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第7話『魔王軍入軍試験③』

 この俺、煙託一終はあの美翠水蓮と言う小娘から並々ならぬ怪物性を感じた。

 きっと奴にも感情や好き嫌いはあるのだろう。

 楽しいと思う事もうれしいと思う事も、悲しいと思う事や怒りに身を包まれることだってあるに違いない。


 しかしあいつには道徳や倫理感と呼ばれるものが一切欠落している。

 自分の欲望や感情に忠実に生きることを何も悪いと感じられない、他人の精神性を本当の意味で慮れない。


 自罰や自責などと言う文字が辞書になく、どれだけ自分が悪いと知っていても悪人だからどうしたとでも言わんばかりに一歩を踏み出し、他人を踏みにじる怪物的思考

 人ではない獣の如き思考。


 その思考が俺は少しだけ羨ましかった。

 何一つ悩まず、相手が悪いとだけ考え復讐を行えるとしたなら――きっと地獄を地獄と感じずに済むのだろうから。


「そんな化物じみた女も、否、そんな女だったからこそ俺から逃げたと言うべきか。まあ、俺があいつを戦闘不能にするか、あいつが俺に一撃が入れられるか。どちらかの条件が満たされるまでこの勝負は終わらないし逃げられない。死なない程度に焦がし、サポート班にでも送って――」


 カッ!


 何かが岩にぶつかった音がした。みるまでもない。あいつの持ち物は金槌しかなく投げるわけもない。戦場は一面が岩場の不毛の土地である。

 この場で投げられるものなど一つしかない。


「投石か!」

 刹那、四方八方から岩石が飛び出した。分身を使っていることは容易に想像がつく。


 大きさは最大でもせいぜいボウリングの玉程度の大きさ。

 だが速度はゆうに300㎞を超えている。そんな砲弾ともいうべき代物がそれなりの精度で、同時に6個も7個も飛んでくる。俊敏性と耐久力が高い魔王の一族の体とはいえ確実な防御は不可能――。


「と言うのは能力がない場合だ」


 噴火鰻に自分を囲うように命令を出す。

 威力自体は所詮投石。噴火鰻が持つ、鋼鉄を超える硬度を持つ鱗を貫通することなど不可能。


「それどころか投石が仇となり位置を晒しているようなものだぞ・・・・・・!」

 岩陰に隠れたようだがもう遅い。


「焼き尽くせ噴火鰻」

 岩陰にむかって噴火鰻を飛ばし、障害物ごと黒炭に変えていく。最後の一か所は洞窟のように中が空洞になっているらしい柱状の岩で穴が小さく、噴火鰻の太さでは通れない。おそらくは噴火鰻の対策という事なのだろう。

 ならば攻め方を変えるまで。


「石柱に巻きつき締め壊せ」

 噴火鰻は命令通りに石柱にその巨体を巻き付け、簡単に破壊した。

「これで分かっただろう。俺と貴様の圧倒的差を、理解したならばおとなしく命を差し出せ。したならば、ここまでの戦闘から貴様にはそれなりの資質があると判断した! 命までは取らな――」

「なぜあなたの提案なんかに乗らなければいけないのですか?」


 耳に残ってしまうようなスカスカで暗い、空洞だらけの骨のようなソプラノボイスが響いた。

 俺は声が聞こえた方向。上空を見上げた。

 黒く、星の輝く空には、人影が浮かんでいた。

 美翠水蓮が、天にいた。


 俺は思考を巡らせ、状況を分析し――結果としてフリーズしてしまった。

 致命的な隙だった。


 俺の頭頂が金槌で殴打される。大地震の震源にいると錯覚してしまう程の衝撃。

 俺の体勢が崩れる。マズい。と思う間もなく顔面に容赦の無い二撃目が放たれた。

 意識が途切れていく。なぜ、何が、どうして、数々の疑問が湧き出る。そしてその中で一番の疑問を美翠水蓮にぶつけた。


「なぜ、ここまでできる」


 圧倒的な実力差を埋める、その動機をモチベーションを聞いた。

 どうしてそこまでのことができるのか、それが知りたかった。

 彼女は一瞬の考える間もなく、条件反射のように答える。


「友達を作るためです」

一口メモ

煙託一終の仮面の材質は、石。

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