表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイパーグッドラッキー  作者: 淀川宮古
プロローグ 記憶
1/21

「ねぇ、スベスベマンジュウガニって知ってる?」

 急な質問に最初何を言っているのか分からなかった。時間差で「知らない」と答えた。姉はこちらも見ないでそうだよねぇ、となんか競走馬の名前みたいだもんねぇと返した。競走馬にそんな名前のついた馬はいないでしょと僕は思っていたが、数年後変わった名前の馬もいる事を知る事になる。

 姉と僕の二人で競馬の放送番組を見ていた。日曜日は晴れだと言っていたのに大雨が降っている。両親が結婚当時に買ったと言われる黒色のソファは二人だけでは十分すぎるほどの大きさであり、当時はさぞ立派な我が家の家具の一員として緑山家の家具界の先頭にいた事だろう。けれどそんなトップ家具も常に第一線を走り続ける事は出来ない。結婚から17年経ち、黒いソファに腰を掛けると当時のような包み込まれるような座り心地もなくなり、綺麗だった表面もパキパキと割れ始め中の黄色いスポンジが見え隠れしていた。

 それでも現役で役目を果たそうと頑張っているソファに僕ら姉弟は座っている。姉さんは体操座りでテレビを真剣な顔で見ている。競馬中継だ。中学生の僕には茶色や白っぽい馬が緑色の道を走っているだけに見え、ましてやどれが人気の馬とか全然分からなかった。他にテレビはやっていないし、我が家でのルールでチャンネルの主導権は上から順番だったので姉が見たいと言った競馬放送番組を見ざる負えない状況で、勝手に変えてもいいがきっとまたすぐに戻されるだろう。そんな事を考えていると姉さんが、

「もし、この世の中に競馬の蟹バージョンがあって、言うならば競蟹が存在してさ、

 その中の一匹に、ワズカニって名前の付いた蟹とオダヤカニって名前のが、いたらき

 っと実況を聞いてる人は僅かにワズカニが勝ったのか他の蟹が僅かに勝ったのか分か

 んないよね」

 僕はその時、なんて返したのか覚えていない。そうだねと同意したのか何言ってるのと心配をしたのか分からない。最も姉さんが行方不明になる最後の会話だから答え合わせは出来ずにいる。今日もまた姉さんの夢を見た。今の僕ならなんて返すだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ