第60話『悪の華の終わりなき青春』
「べ、べつに感謝なんかしていないんだからね! 隊長!」
本郷独子ちゃんは、少し頬を赤らめながらそう言った。
「まあ別に感謝はしなくてもいいですよ。求めてませんし」
右手に付いた改造義手を弄りながら、私は答える。
日常用と戦闘用で全然勝手が違うから、操作感度とかすり合わせないとつかいにくいのだ。
「じゃあもう一回ルール確認しましょう。独子ちゃんの勝利条件は私を殺すこと。勝てば魔王軍第21戦闘部隊の運用権限が与えられます。そして私の勝利条件は、貴女を地面に倒れさせること。もしできた場合は――」
義手の調整が終わった。これで、万全。
「私のことを、隊長ではなく水蓮さんと呼んでくださいね」
はいそうです。美翠水蓮です。
生きています。死んでないです。
死ねよ、ビ〇チって思った人多いですか?
それとも意外と死んでいなくて喜ばれたり?
一番ありそうなのはなんか生きている・・・・・・って困惑しているパターンな気がしますが。
流石にこのまま生き残った理由をご想像にお任せしますとするわけにもいかないので、あそこから生き残った理由を過去回想とともに説明しましょう。
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街のあちこちから破滅の音が聞こえてくる。
地獄で母と父になんて挨拶をしようか、などと考えていた時、流星が起こす破滅とは違う種類の音が、遠くから聞こえた。
ドスンドスンと・・・・・・巨大な獣が跳ねているような音だ。
それが、どんどんと私の方向へ近づいてくる。
「・・・・・・こんにちは。なんのようですか?」
音の持ち主は、もう私の前まで来ていた。
そこに立っていたのは霊長類かどうかも怪しい存在だった。
ごつごつとした岩石を思わせる赤色の肌、不気味なほどに一切黒い部分の無い真っ白な白目、額にキリンのような角に、ライオンのようなたてがみに、象のような牙。
私はそれが人であること。
そしてそれがどんな名前を持っているのかを知っている。もっとも、今の今まで存在を忘れていたが。
「生きてたんですか――銅ヶ岡さん」
人体改造をされた、魔王軍第21戦闘部隊の怪物。銅ヶ岡文殊さん。
「いやーそれにしても不運ですね。せっかく生き残ったと言うのにこんなことになってしまって」
いくらなんでも、この人だってあの隕石を何発も受けてしまえば無事では済まないだろう。この人も時期に死ぬ。
「そうだ、私達友達になりませんか? 最後に一緒に死ねる友達が欲しかったんですよ」
何の気も無しに、私は言った。何の打算もない、素直な言葉だった。
だが私の言葉を聞いた途端、彼は豹変した。
「ぐがぁああ!」
目にもとまらぬ速さで私を抱きかかえたのだ。
「え、なに! え!? なんなんですか、離してください!」
しかし銅ヶ岡さんは離してくれない。どころか、より力を強めているように感じる。
(なぜ──どうして──)
右手を失い、力が抜けた私は銅ヶ岡さんに抵抗することができない。徐々に思考がぼやけてくる。
意識を失う直前、銅ヶ岡さんの顔を見た。
鬼のような顔なのに、どこか安心感を覚える顔だった。
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回想終わり。あの戦争の話はこれで終わりだ。
私の目が覚めた時、T都は壊滅していた。
私の体の上には銅ヶ岡さんの亡骸があった。
彼の頑丈な身体は、隕石に貫かれることなくそこにあった。
なぜ守ってくれたのか、なぜあの人はあんな行動をしたのか。それがわかる日はきっと来ないのだろう。
それでも妄想することは出来る。
私と一瞬でも友達だったから――だから、助けてくれたんだ。
私は、あの日のことをそう解釈して生きている。
メタホエール号に帰り、棺が死んだことを知った。
恨みはないが、あいつは普通に地獄に行ったんだろうなと思う。あいつが天国に行けるなら世も末だ。
で、私は数少ない戦争の生き残りとなった私は棺の欠番を埋めるように第21戦闘部隊の部隊長となった。
そして今、私はその座を賭けて戦っている。
戦っていた。
私たちは今、紫のアカベコに乗って魔王軍第21戦闘部隊の部屋に戻ろうとしていた。
「いやー『蝗の屍』。洗練されていましたよ。最後のドロップキックとか、ちゃんと当たっていたら私死んじゃいましたよ」
「・・・・・・負けたら、意味ない」
「そんなことないですよー。私が、能力を使わなくても強いってだけです」
流石にまだ実戦経験もない独子ちゃんに負けたりしない。もう5年も戦場に居るのだ、流石に経験が違いすぎる。
「能力みたいなものでしょ。あんな義手」
「簡単に言いますけど、あれ使いこなすのに1年ぐらいかかりますからね? そう一朝一夕で使いこなせるものじゃないですよ・・・・・・。そんなことより、今日はみんなにサプライズがあるんですよ!」
独子ちゃんを私の言葉で慰めることは出来ない。そう判断した私は、戦いが終わった後に話そうとしていた話題について口にする。
「もう他のみんなには言っていますが、独子ちゃんにだけ言い損ねていて」
「なによ?」
「新しい仲間ができます」
独子ちゃんの足が止まった。顔が真っ青になっている。
「いやだ! 私帰らない!」
「大丈夫ですか!? 戦っている時に私なんかやっちゃいましたか!?」
「冗談じゃないわよ! 隊――水蓮の連れてくる奴って、だいたいヤバい案件の副産物かサイコじゃない!」
「大丈夫! 今回の子もいい子ですから!」
ちょっと魔王軍の暗部がその子の生まれに関わっているが、本人はまともで良い子だ。
「すぐに仲良くなれますよ」
魔王軍第21戦闘部隊の部屋についた。
あくまで抵抗しようとする独子ちゃんを義手で掴み、私はドアノブを掴む。
昔、ここに初めて来たときのことをふと思い出した。
あの頃ここに居た友達は、皆死んでしまった。
でも、皆の残した物は私の中に残っている。
私が生きている限り、それは滅びない。
それが、5年かけてやっとたどり着いた、私の結論。
扉を開く。
「ただいま」
――私の青春は、成長は、まだまだ途上だ。
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完結です。私の描く美翠水蓮の物語はこれにてお終いです。
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