続けるデスチェイス。がこん、合図がありレーススタートとなった。絶対に負けてなるものか。
今回も結果からお伝えしたいと思う。敗北である。
「結果から伝えるのは社会でも必要とされる」と朝のホームルームで先生が言った言葉だ。更に続けて、「報告の時、目上の人に失礼のないように前置きをすると、お前の前置きはいらない。いいから、ただ結果から伝えろ。私は忙しいと言われる」そうこんな感じでと語ってくれたことがある、これは先生の実体験だったのだろう。きっと、朝の職員会議の時だと見当が付く。八つ当たりではないが愚痴だろうと僕は聞き流したつもりだったが記憶に残っていた。
敗北。僕の足元には、大量の缶コーヒーが置かれている。財布の中の小銭もお札
も全て投入したにも関わらず、缶コーヒー出ていない。
缶コーヒーを一本開けた。いつもよりも苦く感じた気がする。
「これが敗北の味か」




